札幌でおいしいお酒とごはん #6「余市酔いどれ酒旅」(佐々木禎子)
雲丹旅行の二日目。
起床して三十分後に藤沢チヒロさんがナチュラルにハイボールを飲みだした。
「え!?」
さすがの私もナチュラルにそう声をあげてしまった。
「氷があるし」
みたいなことをチヒロさんが言っていたような気がする。「ハイボールあまってるし」とも言っていた気がする。
なにせ、昨日、部屋で飲もうとコンビニで買ってきた酒が冷蔵庫のなかに残っているのである。「この酒たちを置いていくか、あるいはどうします? 持ち帰る?」という選択肢で「まず、飲もう。飲めないぶんは各自鞄に入れて持ち帰り、自宅で飲もう」という結論にチヒロさんが至ってしまったのだ。
「荷物を軽くするためにはまず飲もう」
驚きつつも私は「このテンションについていかないと、大変だ。ひとりでシラフだと一日が長くなるぞ」と思い「わかった。私も飲む」と自分もグラスでハイボールを飲んだ。
酒を置いていったり捨てたりすることのできない飲んだくれたちであった。
かくして「雲丹旅行」あらため、朝食前にハイボール決めてから宿の美味しいウニ丼たちをいただく「酔いどれ酒旅」がはじまった。
強い肝臓を与えてくれた両親に感謝しつつの旅である。
チヒロさんとの雲丹旅はこれで三度目なのですが、たいがい酒にまみれている。そしてたぶんチヒロさんは雲丹旅でいつも二日目の朝に酒を飲んでいる。私もそろそろ彼女との旅は酒でスタートし、酩酊で終わることを学習しはじめていた。
というわけで今回の雲丹旅は計画もゆるゆるで、宿だけ決めてあとは私の強い希望で「余市にいきたい」というだけ。
アクティビティの予約や下調べなどは私は一切していなかった。チヒロさんは下調べしてくださっていたようなのですが(チヒロさんは、えらいのでちゃんと計画する人)、しかし私はチヒロさんが前年度にいろいろと歩いたせいで「とても、きつい。予定がつまりすぎている」とへたれこんでいたことを覚えていた。
宿で雲丹食べて酒飲んで火祭りまで見たのであとはもうオマケでいいじゃん。ねー。という気持ち。
あんまり動くとへろへろになるってば。
仕事しすぎだし、お疲れのご様子ですし。
なので、朝になってから美国神社に歩いていき、朝の神社の様子を眺めて、火祭りのお片付けをしていらっしゃる皆さんに「おはようございます」のご挨拶とともに火祭りが素敵だった感想を伝えたりなんだりし、お話を伺い、おみくじと御朱印をいただく程度で美国の観光は終了。おみくじが「水神籤」で水に浸すと言葉が浮かぶやつで楽しかったです。
そんな感じで、だらっとして、余力を残してもらいつつ、私も余力を残しつつ、朝食後はバス時間あわせでチェックアウトし、余市に向かう。
私がどうして余市にいきたかったかというとニッカなのよ。ニッカで余市限定のウイスキーをお友達ズに送りたかったのよ。
私も好きなのですが、お友達で余市蒸留所 https://www.nikka.com/distilleries/yoichi/ の限定のウイスキーが好きという人が何人かいましてね。現地でしか買えないので、買って、送りたかったの。
いま余市のニッカは事前に予約しないと見学不可で、見てまわる範囲が限られている。でも売店は予約してなくても入れます。あと有料のバーカウンターも入れます。
お買い物をし、宅配の手続きもすませ、あとはぶらぶらとバーカウンターに向かい、せっかくだからウイスキーで乾杯。
飲んだのは「ニッカ 余市 10年 シングルカスク 59度」と「ニッカウヰスキー 鶴 ノンエイジ」。
ガツンと重いシングルカクスにフルーティーな鶴。
重いといえば、互いの鞄も重い。私も飲み残しの日本酒とハイボール缶を鞄につめている。チヒロさんは仕事道具一式(PCなどなど)にウイスキーのボトルやビール缶などもぶち込んでいる。重い荷物を抱えて歩く、お外は暑い。酒もまわる。水も飲もうね。少し休まないと、へろへろになるよなあ。
と、気をつけつつも、私はえんえんお腹がいっぱいで「お昼ご飯いらない」とワガママを言い、次はタクシーに乗りオチガビワイナリー https://www.occigabi.net/ に移動となりました。
ここではチヒロさんがワインを購入。
そのままふたりで、薔薇の花や葡萄畑に、犬のレオナルドくんがきゅいきゅいいうのを眺めて、ワインを飲んでボーッとして時間が経過。私はルージュのスパークリングで乾杯。なみなみと注いでいただいた。このとき、チヒロさんはなに飲んでたかなあと、このあたりはそろそろ私の記憶があやしくなってきている。日を浴びて、歩いて移動して、朝からお酒を飲んでっていうので、ふわっふわしておりました。
