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書籍紹介 福武慎太郎編「東ティモールー独立後の暮らしと社会の現場から」
今回は福武慎太郎編「東ティモール―独立後の暮らしと社会の現場から」についてです。
一般向けの発売は2月5日なのですが、中の人の記事が載っていることもあって、先行コピーを読むことができました。(つまり、この記事はインサイダー記事ですね。)
東ティモールという地域は1976年頃から99年までインドネシア軍の支配下にあったのですが、99年8月の住民投票、その後の国連暫定統治期間を経て2002年に独立しました。(ということに、公式史観ではなっています。私が拙著の論文のいくつかではこの見方に疑問を付けていますが。)
そのため、1999年以降、各国で東ティモール関連書籍が発売されました。「東ティモール研究」という学問分野も生まれて、研究者の国際ネットワークが形成されました。当時の和文での代表的な書籍としては次のようなものがあります。
↑東ティモールのための国際人権運動でも尽力された松野明久先生が執筆された書籍で、東ティモール独立運動史に関心がある方々は最初に読むべき本です。
↑こちらはテーマ毎に短い記事を集めたもので、2006年頃までの東ティモールに関して書かれた様々なことを知るのに便利です。
↑こちらは東ティモールで国連の特別代表を務められた長谷川祐弘先生の書籍です。こちらは平和構築論と国連の観点から独立後の東ティモールでの経験を考察したものだと言えます。
他にも伊勢崎賢治氏の「東チモール県知事日記」とか、後藤乾一教授の「<東>ティモール国際関係史」等があります。ただ和文では、2006年頃以降、東ティモールを対象にした専門書というのはほとんど出ていないという状況でした。
今回発売される福武慎太郎編「東ティモール」は、主に1999年以降に東ティモールでフィールドワークを行った広い意味での「若手」研究者や実務家の論考や体験談を中心に15章を集めたものです。山田満編「東ティモールを知るための50章」を様々な面でアップデートしつつ、フィールドワークに基づく東ティモール論集だという独自性を持つ書籍だと言えます。
第1部が東ティモールという「新しい景色」について。ここでは、言語の複数性、自然と農、パン、国境という3つの観点から東ティモールという景色の新鮮さが語られます。
第2部は、東ティモール文化論です。いずれの章も土着信仰や慣習法を扱っていますが、キリスト教との関係を論じたり、実際にティモール人家庭の一員となって経験した事件を論じていたりと、既存の書籍では出会うことの無いエピソードが出てきます。
第3部、第4部は、教育、ネイション、歴史などより政治的なテーマです。それぞれの分野で気鋭の若手が書いていたりして、理論的にも先端的だったりします。
専門家にとっても、一般の読者にとっても、いろいろと発見がある書籍になると思います。
東ティモールは好きなのだけれど、正直専門家をやっていても「なぜ東ティモールにはまた行きたくなるのか」は言語化しづらい。けれど、この本を通読してみると、多言語社会の居心地のよさやしたたかさ、国家とかナショナリズムに関する固定観念が崩されるような感覚とか、新しい社会を研究する楽しさとかが様々な執筆者たちの筆で表現されていて、いい意味で自分自身の東ティモール体験の新鮮さや他の人々との共通項を発見することができました。特に日本出身の我々執筆者陣からすると、東ティモールの社会は個々人がたくさんの言語を話し、ラテン音楽とインドネシア音楽が交互に流れていて、それでも人々が非常に愛国的だという不思議なところです。
そーゆう意味で、福武編「東ティモール」を読むと東ティモールの面白さに関心を持っていただけるかなと思います。
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