第64回短歌研究新人賞 最終選考通過作 「赤色巨星」

閃光のように七時間が過ぎおひさま一度にらんで起きる

単語帳越しの会話で「マジうける」笑えているよ、笑えてるけど

過去問の向こうから来る相づちに私はどこから雑音だろう

化粧、染髪、ピアス禁止の学校で自分の個性を身につけたまえ

責任を背負わなくていい代償としてセーラー服身につけている

ローファーの小指がぎしぎし痛んでも痛いだけだと唱えて歩く

162センチ45キロとちょっとそれでこの世を泳がなくっちゃ

A4に中止の案内刻まれて誰も恨めず過ぎていく夏

キャプテンのマークに汚れのつかぬままひとつの夏が摘まれて消えた

青春として扱われる高三にキスのできない夏がまた来る

からあげクン分けて歩いた夕暮れはひとりじゃ出来ない行儀の悪さ

花たむけられたる祖父をわすれれば、わすれられれば、わすれてしまえば

前年比五千円減のお年玉ああじいちゃんは死んだんだった

延命治療拒否するという祖母の手に知らないしみが三つ増えてる

血圧低下アラームの鳴る病室の一秒先を誰も知らない

ぱたぱたと折りたたまれて輪郭も意味もわかんないままの面接

脱毛器ぱちぱち光り人間が動物じゃないナニかに変わる

淀みない笑顔でにぱっと笑う友どうかあなたは変わらずにいて

塾だから、塾があるから、塾あるの どこから幸せ歩いてくるの?

確率を偏差値を私自身だと言うトモダチの霞んだ背中

成績の亡者となってスカートのプリーツだんだん歪んで曲がる

何者にもなれないワタシ自慢という虚像でどんどん膨らんでいく

何者でもないアナタもお世辞という虚像でどんどん膨らんでいく

膨張を繰り返していく私たち核の小さい赤色巨星

わたしが私のままでいて社会に適応するための化粧

憶えたいものは教科書に載らないじいじが生きたすべての記憶

ろうそくが消えそうな人にかけてやる言葉も知らずに卒業してく

私には軽い「明日」がじいじには重い「明日」だと気づけなかった

いつまでも許せないのは自分自身「明日」の重さに目を逸らしてた

あと何人私を置いていくのだろうそのたび私は立てるだろうか





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