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きしぉう博士のアジア研究ノート

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きしぉう博士が書いたアジア研究や歴史学関連の2020年10月から2021年1月までの有料記事の全てが読めるマガジンです。
アジア研究、特に東南アジア研究の前線の話がかじれます。 それから、大手の出版局・大学出版局から本を…
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2020年11月の記事一覧

歴史家のお仕事(2)歴史学、科学、文学

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本を出す:出版社の選び方

英語圏の大学出版局から本を出すプロセスを今まさにやっている。経験者としてこのプロセスについて説明してみようと思う。日本の人にももっと英語圏の出版局から本だして日本のプレゼンスを上げて欲しい。 実際の出版までには様々な過程がある。 1.原稿の執筆 2. 出版局・出版社を選ぶ 3.プロポーザルの執筆・提出 4.出版局・出版社との最初の交渉 5.原稿の提出・査読・返答 6.編集局からの認定 7.最終的な添削  8.出版 9.マーケティング

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ユネスコ「東南アジア共通の歴史理解」プロジェクト

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本を出す:プロポーザルの書き方と内容

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読み方について

テキストの読み方、使い方というのはいろいろある。私は「正しい読み方」というのには全く興味ない。興味があるのは、技術としての読み方だけだ。 史料を読むというのは、探偵みたいに読むことだ。「いつどこでだれが」と考えながら、書かれたことが有り得そうかどうか、矛盾する資料があるかどうか、そんなことを考えなければいけないだろう。 私の場合、職業柄大量のテキストを読まなければいけないけれど、そうでない人はそんなに大量に読まなくてもいいと思う。去年スピノザの本棚には200冊も無かったと

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ある日曜日のあかし-クリスチャンで歴史家をやっているということ

2018年5月13日、母教会から依頼されて行ったスピーチ(キリスト教用語ではあかしと言う)の原稿です。元々のタイトルは「預言者伝統と歴史家の仕事について」で、修正したバージョンが母教会の冊子に載ってるはずです。 プロテスタントの教会での「あかし」というのは、求道者たちを感化するために「いかにしてキリスト教徒になったか」ということを話すのがよくあるパターンです。でも、私の場合、既に母教会で2回位やったことがあったので、クリスチャンじゃない同僚などと相談し、「キリスト教徒であり

ミンダナオ川の水源まで行ってきた。

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ウェビナー:フィリピンの革命家たちの汎アジア主義、1872-1912年

本日、ケンブリッジ大の研究員、ニコル・クウンジェン・アボイティズ博士のオンラインブックトークに出席したので要約したものをアップする。シンガポール国立大のアジア研究所主催のイベントだ。彼女は、イェール大で東南アジア史の博士号を取り、インテレクチュアルヒストリーを専門にしている。今回は、今年出版された彼女の初めての本、”Asian Place, Filipino Nation: A Global Intellectual History of the Philippine Rev

ポストコロニアル vs. コロニアルスタディーズ

便宜上、自己紹介するときなど、わかりやすさを重視して「ポストコロニアルスタディーズやってます」と言います。けれど、厳密には「ポストコロニアル」と言ってしまうとこの学術運動が関わっている問題をあやふやにしてしまうという不備があります。誤解を生む可能性はあるけれど、「コロニアルスタディーズ」(植民地研究、あるいは植民地主義研究)と呼んだほうが正確で、より現在の問題にコミットした運動として認識できます。 こういう発言自体、「ポストモダン」ではあるのだけれど、英語の「ポスト~」とい

講義用ノート コミュニティ形成の東南アジア史(2) 地形、基層文化、神話体系

前回→. https://note.com/kishotsuchiya/n/n0efb8957dc94  序論シリーズ第二回として、今回は東南アジアのコミュニティ、地形、基層文化について概説的な理解を得ることを目指す。今回の要点として以下の3点を先にあげておく。 (1) 東南アジアは、共通の地域的特徴を持っている。 (2) 東南アジアは多様性を内包している。 (3) 先史時代のコミュニティの生存空間やエコシステム、それを支える神話体系をざっくりと掴むことにより、東南アジア史

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人権運動とオリエンタリズム

人権運動は、ある意味非常に独善的な、大きな物語に基づいて行われている。この物語において、登場人物は、3つの集団に分類される。1つ目が野蛮さを代表させられる国家(とその駒としてイメージされる民兵集団)。2つ目が被害者集団。そして、3つ目のグループが救世主である国際人権運動家ネットワークだ。 歴史的に言って、人権という概念の存在意義は、「国家から人間を守ること」にある。だから、人権は、国家を活動の対象とする。人権の観点では、人権によって野蛮さを管理するのが「よい国家」で、非自由

陳光興の「方法としてのアジア」

日本では一部でしか読まれてないようだけれど、陳光興の「脱帝国 方法としてのアジア」という本は、デューク大出版からの英語版が出て以来、ここ10年間世界中のカルチュラル・スタディーズやエリア・スタディーズのあり方にかなり大きな影響を与えてきた。この本のヒットで、実は日本の中国研究者だった竹内好の作品も国際的に注目を集めている。中国、台湾、シンガポール、そして欧米の研究機関でもこの本の内容を反映している「比較アジア学」「超アジア学」「間アジア学」「グローバル・アジア研究」など(一見

戦争と紛争についてのMnemozineインタビュー(1)最近の研究と「冷戦」について

去年、NUSの学生雑誌であるMnemozineの記者によってインタビューされたときの記事です。英語版は2019年10月号に載ってます。 「日本語訳をアップしてもいいか」と尋ねたら、「いい」と言っていたので載せます。以下、インタビュー前半です。 現在の研究記者:こんにちは。最近はどのようなことをされていますか。現在の研究プロジェクト、新しい研究分野、最近習得したスキルなどについて話ていただけますか。 土屋:現在は大まかに言って4種類のプロジェクトに関わっています。まず、テ

戦争と紛争についてのMnemozineインタビュー(2)ミンダナオと東ティモールについて

前回→.  記者:フィリピンのミンダナオ島でのフィールドワークについてお話しいただけますか。 土屋:義理の家族に手伝ってもらいながら、昨年からカガヤンデオロ市を中心にインタビューを集めています。かなり早い時期からスペイン人たちが拠点を作っていた地域ですが、現在住んでる人々の多くは前世紀に移住してきたキリスト教徒たちです。冷戦期を経験している世代の人々の人生譚を集めることから始めて、どのように彼らが政府のプロジェクトでもあった集団移住、紛争、一般の人々の生活と「冷戦」を模し