トーマス・トウェイツ『人間をお休みしてヤギになってみた結果』を読んだ
将来に不安がある? 仕事仲間がどんどん先に進んで自分だけ取り残されたように感じる? 恋人と価値観の違いで喧嘩が増えた?
そんな心配はいりません、だって、あなたは……ヤギなのだから!!!
ヤバい発想をヤバい行動力とヤバい技術力とヤバい根性で形にした狂気のヤギ男体験レビューがこの本、『人間をお休みしてヤギになってみた結果』だ。
作者は原始時代でトーストを作れるかというようなコンセプトで書かれた『ゼロからトースターを作ってみた結果』のトーマス・トウェイツ。2016年のイグノーベル賞受賞者でもある。
この本の「コンセプトは人間特有の悩みから解放されるため、ちょっとの間動物になってみよう!」というもの。発想はトンチキとしか言いようがないけど、それへのアプローチはすごく真面目だ。
まず、人間に無理のない姿勢や草原で暮らす上での安全性を加味し、首の短さという共通点に着目して象になろうと試みる。
しかし、エネルギーなどさまざまな問題から象を諦める羽目になり、迷った作者はシャーマンに天啓を求める。そして、象はやめてヤギにしようと考え直すのだった。
ちょっとまた様子がおかしくなってきたな……
シャーマンの教えを受け、ヤギの自然保護区の研究員と論争を交わし、何とかヤギになる方法を模索する作者。
ヤギになる難易度の高さにときどき賭博黙示録カイジでしか見ないような悲鳴を上げるので怖い。
ヤギを解剖して作った四足歩行を可能にする補助器具をつけ、草食のみで生きられるよう、噛んだ草を微生物と混ぜて発酵させて胃に栄養を送るための袋を胴体にくくりつける。(これだけで2章使われる)
ハイデガーなどの哲学まで引用してヤギになれば本当に悩みから解放されるのか熟慮し、脳外科で言語中枢を遮断してもらえないかと相談して危うくドクターストップがかかったりしながら、何とか到達したヤギ生活。
ヤギ飼いと無数のヤギに囲まれながらヤギとして生きる三日間の頁は、読んでいて達成感と感動と何を見せられてるんだろうという気持ちが交互に訪れる。
悪ふざけを真剣にやり遂げるとどうなるかを見せつけてくれるすごい本だ。
全てを捨ててヤギになれない人間にヤギの疑似体験をさせてくれる、のかもしれない。
最後に作者の一文を引用する。
「実際のところ、歴史になぞらえて言わせてもらうと、ヤギになろうと思わないなんて、ほとんど異常ってことだね」
そうかな。いや、どうなんだろう。そうかなぁ?