新入社員研修講師の教科書

エンジニアからプログラミング講師に転職して2年ほどたちました。
一旦この時点での私の新入社員研修の講師としてのノウハウをまとめておこうと思います。
主にIT企業の新入社員向けに3ヵ月研修を実施して、プログラミングや社会人としてのヒューマンスキルの指導などをしています。
プログラミングに限らず、研修の講師の仕事をしてみたいという人に向けての記事です。
結構長い記事になったので、全部読むの面倒な方は気になった部分だけでもどうぞ。

構成は以下の通りです。

自信の持ち方

講師になるにあたって、何度か模擬授業をしました。模擬授業をしている中で強く言われた言葉が、「自信がなさそう」でした。

講師が自信がなさそうに講義をしていると、聞いている受講生が不安に思ってしまうため、自信がなさそうに見える立ち振る舞いはNGです。
そのため、講師をするにあたって、「自信を持つこと」が自分の中の課題でした。そこでまずは私なりの自信の持ち方のノウハウについて書きます。

自信とは
自信を持つためにはまず自信の正体を知ることが大事です。
自信とは、記憶に基づいたイメージです。
これは、自分の体験や課題に対するイメージとの相対関係によって決まるもので、誰でも得意なものには自信を持ちやすく、苦手なものには自信を持ちにくくなっています。
一般には何かを成し遂げた体験の数が自信の強さになります。
過去の体験を変えることはできませんが、自信を持つための一つの要素として、様々な体験をすることが大事です。

自信の正体が分かったら、次は自信がある人と自信がない人ではどのような違いがあるかを見ていきましょう。この違いを認識して、自信がある人の振る舞いができるように意識することが大事だと思います。

自信がある人の特徴
・自分の強みと弱みを把握して、ありのままを受け入れている人
・自分は自分、他人は他人と線引きできる人
・「できる」という感覚を持っている人
・自己主張ができる人
・自分の挫折を認めている人

自信がない人の特徴
・勝ち負けにこだわる人
・ちょっとしたことで怒る人
・人を批判する人
・人をほめない人
・自分の挫折を認められない人

自信をつくる
根本的に自信をつくるには、成功体験を積むことが一番です。
そのためには、積極的に多くの体験をすることが大事です。
また、内面の話をするなら、自分がどうありたいかを大切にすることも重要です。
失敗や成功・成果の大きさにこだわってしまうと、どうしても自信がなくなることがありますが、自信を持つためには、結果がどうだったかにこだわらないことが大事です。自分はこうありたい、というチャレンジの結果に左右されない自分の価値観を大切にしましょう。
また、自分自身に「できる」と思いこませて、自信に満ちた自分をイメージして振舞うのも効果的です。

自信があるように見える振る舞い
自信があるように見えるかどうかは、どのように振る舞うかで大きく変わってきます。まずは背筋を伸ばして堂々と立つこと。そして、ゆっくりと動くことです。せかせかと動いていると、慌てていててんぱっているような印象を受けるため、自信がないと思われてしまう場合があります。

自信を持てないときは
誰かから批判を受けてしまうと自信を無くしてしまうこともあります。
批判を受けた時は、相手からどう思われているかを考えず、自分が相手の役に立てているかどうかを考えることが大事です。また、批判をする人は自分に自信がない人だ、と認識しておくことで、自信喪失を防ぎやすくなります。

不安と自信は両立できる
やったことがないことに挑戦するとき、不安を感じて自信を持てない人もいるかもしれません。ここで大事なことは、不安と自信を分けて考えることです。誰でも、やったことがないことに挑戦するのは不安です。人間は未知なものについては不安を感じる生き物なので、それは仕方のないことです。
不安を感じながらも、自分がどうありたいかを大事にして自信を持つことは可能です。不安だからといって簡単に自信を失うことがないようにしましょう。

声の出し方

模擬授業をしたときに自信のなさと共に指摘されたのが、声です。
私は普段話すとき、声が小さく、講義の時もやはり声が小さいと言われました。人前で話す習慣もほとんどなかったので、大きい声を出そうと思っても、なかなか思うように大きな声が出せません。
そこで、本を読むなどして正しい声の出し方を勉強しました。
ここからは、大きな声で話すのが苦手な人に向けた声の出し方についての話です。

声の大きさは吐く息の量で決まる
声の大きさが何によって決まるかは、声の出し方に関する本を読んで初めて知りました。声の大きさは吐く息の量で決まるのだそうです。
つまり、大きな声を出そうと思ったら、吐く息の量を増やすことを意識しなければいけません。
その知識がないまま、ただ体に力を入れて声を大きく出そうとしても大きな声は出ません。むしろ、体に力が入ると喉が絞まってしまい、逆に吐く息の量は少なくなってしまいます。
まずは声の大きさが吐く息の量で決まるという事実を知ることが大事です。

腹式呼吸の意味
腹式呼吸という言葉をご存知でしょうか。おそらく名前だけはほとんどの人が聞いたことがあるかと思います。
ただ、それがどんなものか具体的には知らない人は意外と多いのではないかと思います。
私は普段から声が小さかった(今も講義以外の会話は小さいですが。。)ので、腹から声を出せとよく言われることがありましたが、正直あまり意味が分かりませんでした。
だって、声が出るのは誰がどう見ても喉からのはず。お腹から声を出すとはどういうこと?といつも思っていました。
これも、声の出し方の本を読むことで意味が理解できました。
腹式呼吸とは、お腹の中の筋肉(たしか横隔膜筋)を使うことで肺を押し出し、吐く息の量を増やす呼吸法のことです。
人間は空気を吸ったとき、吸った空気は肺の中にたまります。その肺の中の空気を横隔膜筋を使うことで一気に押し出すのです。
声の大きさは吐く息の量で決まると言いましたが、腹式呼吸を意識することで、通常の呼吸よりも吐く息の量を増やすことができるため、結果として声が大きくなるということです。
肺や横隔膜筋が体のどの部分にあるのかよく分からない場合は、ネットや本で調べて場所を把握することで、より腹式呼吸がイメージしやすくなります。

