哀しみ色に曇らせちゃった窓 002/映像脚本
○登の部屋・内・朝
1LDKメソッドタイプ。
1階のテーブルに朝食が用意されている。
パジャマ姿の吉野が階段を降りて来る。
登「(コーヒーを持って来て)おはよう」
吉野「おはよう。ゴハン作ってくれたの?」
登「ああ。って言っても、パンとサラダだけだけどね」
吉野「ありがとう。歯を磨いて来るね」
登「早くね。コーヒーが冷めちゃうから」
吉野「うん。(洗面所へ行く)」
登「ダ、ダメだ、我慢出来ない! (コーヒーを一口飲む)」
吉野「(戻って来て)完全なカフェイン中毒よね」
登「中毒じゃないよ。1日3杯までって決めてるし」
吉野「うん、それ以上は飲まないでね」
登「ああ。キツノのためにね」
吉野「自分のためでしょ!」
登「わかってるって。いいから、食べて、食べて」
吉野「うん。いただきま~す!」
登「召し上がれ~!」
○吉野の部屋・内
吉野と朋子がテーブルを挟んで食事をしている。
吉野「いっぱい愛してくれたの!」
朋子「キツノも、いっぱい愛したんでしょ?」
吉野「もちろんよ…。(目に涙が浮かぶ)」
朋子「泣かないでよ。ほら、飲んで。(吉野のグラスにワインを注ぐ)」
吉野、涙を手で拭い、ワインを飲み干す。
朋子「いい飲みっぶり」
吉野「朋子も飲みなよ。(朋子のグラスにワインを注ぐ)」
朋子「(グラスを持ち)カンパ~イ。あ、ゴメン」
吉野「いいよ。朋子も弔ってあげて」
朋子「うん。賑やかに送ってあげよう」
吉野「そうだね。(目から涙が溢れる)」
朋子「キツノ…」
吉野「ゴメン、大丈夫。飲もう、食べよう」
朋子「うん」
○登の部屋・内・夜
玄関のチャイムが鳴る。
登、急いで階段を降り、ドアを開ける。
吉野「(入って来て両手の荷物を見せ)こんなに買って来ちゃった!」
登「今夜は、キツノが料理を作ってくれるんだね! (荷物を受け取る)」
吉野「(ちょっと拗ねて)出来ないの知ってるくせに…」
登「ゴメンゴメン。料理が出来ないことも含めて、すべてのキツノが好きだ
よ」
吉野「そんなストレートに言われたら照れるって…」
登「(荷物を置き、両手を差し出し)おいで」
吉野、登の胸に飛び込む。
登、吉野を優しく抱きしめる。
登「(すぐに身体を離し)さ、ゴハンを作ろうっと」
吉野「ノボルがおいでって言ったクセに、あっさりしすぎ!」
登「じゃあ、キツノはゴハンを食べないんだね?」
吉野「論点が違う気がするんだけど…」
登「はいはい」
○吉野の部屋・内
朋子「ノボル君は、優しかったんだねぇ」
吉野「うん、とっても」
朋子「でも、ちょっと甘やかしすぎだよねぇ」
吉野「え、どっちがどっちを?」
朋子「決まってるじゃん。ノボル君がキツノをだよ」
吉野「え、なんで? どこが?」
朋子「キツノを、料理が出来ない女のままでいさせたと・こ・ろ」
吉野「え、あ、そっかぁ…。(また泣き出す)」
朋子「ゴメン。思い出させちゃったね」
吉野「いいの、大丈夫」
○登の部屋・内・夜
登と吉野、ソファーに並んで座っている。
登「キツノ、話があるんだ」
吉野「なに? まさか別れ話?」
登「ち、違うよ」
吉野「じゃあなに? うれしい話? かなしい話?」
登「そう急かさないで聞いてくれよ」
吉野「ゴメン。なんか心配で…」
登「(吉野を見つめ)俺、フランスへ行くことになった」
吉野「え、それって転勤?」
登「ああ」
吉野「商社に勤めてるから、そんな日も来るのかもって、覚悟はしてたけ
ど…」
登「吉野も連れて行きたいけど、俺が独身っていうことで決まったことだか
ら」
吉野「うん。そんなわがままは言わないから大丈夫」
登「1年で戻って来られる予定だからさ」
吉野「うん。(泣くのを我慢している)」
登「春休みとか夏休みに」
吉野「ゼッタイ逢いに行くよ! バイトしてお金を貯めて」
登「なに言ってんだよ! 旅費は出すよ」
吉野「ダメよ! 自分で稼いで逢いに行きたいの。ノボルは遊びでフランス
に行くわけじゃないんだから」
登「でも、バイトなんかしたことないだろ? お嬢様なんだから」
吉野「まぁ、そうだけど。でも、やるの! やってみたいの!」
登「結局、お父さんに出してもらったりして!?」
吉野「あ、ひど~い! こうなったら意地でもやってやる!」
登「わかった。期待して待ってるよ」
吉野「うん、頑張る! それで、いつ出発するの?」
登「準備が出来次第」
吉野「え、ずいぶん急なのね!?」
登「前任者が病気になって、入院しちゃったから」
吉野「そういうことかぁ」
登「だから、週末に出発して、月曜から勤務出来るようにしようと思ってる
んだ」
吉野「私に手伝えることがあったら言ってね」
登「ありがとう。でも、必要最小限のものだけにして、あとは現地調達する
つもりだから」
吉野「うん、その方がいいかもね。ていうか、フランスなんてステキだよね
ぇ」
登「高級ブティックを想像してるだろ?」
吉野「それもあるけど、凱旋門とかルーブル美術館とか、いろんなところに
行ってみたいの」
登「一緒に行こうよ。それまでに色々と調べておくから」
吉野「うん。楽しみだなぁ…」
○青い空
旅客機が飛んで行く。
○事故のあった海岸
吉野、昼の海を見つめている。
と、急速に時間が進み、夜になり、朝が来て、昼になり、夜が来る。
○窓越しの吉野の部屋・内
吉野が膝を抱えて泣いている。
(終)