鴨川の夜、マジックのお兄さん。
「鴨川等間隔ってそんなに等間隔でもなくない?」なんて面白くないことを考えている私にも面白い出来事は起きる。いや、私が面白くなさそうだから集まってくるのかもしれない。
ある夜、友達と鴨川でお酒を飲んでいた。いわゆる「鴨チル」というやつだ。四条と三条の間、やや三条寄りの西側。あらゆる大学生がこぞって飲んでいるチャミスルを初めて飲んだ。度数が高いので敬遠していたが、なかなかに美味しかった。そりゃ売れるよな。なんて上から目線で考える。酒弱いくせに。面白くないな、自分。
二人組がポツポツと程よい間隔をあけて座っているうちの一組に、私たちもなっていた。修学旅行生とおぼしき集団が歩いて行くのを目で追いながら、あの頃が一番楽しかったな、なんて思いを馳せる。昔は昔で、悩みなど尽きなかったはずなのに。
「自己肯定感の言葉の意味がわからない」
と言う友達に、自己肯定感とは何かを必死に説明しようとしていたら、全身黒い服を着た30代くらいのお兄さんが話しかけてきた。いや、見た目で人の年齢を判断するのは失礼なのではないか。まあいいか。
「マジック興味ありますか?」
「まあ…はい。」
こういうとき、だれも「興味ないです」とは言わないだろうと思っていると、お兄さんのマジックが始まった。トランプを使ったマジックだ。そのトランプ、ドンキで買ったらしい。どうでもいいか。そういえば目の前でちゃんとしたマジックしてもらうの初めてだった。すごかった。語彙力が無いように思われるかもしれないが、びっくりしたとき人は「なんで?」「すご」くらいしか言葉が出ないものである。視線誘導を使ったマジックだったらしい。悔しかった。
「まだ見習いみたいなものですが、もし良ければチップをいただけると励みになります。」
と言うので、友達が1000円札を渡した。あ、このときのお金、渡してなくてごめんね。お金を綺麗に折りたたむと、マジックのお兄さんはお礼を言って、また鴨川の夜を歩き始めた。
「あの人、普段何してるんだろうね」
「サラリーマンかもね」
「投資家かもしれないね」
そんな話をしていると寒くなってきたので河原町の方に戻った。あれ、自己肯定感の話、そういえば途中だったな。また話そうね。
友達との夜の時間に良いスパイスとやらを与えてくれたマジックのお兄さん、早く一人前になれるといいな。そんな不思議な夜の話。
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