口を大きく開ける
口を小さく開けるのと大きく開けるのでは、出ていく空気の量が変わるので、当然声の大きさも変わります。
口を大きく開けるメリットは声の大きさがだけではありません。
口を小さくしか開けていない場合は、声がこもってしまうため、そもそも聞き取りにくくなったりします。
聞き取りやすい声を出すには、口を大きく開けることが大事です。
声が小さい人は、自分では大きく開けているつもりでも、意外と小さくしか開けていなかったりする場合があります。
鏡を見たり、指が何本分入る大きさかなど、客観的にどのくらい口をあけられているかを確かめてみましょう。
日頃から意識して口を大きく開ける練習したりすることが大事です。

目標を定める
大きくて通りやすい声を出すのに意外と大事なのが、どこに向けて声を出すのかという目標を定めることです。
例えば、そこそこ広い会場で前に立って話すとき、一番前の席の人に話しかけるのと、一番後ろの席の人に話しかけるのでは声の届け先が大きく変わるため、意識も変わります。
見える範囲で一番後ろの人に向けて声を出すように意識することで声が全体に届きやすくなります

人前で話すコツ

ここまでで自信の持ち方と声の出し方について書いてきましたが、自信があって声を出せるようになったからと言って、人前で話すのがうまくなるわけではありません。
人前で話すにはそのためのコツがあります。

対話を意識する
人前で、特に講師として大人数の前で何かを教える場合、一方的に講師が受講生に教えているイメージが強いかもしれません。
しかし、人前で話すのも、基本的には1対1のコミュニケーションと同じと考えた方が良いでしょう。
相手に対して問いかけたりしながら、同じ空間にいる全員で一つの講義を作り上げているという意識で取り組むことが大事です。
対話をする上で大事なことは、きちんと相手の方を見て話すことです。
慣れないうちは緊張するからあまり見れないと思うかもしれませんが、相手を見て話すと、聞いている側も自分に話しかけている、と思って話しを聞いてもらいやすくなります。
1対多の場合でも、相手と面と向かってコミュニケーションする意識で話すのが良いでしょう。

緊張はしてもいい
人前で話すのは緊張するから苦手だと思う人も多いかもしれません。
確かに、慣れていないと人前で話すのはそれなりに緊張します。
でも、緊張はしてもいいです。緊張というのは、失敗したくないという気持ちの表れです。それはつまり、本気で取り組んでいる証です。
だから緊張すること自体は何の問題もありません。
むしろ、あまり慣れていないにも関わらず全く緊張しないという方が問題かもしれません。適度に緊張感があった方がパフォーマンスは上がるという話もよく聞きます。
慣れないうちは極度に緊張してしまう人もいるかもしれませんが、それについては場数を踏めば慣れてきます。全く緊張しなくなることはないかもしれませんが、場数を踏めば極度に緊張することは少なくなります。
ただし、緊張はしてもよいと書きましたが、ダメな緊張もあります
それは、練習不足からくる緊張です。事前に練習不足だった場合、そもそも成功するはずがありません。万全の準備をした状態での緊張こそ、良い緊張といえます。

話すことを楽しもう
人前で話すコツで最も大事なのは、その場を楽しむことです。
対話を意識することと連動する部分もありますが、相手との対話しつつ、その対話を楽しむことが人前で話すコツです。
目の前で話している人がつまらなそうにしていると、それを聞いている人たちもつまらなくなります。逆に目の前で話している人が楽しそうに話していると、聞いている人も楽しい気持ちになってきます。
話すことを楽しむためのコツの1つは、笑顔で話すことです。
話している人が笑顔だと、話を聞いている人も自然と笑顔になり、気持ちも楽しくなってきます。

身振り手振りを付ける
体に何の動きもつけずに声だけで話すより、身振り手振りを付けて話したほうが聞き手も話の内容が入ってきやすくなります。
ポイントはできるだけ大きく動くことです。
動きが小さいと、自信がないように見える要因にもなりますので、動きを付けるならできるだけ大きく動くことがポイントです。

ミスしても慌てない
人前で話しているときに想定外の出来事が起こったり、自分の段取りがうまくいかずにミスしてしまう事はあります。そういうときに大事なのが慌てないことです。
講師が慌てふためいてしまうと、受講生は不安を感じてしまいます。
自信を持つことともつながりますが、何かアクシデントが起こった時でも、講師は落ち着いて冷静に対処することが大事です。
人間なので内心は焦ることもあるかと思います。ただ、焦っていても、せかせかと動かないで、ゆっくり動くように意識すると、落ち着いているように見られるようになります。

シミュレーションと練習を繰り返す
人前で話すための心がまえは色々と書きましたが、上達の近道はやはり場数を踏むことです。
人前で話す機会がなかなかない場合は、頭のなかでシミュレーションを何度も繰り返したり、自分が話している様子を録画して自分自身でどう見えるかをチェックするのが上達の近道です。

判断に迷ったときの軸を持つ

講師は自信を持って堂々と振舞うことが大事。とは言いつつ、人間である以上どのような行動を取るのがベストなのか、判断に迷うことはあります。
そういうときには、何を基準に行動するべきか、自分なりの軸を持っているかどうかが大事だと思います。

私の場合、講師をとして最も優先すべきことは、受講生の成長だと考えています。なので、判断に迷ったときは、どうすれば受講生が最も成長できるのか、を基準にしています。

講師として何を目的として、何を自分の軸とするかは人によって異なるかと思いますが、自分のなりにブレない軸を持っておくことが大切なように思います。

嫌われないために

私が講師に転職したばかりの時、受講生のためだったら嫌われてもいいと教わりました。ただ、私はその考えは賛同できません。
私が好きな言葉にこんな言葉があります。
人を動かすのは恐怖、人を育てるのは尊敬
という言葉です。すごく確信をついた言葉だと思っています。
この言葉から分かることは、受講生を成長させたければ、自分が尊敬される人間になるのが最も効果的だということです。

