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トムは真夜中の庭で / 地下鉄のザジ 感想

フィリパ・ピアス 著 高杉一郎 訳

友だちもなく退屈していたトムは、真夜中に古時計が13も時を打つのを聞き、ヴィクトリア時代の庭園に誘いだされて、ふしぎな少女と友だちになります。歴史と幻想を巧みに織りまぜた傑作ファンタジー

あらすじ

主人公が昔の時代に迷いこんで、その時代の子供と友達になる…これは様々な作品で見た王道な、つまりありがちな設定。しかし、長年愛される傑作なだけあって、感覚で読んでも、理屈で読んでも面白い。(純粋に物語を楽しんでも、時や魔法の様な事について大人の視点から読んでも筋が通っている。)読めて良かった、素敵な一冊。

この本を一層面白く深くさせているのが、主人公トムの弟、ピーターの存在。
いつも一緒、仲良く遊んでいた2人。だがピーターがはしかにかかってしまったことにより、トムだけおばさんの家に預けられる。
そこでトムは不思議な庭に迷いこむ…。

トムは庭で不思議な経験をし、毎日ピーターに宛てて手紙を綴る。ピーターはその手紙を読む事しか出来ない。…ピーターは主人公では無いから。そういってしまえばそれまでなのだけれど、素晴らしい不思議に直面しつつも、体験はしていないキャラクターがいることで、物語が深まっている。

ラストはピーターも、バーソロミュー夫人も幸せが訪れる、オチが想像できるな、と思っていたらささやかな伏線回収とロマンがあって、
あの庭は、はたして2人が見た夢だったのか、魔法だったのか、その両方だったのか…。夢が膨らむラストだった。(なんにせよ、素敵な、夢の様な時だった。)


地下鉄のザジ

レーモン・クノー 著 生田耕作 訳

地下鉄に乗ることを楽しみにパリを訪れた少女ザジ。ストで念願かなわず、街で奇妙な二日間を過ごす。文学に新地平を拓いた前衛小説。〈新版解説〉千野帽子

あらすじ

もともと原田知世さんの「地下鉄のザジ (Zazie dans le metro)」が好きで、この曲が映画から作られた事は知っていたけれど、小説が原作とは知らなかったので、借りてみた。2021年に出た新版。

(時間が無くて読みきれず返してしまったけれど、ひとまず感想を書いておく。また借りるかは未定。)


正直、拍子抜け。私が原田知世さんの曲を聴いて想像してたザジちゃん像とは…?
曲のザジちゃんはボーイッシュでわんぱくで、だけど可愛い(とイメージして聴いていた)
小説のザジちゃんは…
小説のザジは、「けつくらえ!」が口癖のクソガキ…

そして、この本、沢山の放送禁止用語が飛び交う…
下ネタに差別用語に…

…お、大貫さん?
この本がどうなってあの素敵な曲になったの?


まあ、もはやイメージしていたザジちゃんと全くの別物なので、憧れのザジ像が音をたてて崩れ…とはならなかった。
おそらく調べた感じ、映画の方はシュルレアリスム的なコメディ映画らしいので、
(映像を少し見てみたけれど、シュールで可愛い感じ)恐らく、というか確実に大貫さんは映画からあの曲を作られたのだと思う。いつか映画を見てみたい。

さて、小説はそんなわけで放送禁止用語たっぷり。どれくらいかというとページを開いて、2ページの中に3つはやばい言葉が書かれている。
惜しげもなく。
しかし、それがすごい嫌悪感を感じるかというと、不思議なことにそれ程でもない。

この本はさもなんてことのないかのようにすごい言葉を放って、気づくと二言目…みたいな感じで、切れ味が鋭過ぎて、いつのまにかぐさぐさ言葉のナイフで刺されてる…みたいな。
これが、パリの風…?
人権とは…?
読んでるとなにがなんだか分からなくなって思わずページをめくってしまう。

正直なにがなんだかわからないけれど新感覚小説。

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