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【掌編】伝説の金メダル

生涯金メダルを作り続けた男がいた。
彼の作品は7たびオリンピック選手の胸を飾り、その輝きは世界中を魅了した。 まさに名人だ。
それだけに、彼が晩年最も力を注ぎ最後に発表した作品は、周囲を戸惑わせた。

そのメダルは手にした者には軽く、くすんだ色も金とは呼べず、まるで安い砂糖菓子のように見えた。
これだけでは「名人も腕を落とした」と誰もが思ったことだろう。

ところが不思議なことにそのメダル、近くにいるものの目には重たく鈍く光って映り、離れて見ればまばゆいばかり。 TV画面を通してみれば、目もくらむような輝きを放って見えた。
誰もが同じ質問を、男に向かい投げかけた。
「いったいこれはどういう仕掛けだ」と。

種明かしをする代わりに男は答えた。

「メダルというものは、 自分が頂点から遠く離れているときは、目標を見失わぬよう光り輝いている方がいい。後一歩まで近づけたなら、これなら手が届くという自信を得られるよう、夢見たものより鈍い光の方がいい。その手に掴んだものには、頂点に立つことは目標であり人生のゴールではないことが分かるよう、大したものではなかったように思えることが望ましい。わしの思う最高のメダルとは、そのようなものだ」

時すでにオリンピックが商業主義に飲み込まれようとしていた頃。名人の不思議なメダルは一定の賞賛を集めたものの、手にしたスポンサーの理解を得られず結局不採用となった。
たったひとつの試作品も、冷戦終了後の混乱のなか彼の消息とともに消えた。
彼の言葉と、メダルをかんで確かめるおかしな風習だけがいまに残されている。
(2010年ごろ書いてたものに加筆)

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きりえや(高木亮)
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