『スワンソング』は極小のロードムービーの趣き
田舎町の郊外の老人ホームで余生を送るゲイの元美容師が、かつての上客の死化粧を頼まれて、久々にダウンタウンへと向かう。
・・・と、ことほどさように舞台となる範囲は狭いが、映画の形式は紛れもなくロードムービーだ。主役のパット(ウド・キアー)のみが出ずっぱりで、ほとんどの脇役たちは、各自の出番を果たすと、順次物語からハケていく。
しかしパットが亡きパートナーの眠る墓や、取り壊された自宅、かつて出演していたショーパブなどを巡り、そうした脇役たちと一期一会的な会話を交わす間に、彼の華やかだった人生や人となりが鮮やかに立ち上がってくるんだよね。
一見すると傍若無人な老ゲイが、実は細やかな心配りの人だったとわかるに連れて、観客は次第に彼を好きになっていくだろう。そして彼を置き去りにした社会制度や時の流れの無情さを想うのだ。
劇中、ウド・キアーは3回ほど、関わり合った人々の髪を、繊細な手つきで整えてやっている。そのいずれもが、温かで美しい名シーンに昇華されていた。
場面場面でパットの心情に合わせて挿入される曲が、また抜群。洋楽に疎いので知らない曲も多かったが、メロディーはどれもエモーショナルだし、歌詞は時に切なく、時に勇気を与えてくれる。訳詞の字幕もとても良かった。
それにしても、パットが入っている老人ホームは、生活保護費でまかなっているにしては大変に居心地が良さそうだ。これがどれほど米国の実態に即しているのかは知らないが、時々報道される日本の「生活保護ビジネス」とは天地の差ですね。
スワンソング
SWAN SONG
(2021年、米、字幕:小泉真祐)
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