誰かの「フツー」は、他の人にとっての「インサイト」(かも)
インサイト。
最近のマーケティングにおいてよく出てくるワードです。
曰く、
「消費者本人も気が付かなかったような潜在ニーズを創り出すことで新たな市場を造ること」
「どんなに消費者インタビューをしても出てこない、マーケター自身が様々な知識・洞察から見つけ出し、消費者がその商品・ブランドを欲しくなってしまうような無自覚の欲求・購買意欲のツボ」
などなど。
確かに世の中にはこのような「0→1」のインサイトも多々あり、それはそれで素晴らしい!と見つけ・創り出した方には敬意を表します。
ただ、それは誰でもどんな時でも出てくるものではなく、上記のようものをケーススタディとして学んだり、どれだけ努力をしてもこれだ!というものが出てくるとは限りません。
「それはまだ消費者理解が足りないんだ!」
という精神論にもなりかねないような危険性(?)も。
でも、よく考えてみると、特に既存のカテゴリーや商品を対象とした場合の「インサイト」は、実は世の中の誰かがすでにやっていたりすることもよくあるのです。
あのワークマンの快進撃も、
ひとりのカリスマキャンパーが、「溶接のときに火花を避けるための綿素材のヤッケ」として売られていたものを「たき火に最適」と気が付いて愛用し
それをご自身のブログなどで紹介することでキャンパー界隈で話題になり
そのアイテムだけが不思議な売れ方をしていることに気が付いたワークマンの担当者がその理由に気づき
その方をワークマン公式のアンバサダーとなってもらうようお願いし、意見をもらってリニューアル販売すると翌年には10万枚を販売するヒット商品に
というようなことから始まっています。
※出典:『ワークマンのアンバサダーマーケティング、報酬無償だから成果が出る理由 きっかけは溶接ヤッケ10万着の大ヒット』(ダイヤモンドチェーンストア、2021.8) https://diamond-rm.net/management/89129/
つまり、定量調査のような「大多数の人がやっていること」ではなく、ごく一部の(定量調査的に言うと)そのブランド・商品を愛用しているユーザーの中の「外れ値」的な行動・考え方が、他の人にとってはとても新鮮で、そのブランド・商品の魅力を新たに引き出すものにもなり得る、ということなのです。
これ、お笑いの「あるある」にもちょっと似ているかもしれません。
「言われてみると『ああ、確かにそうだ!共感する!』的なヒント」ということですね。
※ただし、マーケティングでの『インサイト』はそれと実際の商品・ブランドがつながることがとても重要です。(調査などで使われる場合は単なる「消費者自身が気が付かなかったニーズ」でとどまっていることもありますが、それが実際の商品・ブランドの便益と納得感をもって結びつかなければ購買にはつながりません)
前回のコラム(「STP」は「WHO/WHAT」の後で。 https://x.gd/ZkeZh)でご紹介した、P&Gが長年用いている戦略・戦術の考え方「WHO/WHAT/HOW」を分かりやすく説明したり、それぞれのブランド・商品の顧客構造を明らかにし、ブランド・商品自体の今後の可能性をNPI(次回購入意向)というシンプルで透明性のある形で示すこともできる『9セグメントマップ分析』を提唱されたり、様々な企業に対してコンサルティング等を行っている元P&Gの西口一希さんの近著『ビジネスの結果が変わるN1分析 実在する1人の顧客の徹底理解から新しい価値を創造する』(日本実業出版社、https://amzn.asia/d/3sQ6Xxl)で実際に実践した企業へのインタビューなども交えて(というか以前から)、「実在するひとりの顧客、『N1』に注目し、そこから帰納的に発想していくことの重要性」を伝えていますが、このN1の本来的には「外れ値」の考え方や行動からの発想、というのもやはり同じく「インサイト」なのだと理解しています。
実際に彼がロート製薬にいたときの「『肌ラボ』極潤」の話、『ロート製薬「『肌ラボ』極潤」は1人の言葉がきっかけで売上高8倍』(日経ビジネス、2021.8)https://business.nikkei.com/atcl/seminar/20/00045/080400011/)もまさにそのN1の「統計的には外れ値だが本人的にはフツー」な商品支持の理由が他の人たちにとっての「インサイト」となった、という話です。
※もちろん、既存には存在しない全く新しいカテゴリーの商品、ということになるとN1は存在しないため「0→1」の発想が必要となるかもしれません
ちなみに、このN1の話をすると
「そうは言っても、それってその人にしか響かない、スケールしないものなんじゃないの?」
というような疑問の声を聴くこともよくあります。
そんな時にはどうすればいいのか?
次回、私がやっていておススメしている手法に関してお話しさせていただきます!
記事元(キリクチWebサイト・コラム) https://x.gd/FtPY3