人は嫌いになった人を尊敬することは滅多にないでしょう。
自分が嫌われる立場になることで受講生が成長できるのであれば、嫌われることは悪いことではないのかもしれません。
ただ、私の考えとしては、嫌われた時点で、自分の力で相手を成長させることはできない、と思っています。

もちろん、受講生に媚びを売って好かれようとする必要はありませんし、相手のためを思っての行動でも結果として嫌われてしまう事はあるかもしれません。それはもう仕方のないことです。ただ、嫌われてもいいという前提では行動しないようにしています。信頼関係を築いたうえで、可能なら相手から尊敬されることが理想です。

優しく、厳しく接する
嫌われないための接し方として、怖くならないように意識しています。
可能な限り常に優しく接するようにしています。
怖い雰囲気を持って接すると、それは恐怖で相手を動かしていることになり、一時的に相手の行動を変えることはできても、根本的な成長にはつながりません。嫌われないためだけでなく、相手を成長させるという意味でも、恐怖を与えず優しく接すことが大事だと思います。
ただし、優しくすることは甘やかすこととは違います
私の場合は新入社員研修での講師などをするので、社会人として相手に足りないと思った部分や、エンジニアとして働いていくうえで足りないと思った部分ははっきりと指摘することが大事だったりします。
その点については甘やかさずに厳しく接することが大事だと思っています。
相手に嫌われないように優しく接するけれど、相手を最大限成長させるために厳しく接することを心がけています。

怒らない
相手を成長させたいのであれば、怒るのは基本的にNGです。
怒りの感情というのは、基本的に自分にとって都合が悪いときに生まれる感情です。つまり、怒っている人というのは、自分にとって都合が悪くなったという気持ちを相手にぶつけているだけです。
なので、成長という観点においては、相手に怒りの感情をぶつけることに意味はありません
怒られた相手は恐怖によって一時的に行動を変化させる可能性はありますが、それ自体が相手の成長につながるわけではありません。
だから、人を育てる立場において、相手を怒るのはNGです。
ただ、相手がよくない行動をとった時に、それを修正させることは講師にとって必要な行為です。
そのためには、相手の目線に立って、このままだと相手に取ってどんな不都合がおきてしまうのかを論理的に相手を「叱る」ことが大事です。
怒ると叱るの違いは、自分の視点で伝えるのか、相手の視点に立って伝えるかです。
相手の行動を修正したい時は、怒らずに叱ることが大事です。

ウソをつかない
相手と信頼関係を築くにはそもそもウソはNGです。
立場は関係ありません。相手の年齢が年下であるとか、子供であるとか、関係ありません。教える立場と教わる立場だとしても、相手を一人の人間として対等に扱って、ウソをつかずに真摯に接することが信頼関係を築くために大事なことです。

関係づくりのコツ
信頼関係をつくるコツとしては、まずは自己開示することが大事です。
自分の経験や実績を話すことで自分がどんな人かを知ってもらいましょう。
人間は他人の成功体験を聞くのはあまり好きではありませんが、失敗談を聞くのは好きです。失敗体験を多く話すことで親しみやすくなります。
1対1で話すときは、相手の名前をいち早く覚え、名前で呼ぶことが大事です。また、プライベートな話も交えつつ、対等な関係を作ることが、信頼関係を築くコツです。

相手のことを深く知る
信頼関係を深めていくには相手のことを知ることが大事です。
相手のことを知るためには、普段から講義以外での雑談が、すごく重要ですが、相手の性格を素早く知るために性格診断テストをすることも効果的です。私がよく使用するのは以下の2つです。

性格を知る上での参考にもなりますし、受講生同士でお互いを知るきっかけにもなり、親睦を深めるために有効なツールだと思います。

なめられるのはよくないことか

講師になった時、講師はなめられてはいけないと教わりました。これについては私はケースバイケースかなと思っています。

人としてなめられるのはNG
講師が受講生から人としてなめられるのはNGです。
人としてなめられると、自分が何を発言しても、相手には響かなくなってしまいます。そうなると、自分の力で相手を成長させることはできなくなります。
人としてなめられないためには、自信を持って堂々と振舞うこと、そして一人一人と対等な目線で向き合い、相手の視点に立った行動が大事です。

専門分野でなめられるのもNG
私はプログラミングの講師をしているので、新人に教えられる程度のプログラミング知識を持っていることが大前提です。
専門分野についても、受講生からあまり知識がない人という認識を持たれてしまうと、技術面で質問されることが少なくなり、相手を成長させるという点では支障が出ます。
知識については1人の人間が全てをカバーできるわけではないので、知らない部分は知らない部分で仕方ないですが、少なくとも、普段から情報収集や新しい技術の勉強をするなどして、知識を増やすことは必要でしょう。
また、自分自身も日頃から技術を勉強し、勉強している姿勢を見せることも講師の大事な仕事だと思います。

キャラとしてなめられるのはOK
人としてなめられたり、専門分野の知識でなめられるのはNGですが、個人的にはその人のキャラとしてなめられるのはありかなと思っています。
なめられるという表現が適切なのかどうか分かりませんが、親しみやすさというのは講師として大きな武器になると思っています。
私の経験上、研修期間中に質問の数が多い受講生ほど、伸び率が高いことが分かっています。
逆に言うと、質問を受ける数が多い講師ほど、多くの人の大きく成長させていると言えるのではないかと思います。
質問を多く受けるためには、講師としての接しやすさが重要になってくると思っています。
分からない人は自分から質問に来るべきだとか、職場によっては質問しにくい雰囲気の場所もあるので、どんな環境でも自分から質問するように教育するべき、という考える人もいて、その考えも分からなくはないのです。
ただ、私は講師(というかその環境において立場が上の人)が質問しやすい空気を作ることの方が重要だと思っています。
教えている受講生にも、後輩や部下ができた時には、質問されやすい空気を作れるような人に育ってほしいと思っています。
その質問しやすい空気を作るためには、キャラとして少しなめられるくらいの方が実は良いのではないかというのが私の考えです。

