童話【あかり】#ウミネコ文庫応募
【あかり】
てんとう虫は、よるになると自分のテントにかえります。
ななつ星てんとう虫の丸いテントにはフックがついていて、そこにななつの星をひとつずつかけていきます。
てんとう虫のせなかの星は、夜には灯りになるのです。
ななつ星のテントは、ななつの灯りでピカピカ光ります。
ななつ星のテントには、毎晩ともだちのふたつ星のてんとう虫がやって来ます。
「ななつ星くん、こんばんは」
「やあ、こんばんは、ふたつ星くん」
「きみのテントはいいね、ななつも灯りがあって」
ふたつ星は、自分のテントにはふたつしか灯りがないのがちょっとさみしかったのです。
でも、ななつ星てんとう虫は言います。
「灯りなんてふたつあれば十分だよ。たくさんあっても大変なだけ」
すると、ふたつ星は少しあんしんして、ななつ星のいれてくれたお茶をいっしょに飲んでほっとするのでした。
ある日、ふたつ星はいつもより少し早く自分のテントにかえりました。そして丸いテントのふたつのフックに自分の星をかけました。テントの中はほんのりと明るくなります。でも、ななつ星のテントみたいにピカピカには明るくなりません。ふたつ星はやっぱりすこしさみしくなりました。
ふたつ星はさみしいまま、ななつ星のテントに行きました。でもテントにはまだななつ星はかえってきていません。ふたつ星は中に入ってまつことにしました。てんとう虫のテントには、カギなんてかかっていないのです。
ふたつ星は、自分の星をていねいにみがくと、ななつあるフックのふたつにかけました。いつもぴかぴかと明るいななつ星のテントが、ほんのりと明るくなります。
そこへななつ星がかえってきました。
「おや、ふたつ星くん、今夜ははやかったんだね」
「うん、ごめんね。おじゃましているよ」
ななつ星は自分の星もフックにかけようとして、ふと手をとめました。
「ねぇ、ふたつ星くん、今夜はこのままでいいかな」
「どういうこと?」
「ぼく、もう少しふたつの灯りの中にいたいんだ」
ふたつ星はすこしおどろきましたが、すこしくすぐったい感じもしてうなずきました。
「うん、いいよ。そうしよう」
ななつ星は自分の星はテントの片すみに置きました。テントの中はいつものふたつ星のテントと同じ明るさです。ななつ星が目をとじたので、ふたつ星も同じようにしました。
ななつ星はしばらく目をとじていましたが、ゆっくりと目をあけるとこう言いました。
「ふたつ星くん、やっぱり灯りなんてふたつあれば十分だよ。たくさんあっても大変なだけ。ふたつだけの灯りってとても気持ちがいいね」
ふたつ星はそう言われてまたおどろきましたが、たしかにいつもはさみしく感じる明るさのに、ななつ星といっしょにいる今はとても心地よいのでした。ふたつ星はふしぎに思いました。
「ぼくはいつもふたつの灯りだけだとさみしくて。でもこうしてきみと一緒にいると同じ明るさでもさみしくないよ」
ななつ星はにっこりしました。
「ぼくはいつもきみが帰ってしまうとさみしかったよ。たとえ灯りがななつあってもね」
ふたつ星はまたおどろきました。ななつも灯りをもっているのにさみしかったなんて。
「ねえ、ぼくたち一緒に暮らそうよ。灯りはふたつあれば十分だよ。必要な時はぼくの灯りも使えばいいし」
ななつ星がお茶をいれながら言いました。
「それに…、ぼくは君と一緒にいられたら十分」
それを聞いてふたつ星はまたおどろきましたが、こんどはうれしさで胸がいっぱいになって、ようやくこう言いました。
「うん、ぼくも」
ななつ星のいれてくれたお茶は、ふたつの灯りの下でいつもよりもっとあたたかくおいしく感じられました。
・・・・・・・・・・
【ふたつあれば】
ずっと前、まだ生きていたおばあちゃんに聞いた、てんとう虫の話。
「ななつ星のてんとう虫はね、夜になると自分のテントに帰るんだよ。そしてななつの星を背中からはずしてテントにつるすの。外から見ると灯りがななつ、ピカピカ光ってるように見えるの。そのテントには毎晩ふたつ星のてんとう虫がやって来るんだけど、『きみはいいね、ななつも灯りがあって』って言うの。それを聞いたななつ星はね、『灯りなんてふたつあれば十分だよ。たくさんあっても大変なだけ』って答えるの。それは二匹の毎日のお決まりのやりとりなんだよ」
