第1話 吹奏楽と高校受験
中学3年生の9月、吹奏楽コンクールの挑戦が終わり、部活動を引退した娘。次は高校受験に向けて動き出すことになった。
私が高校受験を経験した約30年前とは環境が大きく変わった。オープンスクールという名の見学会が行われるようになっている。
入学前に興味のある学校の雰囲気や施設を見て回ることは、希望校を選定する過程において大きな判断材料になることは間違いない。
娘は高校生になってからもクラリネットを続ける意向。それを一つの柱として高校を選定していく方針のようである。
私が『この高校は良いよ。この高校はダメだよ』などと話をしたところで、聞く耳を持たない年頃の女の子だ。
私の意見は、実態とはかけ離れた古い記憶をもとにしたものであり、聞かない娘はある意味賢い。気になる高校のオープンスクールへ、粛々と送迎をする。
部活動体験では吹奏楽部に入り、その場の雰囲気やレベルを体感する。学校によっては楽器持参で合奏へ参加できる仕組み。
終了後にアンケートを記入。希望度合いと学校の基準に合わせ、私立の高校は推薦の依頼をしてくる。
音楽科のある高校は親同伴で半日ほど見学させてもらった。クラリネットレッスンの先生の母校である。音大や音楽関係の仕事を視野に入れている子が多い印象。私のイチオシ。
全部で5校を見学。それぞれ空気感が違って興味深い。
古豪T高校では楽器のパーツを指定してきた。クラリネットのリガチャーを部内で統一しているようで、統一感のある音色を出したいとのこと。そりゃ無いわ・・・、ロボットじゃあるまいし。しかし娘は合奏練習で良い印象を持っていた。
K高校では楽器のメーカー・パーツは自由。とにかく入部してほしいオーラ全開の吹奏楽部。新しい顧問の先生が赴任し、近年上り調子の学校。何でも挑戦する雰囲気。
娘の印象はあまりよろしくない様子。音楽室のニオイが臭い。何を?言っているのか謎だけど、感覚的に合わないと思ったそう。
そして私と妻の母校であるH高校。私はあまり印象はなく、これといった特徴の無い学校。近年は定員割れが続き、昨年度の志願倍率は0.6倍である。しかし吹奏楽は現在三年連続で支部大会進出中。保守的で謎の多い学校。一応進学校という位置付け。
音楽科のあるN高校。普通科も併設しているこの学校は他と少し違う雰囲気。
親子で体育館に科ごとに分かれて説明を聞く。普通科は親子(父か母いづれか1人)か、子供だけの参加者が多いが、私と娘がいる音楽科は両親と子供の3人組が多い。
音楽科だけの説明では在校生が次々とピアノの演奏を披露。そしてバイオリンやチェロの弦楽器。吹奏楽感はゼロ。イメージはハリーポッターの学校生活。
最後のY高校は実業高校。授業内容は実践的で社会人の私からすれば1番好感の持てる学校。吹奏楽部は少人数ながらまとまっている感があって印象は悪くない。娘は付き合いで見学をしたようだが、まんざらでもない様子。
あとは娘自身が決めること。
分かっているつもりだが、つい親として口を出してしまう。私はアドバイスのつもりだが、娘からすればただのストレスw
11月、古豪T高校と、音楽室のニオイが気になるK高校から推薦入学の依頼がきた。
私はどちらもアリだと思っていた。本人も話を聞いてみたいようで、親子面接を受けることになった。
全く次元の違う話ではあるが、気分はプロ野球のドラフト入団交渉のようなイメージ。
私と妻、そして娘の3人と顧問の先生との話し合い。2校ともザックリした面接で、本気で娘を獲りにきているのか疑問を感じる内容だった。事務的で熱さを感じない。
あとは娘がどう評価するか。
定期演奏会や合奏のイメージは恐ろしい。たまたま調子の悪い演奏をしたとしても、それは学校のイメージとなり、第一印象として強く残ってしまう。H高校の合奏は娘の印象に強く残ったようだ。
そして1月、本命を私と妻の母校であるH高校に決めた。併願で受ける私立高校は推薦を断った古豪T高校。
金銭的な事を考えれば『なんてことをしてくれたんだ・・』となる。
推薦入学で学費もある程度優遇を受けられる条件を断り、一般入試でT高校を受けることになるからだ。
しかも本命H高校の受験前に、T高校へ入学金の一部を納めなくてはならない。
入試は私立校にとって最高のビジネスだ。
やがて無事にH高校の合格通知を受け取ることができた。ガチガチの保守的な公立校、中学時代のように保護者が自由に関われる雰囲気ゼロの吹奏楽部。
少し楽しみがあるとすれば、1年生が28名吹奏楽部に入部したこと。
3年連続、支部大会出場中の吹奏楽部は小編成(B編成)である。1年生の加入により、ルール上、来年度は大編成(A編成)となることも同時に決まった。
その年のコンクール課題曲を聞ける。中学時代は一度も経験したことがない。
三年生9人、二年生11人、そこへ娘のいる一年生が28人である。
戦いが始まった。
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