教え方についてのノウハウ

ここからは教え方について、様々な本を読んだり、自分の経験から得たことからまとめたものになります。

まずは目的・目標・スタート地点・全体像を伝える
まず、何かを教える時には、それはいったい何のために身に付ける必要があるのか、その目的を示すことが大事です。
目的が分からないままだと、学ぶモチベーションを保つのが難しくなります。何のために学ぶ必要があるのかを意識することで、学ぶモチベーションを保つことができます。
特に、ITの技術を教えていると、様々な技術が出てくるため、それぞれの技術が何のために存在して、どう役に立つのかを先に知らせることが大事です。
例えば、IT技術を勉強をするとき、どこかのタイミングで「2進数」を学ぶことが多いです。2進数は数値を0と1で表す表現方法ですが、なぜそんなことを学ばなければいけないのか、事前に説明をしないまま講義を進めてしまうと、受講生は何のために学んでいるのか分からずにモチベーションが上がりません。(私自身がこの失敗をしたことがあるので、その失敗からの教訓です)
目的が明確になったら、目標やスタート地点、全体像を伝えることで、教わる側が今からやるべきことのイメージがしやすくなり、理解がスムーズになります。

答えを教えるべきか教えないべきか
私が所属している教育事業は、基本的には答えは教えないスタンスです。
研修ではプログラミングを教えているので、こういうプログラムを作ってみましょう、という問いかけに対して、どういうプログラムを書けば動くのかという具体的なプログラムが答えです。
プログラミングをする上では、論理的に考える力が非常に重要になってきます。なので、研修では論理的に考える力を伸ばしていく必要があります。
そのために、ヒントは与えるが答えは教えずに自分で考えてもらう、というのは所属する教育事業の方針です。
私自身の考えでは、この方針は半分賛成で半分反対です
というのも、答えを教えたほうが良いかどうかは人によって変える必要があると思っています。
具体的には、論理的思考力が未熟な人に対しては、考えるきっかけを与えるために、答えはできるだけ教えない方がよく、論理的思考力が高い人には、初めから答えをたくさん教え、知識を増やすことで応用力を上げるよいと考えています。
ただ、これ以外の要素でも、個人の性格によっても最適解は変わってきます。論理的思考力が高い人でも、自分で考えることが好きな人には、答えは教えない方がモチベーションを保てます。また、様々な答えのサンプルを教えてもらい、知識を増やすことで考える力を付ける人もいます。
結局、どうしたほうが最も相手のためになるかは、相手の能力や性格を考えたうえで個別で判断していくしかないでしょう。

分かりやすさが正義。でも...
何かを教える時、分かりやすく伝えたほうが良いでしょうか。
それとも分かりにくく伝えたほうが良いでしょうか。
当然、分かりやすい方が良いに決まってます。
プログラミングの場合、そのまま伝えると抽象的な表現になるものがたくさんあります。関数、メソッド、クラス、オブジェクト、などなど。。
こういった抽象的なものを分かりやすく伝えるためには、具体例を用いて説明するのが一番伝わります。
特に、プログラミングはコンピュータの中の世界の話なので、現実世界に当てはめた時に何に近いのか、具体例に落とし込むことで相手に伝わりやすくなります。
講師として説明の分かりやすさを上げるのであれば、説明の具体例のバリエーションを増やすのが大事だと思います。
具体例のバリエーションを増やすには、様々な種類の入門書を読んで色んなパターンの説明をインプットしたり、自分なりにアイデアを出して考えてみることです。
具体例を用いた説明に、プラスで図を描くと、より分かりやすくなるでしょう。難しいものを分かりやすく説明できる技術は、講師にとっては大きな強みです。
ただ、全て分かりやすくすることが必ずしも正義ではないというのが最近の私の考えです。
なんでも分かりやすくして伝えていると、教わる側が分かりやすい説明しか受け付けなくなり、難しいものを理解する力が低下するのではないか、というのが私が思う懸念事項です。
答えを教えるべきなのか、の話と同様、分かりやすく伝えるべきかどうかというのも、相手の能力や性格を考えたうえでどう伝えるかを考えることが大事になってくるかと思います。

対話を大事にする
教科書の内容をただ淡々と説明するだけの講師にはあまり価値はありません。プログラミングに関して言えば、書店に行けば分かりやすいプログラミングの書籍もたくさんありますし、ネットを検索すれば、動画で分かりやすく解説動画を配信している人も多くいます。
教科書の内容を説明するだけなら、動画でも十分なので、講師が直接対面で教えている以上、動画や本だけではできないことをやる必要があります
具体的に何をすればいいかというと、受講生との対話です。
プログラミングが好きな人は、放っておいてもある程度自分で勝手に勉強して伸びていきます。極端な話、プログラミングを好きにさせること、モチベーションを保つことができれば、それだけで十分すぎるほどの成果です
興味がないものを好きにさせるのは、簡単なことではありません。
人のモチベーションを保つのも簡単ではありません。
どうすれば好きになってくれるのか、どうすればモチベーションが上がってくれるのか、明確な答えはありませんが、一つ言えるのは、教科書の内容を説明するだけの教え方ではだめだということです。
大事なことは、自分自身がプログラミングが好きであることを伝えながら、相手との対話を大事にすることです。本筋とは関係ない雑談を入れたり、興味を持たせるために調べさせたり、グループワークを入れて全体の空気を盛り上げたりなど、様々な工夫をしながら興味を持たせたり、モチベーションを上げることができる講師が良い講師だと私は思います。

褒める。そしてフィードバックする。
新入社員研修では、スピーチの研修なども行います。
3分間、一つのテーマでスピーチをしてもらうというものです。
スピーチの指導をするときに心がけていることは、まず良かった点をほめるということです。
自分がスピーチをする立場だったとき、何1つ褒められなければへこみます。スピーチに限らずですが、何事も良い点は伸ばしつつ、悪い点を改善していくことで成長していきます。
褒める時のポイントは、過程をほめることです。スピーチであれば、練習していたことや事前準備をしっかりしていたことが伝わるのであれば、それを褒めます。もちろん、出来が良かったのであれば、それも褒めます。
褒めた後は改善点を伝えるのですが、この時はアドバイスをするのではなく、事実をフィードバックすることが効果的です
例えば、スピーチの声が小さかったとします。
このとき、アドバイスとして伝えるなら、「声をもっと大きくした方が良い」となります。一方、事実をフィードバックするなら、「声が小さかった」となります。
フィードバックの方が良いのは、本人ができていないことに自分で気づき、自分の意思で改善するように働きかけられることです。
アドバイスの場合、相手との信頼関係ができていないと受け入れてもらえない可能性もありますし、何が悪かったのか気が付かない可能性もあります。
フィードバックの場合、相手との信頼関係に依存せずに、本人の意思でによる改善が期待できます。
ここではスピーチを例に説明しましたが、相手を成長させるという場面でシチュエーションによらずに使える教え方だと思います。

