美男も美女も出てこないのが良い 映画「シェイプ・オブ・ウォーター」について
失語症の女性が研究所に捕らえられた半人半魚の奇妙な生物と出会う話です。ふたりの間に交流がうまれますが、”彼”は実験材料にされる運命で・・・。
本作では鶏卵が印象的に映されます。かつて鶏卵は春にしか産まれない貴重品で、冬(死の暗喩)の終わりを告げる再生と豊穣の象徴でした。捕らえられた怪物と隠れるように暮らす女性が鶏卵を介して孤独の殻を破る姿はまさに、再生のイメージそのものでした。
2人のあいだには会話が成立しませんので、互いに何を理解しあって、何を共有したことで惹かれ合うのかは判然としません。孤独が引き寄せ合ったのか、相手が自分を救ってくれそうな気がしたのか。ただ、会うたびに少しずつ変化して、親密になっていきます。
はじまりはどうあれ、知ること、重ねること、それらが形(shape)に囚われずに無限に変化していくことこそが愛の始まりであり、素晴らしさだと静かに語っているようでした。これこそ、美男や美女に限らず、誰にでも置きうる映画と現実が繋がる瞬間にも思えます。
ギレルモ監督自身がメキシコからの移民であり、性別や人種、国籍、信条などで縛りがちな分断の時代への映画人一流の意思表明にも思える素晴らしい映画でした。ぜひどうぞ。