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関数男物語〜灼熱のヒト02〜
ようやくのことで最後の一人分の所見シールを貼り終えた数男は、冷蔵庫から冷たい麦茶をコップに注いで一息ついた。しかし、周りを見渡せば未だに通知表作成に四苦八苦している職員が多い。中には、今ごろになってもテストの採点をしている者までいる。
「これは、まずい…。」
学期末という大義名分を得て、堂々と時間外労働を「仕方ない」とする表計算小の職員室の雰囲気に数男は危機感を覚えた。普段、比較的早く帰宅する学年主任の田中明子でさえ作業のゴールは見えていないようで、必死に成績ハンコを押している。
一応、学期末に向けて学年の仕事の分担は決めていた。学年で揃えて配付する予定のものを印刷するのは、明子の担当になっていたのだが、この分ではどうやら印刷まで手が回っていないようだ。
「田中さん、学年便りとか印刷しておきますよ。」
自分の仕事を終えた数男は、明子の分の仕事を引き受けることにした。しかし、
「ありがとう。でも…。」
と言って、明子は印刷室の方に目を向ける。すると、湿気を吸った紙の影響で深刻な紙づまりを起こしている印刷機と格闘している事務職員の山村の姿が見えた。
「あれじゃあ、まだしばらくは印刷できそうにないから…。この通知表が終わる頃には治っているといいのだけど。」
と明子は、半ば諦めながら通知表作成作業に取り組む。表計算小では、職員のパソコンは、2台の印刷機に接続されている。そして、課題のプリントや会議の資料などを印刷する場合には、
①プリンターから原本を印刷する
②一定枚数以下なら印刷室のコピー機を使用する
③大量に印刷する場合は、印刷室の印刷機を使用する
というルールになっていた。学年便りの場合は、③の方法に該当する。しかし、現在、その印刷機が限界を迎えている。また、2台あるプリンターの内の1台も不調で、先ほどから教務主任の高木が必死に対応していた。
「そうだ!」
ふと、数男の脳裏に妙案が浮かんだ。数男は、教頭の佐々木に打診しにいく事にした。