講義中のノウハウ

ここからは講義中に関するノウハウです。

基本は対話重視。だたしケースバイケース
対話の重要性はもう何度も伝えていますが、ここでもしつこく伝えます。
講義とは、講師が1人で作り上げているものではなく、その会場にいる全員が作り上げているライブのようなものです。
積極的に問いかけを投げて、受講生が講義に積極的に参加している空気を作ったり、定期的に質問がないか投げかけたりすることが重要です。
受講生のリアクションを伺いつつ、理解度を確かめたりしながら、その場その場で最適化できるように考えながら振舞っていくことが必要になります。
ただし、必ずしも対話を重視することがベストなわけではありません
他人と接することが苦手な人が多い場合では、質問を投げかけても返ってこなかったり、ダイレクトに指名して質問に答えさせても、嫌な感情を持たれてしまう可能性もあります。
そういう場合は、講師が一方的に説明する時間が多い方が講義自体はスムーズに進みます。また、講義を受ける人数が多すぎる場合にも、1対1のコミュニケーションのように対話をするのは難しい場合もあります。
新入社員研修の場合、期間が3ヵ月程度あるので、最初から対話ベースにしなくても、まずは信頼関係の構築に時間を使い、徐々に対話を多くしていくなどができます。
しかし、単発の短い研修などでは、信頼関係の構築に多くの時間をさけれないこともあるので、状況に合わせて、どういう講義が良いのかは考える必要があります。

問いかけをして受講生を巻き込む
受講生が積極的に参加するような講義にするには、講師が積極的に受講生に対して問いかけをしていくことが大事です。
特に、挙手させるような問いかけをすると、良いでしょう。
受講生が積極的に参加する空気を作りやすくなりますし、講師からしても受講生の理解度などを図れます。
挙手させるときのポイントは、講師自身も同時に手を上げることです。
教室の空気感や、問いかけの内容によっては受講生が手を上げにくい空気の場合もありますが、講師自身が一緒に挙手することで受講生も手を上げやすくなります。
また、問いかけの内容も重要です。
内容を説明した後、全体に対して「大丈夫?」と聞くと、その時はみんな頷くものの、「大丈夫じゃない人?」と挙手を促すと挙手する人もいます
全体の雰囲気を見て、大丈夫じゃなさそうだなと感じたら、「大丈夫な人?」と「大丈夫じゃない人?」の両方のパターンで挙手させると、全体の理解度を割と正確に知ることができるのでお勧めです。

声にメリハリを
声の出し方についてはこの記事の前半部分でお伝えましたが、講義中は常に一定のボリュームで話していればいいわけではありません。
講義の中でも、得に伝えたい大事な部分と、そこまで大事ではない部分があるはずです。特に伝えたい部分とそうでない部分は、声の大きさや話すスピードなど、声の抑揚を変えることで伝わりやすくなります。
大事な部分は大きく、ゆっくり話すことで、大事な部分だと伝わりやすくなります。

寝ている人の対処
講義中に寝てしまう人は少なからずいますが、対処法としてはいじるのが一番でしょう。注意するよりも、いじって周りの人から笑いものにされる状況を作る方がおそらく効果的です。
「講義中に寝るな」と強く注意するのも一つの方法ではありますが、その方法は私はあまり好きではありません。
そもそも、講義中に寝ている人がいるということは、自分自身の講義が寝てしまうほどつまらないか、聞くに値しない講義だと思われている可能性もなくはないでしょう。なので、寝ている人がいたら講義の中で改善できることがないか考えることも必要です。
ただし、講義中に寝ている人がいることで、真面目に頑張っている人のモチベーションに影響する可能性もあります。また、社会人として、仕事中に寝てしまうのは問題なので、そのことを自覚させるために本人に注意することは必要です。

ホワイトボードの使い方
どのようにして講義を進めるかは講師の人のやり方次第ですが、私はホワイトボードをかなり利用します。
ホワイトボードを使うときのポイントは、文字は大きく濃く書くことです。
そして、読みやすいよう丁寧に書くことです。
私自身は、もともと字がとても汚いため、速く書くとほとんど読めない文字になってしまいます。なので人に偉そうなことは言えないですが、少なくとも、丁寧書く意識を持つことが大事です。
もう一つポイントなのは、ノートを取る人への配慮です。
ホワイトボードに何かを書くと、それをノートやメモ帳に写す人が必ずいます。ノートを取ること自体はとても良いことなのですが、ノートを取ることに夢中で、講師の話を聞けていない人が出てくる場合があります。
ホワイトボードを使用するときは、話すタイミングで全員のペンが止まっているかを確認してから話すか、事前にノートを取る時間を後で設けることを伝え、話を聞くことに集中してもらうなどの工夫が必要です。

休憩時間の過ごし方
研修で1日講義をする場合などは、定期的に休憩の時間がります。
休憩の過ごし方も案外大事です。
まず、講義中に質問できなかった人が休憩中に質問に来ることが多くあるので、講師は休憩中も質問を受け付けられる状態にしておくことが大事です。
また、講義の内容が難しかった場合などは、前列の人に内容がどうだったか、質問がないかなどを積極的に聞いてみると良いでしょう。
休憩中は、講義内容以外の話で受講生と対話ができるチャンスでもあるので、うまく活用すると講義にもプラスになってきます。