この話を聞いたぼくは、てんとう虫たちは、なぜそんな会話を毎日くり返しているんだろうと思った。そして家の中にななつの灯りがあるのと、ふたつしかないのとでは、どっちがいいかな、と思った。
おばあちゃんの家では、いつもひとつしか灯りをつけなかったけれど、小さな灯りは、ぼくとおばあちゃんを包むように丸い輪をつくっていた。
おばあちゃんが天国に行ってからは、お母さんとふたり暮らしになった。
ぼくは、暗くなると玄関と台所に、ふたつだけ灯りをつける。そして台所で宿題をしたりおやつを食べたり本を読んだりする。
ぼくはふたつ星のてんとう虫みたいだな、と思う。窓の外にはたくさんの家があって、ななつくらいの灯りがピカピカ光っている家もある。
ガチャガチャと鍵を開ける音がしてお母さんが帰ってくると、ぼくは玄関まで走って行く。
「おかえり、お母さん。ねぇ、玄関と台所のふたつの灯りだけで家がわかる?」
とぼくは聞く。
「もちろん、わかるわよ」
くつを脱ぎながらお母さんは笑う。そしてこう言う。
「灯りなんてふたつあれば十分。たくさんあっても大変なだけ」
「お母さん、ななつ星てんとう虫は正しいね」
ぼくも笑う。それはぼくたちの毎日のお決まりのやりとりだった。てんとう虫の気持ちが今はわかる。
お母さんが帰ってくると、ぼくは玄関の灯りを消す。家の灯りはひとつになる。
台所でお母さんが晩ご飯を作る。今日の晩ご飯は目玉焼き。
「朝ごはんみたいでごめんね。冷蔵庫に卵しかなくて」
とお母さんが言う。
「王さまみたい」
ってぼくは言う。
図書館で借りた『ぼくは王さま』っていう本の王さまは卵が大好きなのだ。ぼくはそれを読んでから卵がもっと好きになった。お母さんもそれを知っているから、目を細めてちょっと悲しそうにも見える顔で笑う。
黄身だけをおはしで切り取って白いご飯の上にのせる。それから真ん中に穴をあけると半熟の黄身がトロッと流れ出す。そこへしょうゆをポチッとたらす。ぼくはごはんと黄身を一緒にすくって口に入れる。王さまが大好きな味が口の中に広がる。
目を閉じる。なんておいしいんだろうとぼくは思う。ぼくは大好きな目玉焼きをゆっくりと味わう。
ぼくが目を開けると、お母さんが言った。
「おばあちゃんのななつ星てんとう虫のお話にはつづきがあるのよ。知ってる?」
「ううん、知らない」
ぼくはびっくりして答える。つづきがあったなんて。
「ある日、ふたつ星てんとう虫がななつ星てんとう虫のテントに行くと、まだ留守だったの。ふたつ星はふたつしかない星を一生懸命磨いてテントを照らしてななつ星の帰りを待つの。帰ってきたななつ星はこう言うのよ。『ふたつだけのあかりって、とても気持ちがいいね』って。そしてこうも言うの。『ぼくは君と一緒にいられたら十分』。そして、ふたつ星も言うの『きみと一緒にいると、同じ明るさでもさみしくないよ』って。それから二匹は一緒に暮らすようになったのよ」
「ふうん、そうだったんだ…」
ぼくは、二匹が一緒になかよく暮らしているとわかって、うれしくなった。
「お母さんも二人で一緒にいられたら十分。灯りはひとつでも十分。目玉焼きもね」
そう言って、お母さんはぼくのお皿に自分の分の目玉焼きをのせてくれた。
「ねぇお母さん、ぼくは目玉焼きふたつあれば十分。たくさんあっても大変なだけ。でもいらないならぼくもらってあげるね」
台所にともる灯りが、お母さんのやさしい笑顔を照らしている。
ほんとは、ぼくがもうひとつ食べたかったのを、お母さんは知っていたのかもしれない。
おしまい
ウミネコ制作委員会さまの童話募集企画に参加させていただきました☆
はそやmさんのかわいいお話を読んで企画を知りました(*´ω`*)
なにも知らない新参者が参加してもいいのかしらと思いつつも…
よろしくおねがいいたします。<(_ _)>
ちなみにこの童話の後半部分は、noteで公開している下記の作品『2つあれば』をリライトしたものです。前半部分の独立したてんとう虫の童話は、そもそもこの作品から生まれましたが、ウミネコ制作委員会さまのご提案で、二作をつなげてご紹介させていただくことになりました。
(合計約3170文字)
下記は改訂前のものですので、読み比べていただいても…
(;・∀・) ↓↓↓
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