夜は9時まで【ショートショート】
「まもなく9時になります」
テレビからメッセージが聞こえる。
薬の時間だ。
テレビも放送を終わる。
この国に流行り病が広がり始めて何年経っただろう。
国は色んな策を講じた。
マスクをしろ、消毒をしろ、外出は控えろ、外食は7時まで、アルコールは出すな、家族以外とは食事するな、飲食店は休業しろ、カラオケは行くな、学校は休校だ、ワクチン接種だ…もう数えきれない、この繰り返しだった。
しかし、流行り病が収まる気配はない。
人流は減らないし、波は何派目かもうわからない。
ワクチンは開発され改良されるが未だ感染の危機は続いている。
そこで政府はある計画を立てた。
国民の睡眠をコントロールしようと言うのだ。
「夜9時に就寝しましょう」
「9時に寝られるか!」人々は呆れた。
政府は大真面目だった。
ずいぶん前にマスクを配ったが
今度は睡眠導入剤を配ったのだ。
それには「9時に飲みましょう」と書かれてある。
9時過ぎには国民を寝かせて夜の人流を減らす考えだ。
9時就寝に向けて国の時間のサイクルが1時間早くなった
学校や会社の始業時間が1時間早くなった。
夜は8時半を過ぎると電車は走らず、お店はおろか、コンビニまで閉まってしまう。
都心にはカプセルホテルがあちこちに建ち始めた。
終電に間に合わなければ泊まるしかない。
どの時代も規制を守らない輩はいる
そうすると規制は更に強くなる
薬を飲んで寝ているとわかれば悪事を働く者もいる。
泥棒、強盗、おちおち寝ていられない、と苦情が出る。
政府は警官を増やす。
いたちごっこだ。
捕まればGPSを埋め込まれ行動を管理される。
怖い怖い。
小心者の私達家族は9時に薬を飲む。
しかし困ったことが起きた。
何日も薬を飲んでいると効き目が薄れてきた。
夜中に目が覚める。
どうしたものか
そうだ、明日から寝酒を飲むか。
アルコールは睡眠導入剤の効きを良くするので推奨されている。
身体には良くないかもしれない。
政府はそんなこと知ったことじゃない。
その代わり、8時以降はコーヒー等の睡眠を妨げるものは禁止されている。
とにかく寝るしかない。
「いったいこの国はどこに向かっているんだ」
そう呟きながら私は再び眠りについた。