質問されたとき
講義中は当然質問をされることもあります。
質問されたときは、いきなり回答に入らないようにしましょう。
質問されたら、まず質問したことを褒めるのが良いでしょう。そうすると褒められた受講生は次からも質問がしやすくなります。
また、質問されたら講師が質問内容を復唱することが大事です。
質問者の声が大きければ、周りに人にも質問内容が聞こえているかもしれませんが、そうでなければ、質問内容がよくわからないままの受講生が出てくることになります。
なので、質問された場合、質問内容を復唱して、全員が質問内容を共有できる状態を作っておくことが大事です。
また、講師でも全ての質問に答えられるわけではありません。
時には分からない内容の質問を受ける場合もあります。
その時は、素直に分からないと伝えることが大事です。
その場で答えがわからない場合は、調べて後で回答する旨を伝えるか、相手に調べさせるという手もあります。
私の場合、プログラミングの質問を受けて、すぐに答えが出ない場合は、質問者と一緒に試しながら答えを見つけたりもします。
また、技術について質問されたとき「○○を試したらこういう結果になったんですが何でですか」みたいな質問をされたときに、初めて見る現象に直面することがあります。
そういう時は、「へぇ~、そうなんだ、知らなかった!」と素直に伝えて、一緒に理由を探す手伝いをすることもあります。
そういうことが頻繁にあると、さすがに技術面で頼りないと思われてしまうかもしれませんが、たまになら問題ないと思います。
新入社員研修の場合、約3ヵ月の期間を一緒に過ごします。
研修期間をある程度一緒に過ごしていると、受講生も、講師の技術のレベルがどの程度なのかある程度把握できます。技術面で信頼できると思われていれば、知らないことは素直に知らないと言っても特に問題にはなりません。
質問されたときに答えられなくて問題になるかどうかは結局相手との信頼関係の問題です。

講義をつくる

講義は事前に計画を作ることが大事です。
新入社員研修の場合、講義用の教材や演習問題などは事前に用意されています。しかし、何度も書いてきましたが、講義では相手との対話が重要です。
また、用意された教材の内容だけでは伝わりにくい内容や、講師として補足で伝えておきたい内容なども出てきます。
それらをどんな順番で伝えるか、どんな例を使って伝えるか、どんな質問を投げかけるか、どんなグループワークを盛り込むか、などを事前に考えておくことは、良い講義をする上でとても重要です。

講義の構成で大事なのはストーリー
全体の流れとして分かりやすい講義かどうかは、ストーリーができているかどうかが重要です。
例えば、プログラミングについて3つ教えたい技術の内容があったとします。それらの3つのことを淡々と説明するだけでは分かりやすい講義にはなりません。
まず、1つ目に教える技術の目的を伝え、その後に内容を伝える。
しかし、その技術だけでは課題が出てきてしまう。その課題を解決するための手段として2つ目の技術が出てきた。しかし、その2つ目の技術でもまだ改題が残る。その解決手段として3つ目の技術が出てきた。
という風に、3つの技術がどういう風につながっていくのか、そのストーリーを構成してうまく伝えることが重要です。
新入社員研修の場合、カリキュラムが決めれていて、講師の力では全体の流れを変えるのは難しい場合もありますが、細かい部分では自分なりにストーリーを考えることが、分かりやすい講義づくりのコツです。

板書計画を作る
私は講義の時はホワイトボードをよく使用するのですが、ホワイトボードを使う場合は、事前にノートに板書計画を作ります。
板書計画を作っておくと、板書の際の誤字脱字のミスを減らせたり、書く内容の全体のバランスを事前に考えたりすることができます。
どれを書いた後、どの説明をして、次にこの流れに進む、といった講義の流れも考えやすくなるので、板書計画はホワイトボードを使って講義をする人にはおすすめです。
最近はiPadを使って板書計画を作成することもあります。
iPadにすると、紙を持ち歩く必要もなく、また、データとして共有することもできるため、非常に便利です。

オリジナルの演習を考える
プログラミングの新入社員研修の場合、演習問題などは事前にある程度用意されているのですが、講師自身でもオリジナルで演習を作った方が良い場面もあります。
受講生の中で優秀な人は、用意された演習問題が早く終わって時間を持て余してしまう可能性もあります。
用意された問題を全て終わらせたとしても、まだ理解力が足りておらず、追加の演習問題が必要になるかもしれません。
受講生のレベル感から演習が足りなくなる可能性があるなら、講師が積極的にオリジナルの演習問題を考え、常に受講生の成長をサポートできるようにしておきましょう。

テストを考える
私が講師を務める新入社員研修では、毎日、その日学習した内容、もしくは前日に学習した内容をテストします。
私が効果的だと思うテストの手法は、朝一で前日に学習した内容をテストするというものです。
教室によっては、その日に学習した内容をその日の夕方にテストするところもあるのですが、次の日の朝にテストするほうが、受講生が自主学習するきっかけになるので良いと思っています。
また、テストの内容は、文章での記述で答えさせる問題にするのが良いです。
例えば、プログラムに関する問題の場合、
「問題:プログラムでデータを一時的に保存するための入れ物のことを何というか。解答:変数」
のような問題にするよりも、
「問題:変数とは何か説明しなさい。」
のような、抽象的なものを自分の言葉で説明させる問題の方が良いと思っています。
このような問題形式にすることのメリットは、自分では理解できたと思っていたことでも、説明しようとするとうまくできず、理解が浅かったことに気づけることです。結果として、理解を深めることにつながります。
デメリットは講師側の採点に時間がかかることです。
その日のうちに解説を行う場合、講義の合間を縫って全員分採点する必要があるため、以外と負担になります。
ですが、受講生の理解度の向上を図るためには、文章による解答の問題は入れたほうが効果的です。
ただ、注意点として、問題を難しすぎないことです。
問題が難しすぎると、自主学習を頑張ったにもかかわらず点数が低くなった受講生はモチベーションが下がってしまう可能性があります。
頑張った人は頑張った分だけ点数を取れる。けれど本質をきちんと理解していないと高得点を取れないようなテストにすることが大事だと思います。