ちょうどいい天気で、心地がよくて、こういうのいいなあってほけーっと。
互いに二杯ずつワインを飲んで。
この時期に、爽やかな風に吹かれての北海道の外飲み最高です。
オチガビさんは雲丹旅の帰りにふらっと寄らせてもらってることが多いお気に入りの場所です。毎回、レストランは利用せずにちょっとだけ飲んで、なにかつまむ程度なのですが(だいたいいつも満腹なのよ)そのうちレストランで料理を楽しみたいと思ってます。
そうしていたらチヒロさんが時間確認をし「いま余市駅に帰れば余市から札幌行きの直通のバスに乗れる」と。じゃあそれで帰ろうと余市駅に戻る。
無事にバスに乗り、もう体力もつきかけ、互いにうつらうつらしている。仕事道具がはいった重たい鞄を持ち歩いてたチヒロさんは相当疲れてたんじゃないでしょうか。私も、そんなに体力あるほうじゃないので、よろっよろしています。
ハッと起きて話をしたり、あるいは、ふわっと眠気に襲われたりというなかで、
「札幌ついたら、しめに飲み会を」
という話になり(まだ飲むのか。はい。まだ飲むのですよ)おつきあい上手な秋永真琴さんをいきなり呼び出すことにする。
考えてみたら「雲丹食べて朝から酒飲んでふわふわしていてでも札幌で旅の〆にビール飲みたいから、一緒にどうですか」という呼び出しに応じてくれる秋永さん、いい人だなあ。やってくるふたりとも酔いどれよ?
かつ思い返すと、藤沢チヒロさん本当に飲むなあ……。
どこで飲むかをバス移動中にちゃっちゃっと検索するチヒロさん。
最終的に東急百貨店の屋上のビアガで飲むことになりました。
この時期に、爽やかな風に吹かれての外飲み最高です。(二回目の主張)
東急の屋上ビアガ、はじめていったんですが、おすすめです。気持ちいいよ!!
秋永さん合流と共にビールやレモンサワーなどを飲み、あれこれ話したところでまた移動。どうしますかーってなったところで「まだ飲みたい」と! 藤沢チヒロさんが!!
でもそうなのよね。ある程度酔っ払うと、もう、酒の終わり時がわからなくなることがありますね。へろへろなときほどそうなりがち。とことん飲みたくなりがち。
ところが札幌の金曜の夜、手軽な店はどこも満席で入れない。飲食業の景気が戻ってきたのかなと思うと喜ばしいことである。が、店がみつからないのは困ったことである。うろうろと札幌繁華街を移動する三人。最終的に秋永さんが穴場の中華屋さんに連れていってくれて、そこでビールにハイボールに紹興酒などを飲む。穴場だったので、この店は公開せずにそっと秘めておきます。(穴場が、穴場じゃなくなると、つらいから。笑)。
ところで、まだ飲むのか。まだ飲むのです。
ここにきて、私がまだハイボール飲んでるのを誰も止めないが、紹興酒を頼む藤沢チヒロさんを私も秋永さんも止めない。
酔っ払いなので、ふたりとも、もうたいした言葉も出てこない。
「干豆腐大好き」
「干し豆腐って好き嫌い考えたことないし、自分で調理したことのない食材だ」
「え。わざわざ探して買ってきて作るめくらい好きな食材ですよ」
「へー」
みたいなこととか、
「ピータンて綺麗だよね」
「餃子の形かわいい」
とか。
そういう話をして雲丹のことをまったく語らずにひたすら中華料理を褒めながらその日の夜は更けていったのです。
豪勢大人の雲丹旅ではじまり、朝からハイボールで酒の缶や瓶で重量ましましの鞄を持って移動の体力増加旅の酔いどれで終わる。見事なくらい、楽しくも、酔っ払いな旅でありました。
これはこれで大人しかやれない旅だなあと思った次第。
●ニッカウヰスキー 余市蒸留所
https://www.nikka.com/distilleries/yoichi/
●オチガビ
北海道余市郡余市町山田町635
https://www.occigabi.net/
文章・佐々木禎子(雲丹とハイボールが好きな作家)
https://twitter.com/cheb1988
http://instagram.com/cheb1988/
写真とキャプション・藤沢チヒロ(酒クズ)
https://twitter.com/uwabamic
https://www.instagram.com/kulahkitamori/(食べ物)
https://www.instagram.com/uwabamic/(イラスト)
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