グループワークを考える
研修では受講生同士で協力する作業するグループワークを多く行います。
グループワークには、受講生同士の親睦を深めたりと、研修においては様々ンなメリットがありますが、最も大きなメリットは、受講生同士で教えあえる環境を作れることです。
受講生同士で教え合わせるのは研修を充実させる上で非常に重要です。
研修では積極的に理解度の高い人が理解度の低い人に教えるように促しています。理解度の低い受講生は、気軽に近くの人に質問することができ、理解不足の解消につながります。理解度の高い受講生は、人に説明することで、自分の理解不足に気づけたり、理解を深めることができるようになります。
講義の流れを考える段階で、グループワークをどこに取り入れるかを考えつつ、講義中にも必要に応じてグループで作業できるタイミングがあれば、グループワークを促すようにしています。

計画だけに縛られない
講義の内容を事前にしっかりと考えておくことは大事ですが、必ずしも計画通りにいくとは限りません。受講生は一人一人理解度や考え方などが異なります。予定よりも全然勧めなかったり、逆に予定よりもスムーズに進んだり、または思わぬハプニングが起こったりと、想定外のことは必ず起こるでしょう。自分の想定通りに進まなくなったら、無理に計画通りに進める必要はありません。
前にもお伝えしましたが、講義は講師と受講生とで作り上げるライブのようなものです。これが正解、という進め方もありません。計画通りに進まなくても、その場の雰囲気に合わせて講義を作り変えて、グループワークをやってみたり、即席で演習問題を作ってみたりなど、その時その時の雰囲気や状況に合わせて振舞えるかが講師の力量が試される部分だと思います。

自分が納得できない内容をどう伝えるか
新人研修の場合、あらかじめカリキュラムが決められており、教材もオリジナルの教材が用意されている場合がほとんどです。
その時、用意された教材の中で重要視している考え方に、講師自身が納得できない場合があります。
そういう場合は、ケースバイケースかもしれませんが、教材の内容よりも、講師自身の考えを伝える方が良いと私は思います。
自分自身が納得していないことを力説したところで、説得力がありませんし、頭の良い受講生にはごまかしていることはきっとバレます。
自分では思っていないことを、教材に書かれているまま伝えるのは、受講生と信頼関係を築く上では何のプラスにもならないでしょう。
まずは講師自身の考えを伝え、そのうえで、自分が所属している教育機関ではこういう考えを重視している、と、自分の考えと組織の考えを明確に分けて両方伝えること最善と考えます。

成長するために

講師の大きな仕事は受講生を成長させることですが、講師自身も講義を重ねるごとに成長していくことが大事です。

アンケートを取る
講義が終わった後、あるいは研修が終わった後にアンケートを取る用にすることは講師の成長に取って大事なことです。
自分自身の改善すべき点を知ることができますし、逆に、自分の長所も知ることができます。
正直私はアンケートを見る前はかなり緊張します。
でも、講義の改善につながりますし、良いこともたくさん書かれていると講師としてのやりがいにもなります。

振り返る時間を取る
講義が終わった後、あるいは研修は、自分自身を振り返る時間を多く取って、講師としてより成長するための時間を作ることが大事です。
アンケートの結果をもとに自分の改善点を知ることも大事ですし、自分自身で講師として振舞っている中で、こうしたほうが良かったと思った事や、こういうことを伝えるべきだった、というものを整理して文章化してアウトプットすることが大事です。
私の場合、新社会人に対して伝えるべきだと思った事や、新人のエンジニアに対して伝えるべきだと思った事は自分なりに文章にまとめます。
最近はその文章がある程度まとまった段階でnoteにアップするようにしています。
業務改善のフレームワークとしてPDCAサイクルが重要ですが、講師も講義や研修がひと段落したタイミングで振り返りをして次に活かすことが自分自身の成長のために大事です。

勉強し続ける
私の場合はIT企業向けの新入社員研修をしているので、主にプログラミングの技術を教えています。IT業界は技術の進化がとても速く、油断するとすぐに時代に置いていかれます。
IT業界と言ってもとても幅広いので、一人で全ての分野をカバーすることは現実的には不可能なのですが、少なくとも、人に教える立場として、常に何かしらの技術を勉強し続ける姿勢を持つことが大事だと思います。
むしろ、勉強することをやめてしまったとき、それはもう講師として教える資格はないのかもしれないとすら思います。
自分が得意、あるいは好きな分野や、トレンドになっている技術には常にアンテナを張って、知識を増やすことが大事です。
知識が増えれば、研修や講義で新しい技術を取り入れる時にもすぐに対応することができますし、受講生との雑談の中でも話せるテーマが増えて講師としては有利になります。

報告書の書き方

新入社員研修の場合、報告書の作成も重要な仕事の一つです。
企業の担当者へ向けての、研修生の状況を報告するための報告書です。
私が所属している教育事業部では、毎週月曜に週報と、研修が終わった後に最終評価の報告書を提出しています。
報告書のフォーマットなどは研修企業ごとに異なると思いますが、ここでは報告書でのコメントの書き方について書いていきます。

文章の書き方
文章(報告書内のコメント)の書き方のポイントはシンプルです。
相手(企業の担当者)が知りたいことを、正しい日本語で簡潔に書く、です。担当者がまず知りたいことは、研修生に問題があるかないかです。順調に講義内容をもにつけているのか、それとも、講義についていけなくて対応が必要なのか、といった事です。また、報連相や挨拶など、社会人としての意識に問題がないかどうか、といった事です。どの点に問題があってどの点に問題がないのか。その結論をまず最初に書き、そのうえで具体例や今後実施する対応策などを書きます。
特に、研修が終わった後の最終評価の場合、現場に配属された後で、どのようなフォローが必要か、どんな改善が必要か、どんな仕事が向いているか、など配属先での上司が知りたいことを書きます

書き方のコツ
書き方のコツについてもう少し書きます。
報告書は短い時間で担当者に研修生の状況を伝える必要があります。
そのためには、結論から書き、1文を短くすることが重要です。
これは報告書に限らず、ビジネスの世界で文章を分かりやすく書くために共通したマナーとも言えます。
報告書を書く上でもう一つ注意すべき点は、あいまいな表現を使用しないということです。あいまいな表現とは、例えば、「とても」「非常に」「かなり」といった表現です。なぜこのような表現がNGかというと、人によって受け取り方が異なってしまうからです。あいまいな表現は使わず、数値を用いて客観的に表現するか、具体例を用いて表現するようにします。
例えば、「プログラムがかなり苦手」という表現はNGです。
具体例を用いて、「簡単な演習問題も周囲の助けがないと自力で解けない」としたり、数値を用いて「テストで3割の点数しか取れない」などの表現方法にします。

正しい表現方法
私が講師を担当している研修企業では、報告書は一度事業部内の営業担当に確認してもらいます。その後、営業担当からOKが出たら、各企業担当者へ報告書を送信する流れです。前提として報告書では正しい日本語を使用する必要がありますが、自分では問題ないと思っていた表現方法でも、営業担当からすると不適切な日本語だと言われることがあります。
例えば、私の場合、研修生が演習問題で手が止まっていた場合、「演習問題に苦戦している」という表現を使うことがあります。自分では問題ないと思っていたし、これで何も言わない営業担当にいるのですが、「戦っているわけではないので苦戦しているという表現は間違い。苦労しているが正しい」とおっしゃる営業担当の方もいます。
こればっかりは講師の力でどうすることもできません。
それぞれの営業担当者ごとに、違和感を感じる表現方法が異なるので、講師がそれぞれ担当者ごとに使える表現、使えない表現をインプットして使い分けていくしかないでしょう。

印象操作について
まず大前提として、報告書にウソは書けません
真実のみを書いて、正確な状況を伝えるのが報告書の役割です。
ですが、報告書を書く講師も人間である以上、必ず主観が入ります。
そのため、完全に客観的な報告書になることはあり得ません。
むしろ、事実を書く場合でも、講師の書き方次第で良い方向にも悪い方向にもいくらでも印象操作できるという事実を知っておく必要があります。
例えば、
・真面目だが、プログラムが書けない
・現状自分一人ではプログラムが書けないが、真面目に頑張っている

という2つの文章があった時、どちらの方が良い印象を受けるでしょうか。
人によるかもしれませんし、あまり変わらないと思う人もいるかもしれませんが、おそらく後者の方が良い印象を受ける人が多いのではないでしょうか。書いている内容は「性格が真面目」で「プログラムが書けない」という2点なので、両方とも書いている事実としては同じなのですが、書き方で印象が変わってきます
一般に、「良いことを先に書いて悪いことを後に書く」よりも、「悪いことを先に書いて良い点でフォローする」という書き方の方が良い印象を受けます。
これは、どちらにするべき、というものではなく、講師がその事実を把握して、きちんと使い分けるべきだと思います。
講師も人間である以上、良い印象の人は良い印象であることを伝えたいし、悪い印象の人は悪い印象であることをありのままに伝えたいかと思います。
報告書は事実を書くものですが、講師が何を最も伝えたいのかを考え、それがきちんと伝わるような文章構成にすることが大事だと思います。

テクニカル評価のポイント
プログラミングの技術的な内容を評価コメントを書くときのポイントです。
・講義内容についてこれているか(講義中のリアクション、演習の出来、テストの出来などから判断)
・学習意欲はあるか(復習・自主学習などをしているか)
・分からないなりに自分で問題解決しようとしているか
・論理的に考える力・考える意志があるか
・デバッグ力の有無
・PCの操作で問題がないか
・プログラミングへの興味があるか
など

ヒューマン評価のポイント
社会人としてのヒューマン評価コメントを書くときのポイントです。
・報連相と確認の有無、タイミング、内容の簡潔さ
・時間管理、挨拶など、社会人としての基本の意識
・質問の積極性、質問の量、質問の内容について
・グループワークへの積極的な参加
・周りとのコミュニケーション
・メンタルの強さ
・素直さ、プライドの高さ
・明るい、暗い、などの印象
・リーダーシップの有無
など

情報収集が大事
報告書を素早く書けるようになるには、これまでの実際の報告書を大量にインプットして、様々なパターンを情報として保持しておくことが近道です。
ただし、研修生は理解度も性格も一人一人バラバラで、全く同じ人間は一人としていません。最終的には講師が研修生のことをよく観察し、よく対話し、相手のことを知ることが大事です。
気になる研修生がいたら、講義中に問いかけをしたり、演習の時間や休憩の時間などに積極的に対話することが大事でしょう。

まとめ

余裕が大事
ここまで講師としてのノウハウを色々と書いてきましたが、正直、初めて講師をするときには、これらすべてを意識して講義や研修をすることは難しいと思います。優秀な人なら初めてでもうまくできる人はいるかと思いますが、私には難しかったです。
私が初めて講師をしたときはうまくいかないことが多くありました。
事前に色々な本を読んだり、周りの方からアドバイスをもらったりしながら、講師としてどうあるべきか考えていましたが、実際に研修が始まると、予定通りに講義を進めることで精いっぱいで、全然余裕がなかったなと感じます。徐々に慣れてきて余裕がでてくると、客観的に他のことも考えられる場面が増えてきました。
何事も余裕を持つことが大事だと思います
とはいえ、初めてのことを経験するときはどうしてもいっぱいいっぱいになる人がほとんどだと思います。
内心はいっぱいいっぱいな状況でも、余裕と自信を持って振舞うことを意識して、経験を重ねていくことが余裕を持てるようになる近道かもしれません。

自分へのメッセージ
ここに書いてきたノウハウは、私自身全てを実践できているかというと、できていないものも多いと思います。
今現在講師をしている人、これから講師をする人へ向けた内容であると同時に、自分自身が講師としてこうありたい、という自分へのメッセージも込めています。

受講生に伝えたいこと
この記事に書いた内容は、講師がどういうマインドをもってどういう振る舞いをした方が良いかを書きましたが、研修をするときに受講生に伝えたい内容はマガジンとして別でまとめています。

新入社員研修の講師をする方や、プログラミングの講師をする方の参考になればと思います。

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