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※絶望する女性を描いただけの作品です。閲覧注意と書いておきます。
ボーカルの男が激しく唾を飛ばしながらマイク越しに叫ぶ。 「今だけは! おまえらの日々の苛立ちを解き放て! 知識なんてものが頭に鍵をかけるんだ! 今だけは! 何も我慢しなくていい!」 ベースが激しく唸りを上げる。 ドラムとピアノ、そしてバイオリンが弾むようにライブハウスを包み込んでいく。 「ぐだぐだな俺たちだから‼ 魔法を唱えて解き放て‼」 ギターを掻き鳴らし、ボーカルの声が再びライブハウス中を駆け巡る。 「さあ、行くぞ‼」 跳ねまわるように軽快なピアノと力強
※見開き1ページ相当の小説です 白いナメクジが黒いナメクジと盤を挟んでいる。盤は切り株の断面にあり、八×八の方眼となっている。その中央の四マスには白と黒の小さなナメクジが二匹ずつじっとしていた。 「もう少しいいところに住みたいと思ってな、勝たせてもらうぜ?」と黒ナメクジ。 「ごめんけど、俺も負ける訳にはいかないんだ」 ナメクジたちは牛のように大きく、そして白ナメクジのその巨体から親指ほどが分離した。それは小さなナメクジの姿を形成すると、動き出し、盤に乗って黒ナメクジ
黒いマントを着たかぼちゃ頭が日本刀を振り下ろす。白い浮遊体は見事に両断され、 「ぎぃやああっ」 断末魔を上げると、蒸発するように宙へと消えていった。 かぼちゃ頭は刀を鞘に納めると、休む間もなく走り出す。刳り貫かれた内部に灯る炎が揺らめき、両目がきらりと光る。 日本はまさにハロウィンの真っ只中。さりとてジャックオランタンを置いているのは何軒だろうか(日本に限った話ではない。多くの家はただただハロウィンを楽しんでいるのだ)。 今夜は年に一度、霊が家々を尋ね、同時に
※見開き1ページ相当の小説です 「今日も今日とて嫌なことばっかりだ! シラフでやってられるか! 飲むぞ!」 飲み過ぎないように気をつけるのは大前提で。ビールを開けて、キンキンなシュワシュワをグビグビっと流し込む。 「ああ、ウマい!」 たまんねぇな! 疲れた身体が生き返るような感覚がする。 「枝豆、唐揚げ、餃子! そしてビール! やっぱ最高だな!」 誰もいない部屋に独り言が響く――それがなんぼのもんじゃい。 一人酒最高! スマホを取り出してSNSを見ながら。
第三章 デジタル革命 00 自由洗脳競争社会(評価経済社会) 「さて、本題である未来予測の前に、まずは現代について軽くまとめてみようか」 友達は次へ進める。 多くの人々が線で繋がった画像だ。 「今の状況ってのはマスメディアに対してマルチメディアと言うべきだ。つまり誰もが発信でき、誰もが繋がれる状態。となれば、誰もが個人の悩みを受け止めることができる訳で、だからつまり洗脳による顧客争奪戦が起こっている」 「そう言われたら確かにそうだな……」 「逆に言えば、溢れる
第二章 産業革命 00 自由経済競争社会 工場が乱立された絵。工場勤めらしき女の立ち絵が登場。 「資源は大量だ、しかし時間がない。ああ、なんて忙しい毎日なんだ!」 同様の姿の女が登場。 「食べ物も日用品も労働も、全てはお金と交換可能なものだ。つまり働けば稼げる」 同様の姿の男が登場。 「もうあんな貧しい生活なんかに戻ってたまるか! 自分たちの身分を受け入れて細々と生きていくなんてまっぴらだね! 我々は自由を手に入れた! 今や誰もが豊かになる権利を与えられたのだ
序章 「近未来を予測する方法? このゲームをやったらそれが分かるって言うのか?」 ヴァンは懐疑的な顔を向けるが、友達はニヤニヤと楽しそうな笑みを崩さない。絶対に何かある。 「ま、騙されたと思ってやってみろって」 「嫌なんだけど」 「騙されろって」 「…………はぁ」 強情なまでに表情が崩れない。こういうときは諦めるしかないことをヴァンは知っていた。 「でもさ、USBに入れてきたソフトってのが怖いんだけど」 「そりゃ俺の自作だからな」 「……は?」 「さあさあ、インス
「神様がね、たくさんの甘い果実を売ってるのよ。それを求めてみんな行っちゃった」 二本足でぞろぞろと歩いていく猿たちの姿を思い出して、栗毛の猿が悩ましげに言った。腰かける枝が僅かに軋む。 隣の木に座る黒毛の猿は、ゆっくりと目を細めて彼女をじっと見ると、瞬きを数回、何かに気づいたような顔をした。 「君も行きたいの?」 「え?」 「そんな顔してる」 栗毛の猿は驚いていた。黒毛の猿は続ける。 「この森には君しかいなかったし、それだけ魅力的な果実があるんでしょう?」 数秒、彼
いつか終わる。 あの日、空港で君の答えを待っていたとき、僕は悟っていたと思う。それでも見ないフリをして、告白を受け入れてくれたことに舞い上がった。誤魔化して、なんとかなると期待して、頑張って。不安になる自分を否定して。 それでも僕は今こうして一人きりの人生を歩んでいる。 一人になって半年、僕に出張の仕事が与えられた。都合上あの日の空港を使わざるを得ない感じで、すぐさま代わってもらうことが頭を過ったが、こんな理由でなんて未練がましい気がして諦めた。当日はできる限りギリ
「行くぞ、みんなぁ!」 少年は拳を振り上げて叫び、直後、帆が力強く何かを受けて、彼だけを乗せた小さな帆船が動き出す。無風の中で力強く張っている帆は、まるで胸を張るようだった。 彼の白いシャツが太陽を浴びて燦々と輝く。海原の中にぽつねんと浮かぶその背中が、徐々に小さくなっていった。 翌日は大時化だった。狂喜乱舞に殴りつける雨と風は帆船を破壊しそうなほどで、束縛的な怒涛が立ち上がることを許さない。痛くて、寒くて、それでも少年は懸命に堪えていた。 天気は更に荒々しくなる
※基岡の実験劇場※ 1 「回斗、今日はどうよ?」 るんるんと高い声で、な子は今日のコーデを彼氏に見せた。 「おっ、今日は女の子っぽい感じだ」 「でしょ? お気に入りはここのフリル」 「うん、可愛いな。それにスカートのふわっとしてる感じもいいし、ウィッグの色も可愛い」 な子は彼氏に褒められて満足そうな笑みを浮かべた。 「じゃあ行こう♪」 蝉時雨の中を二人は行く。今日は帰るまでこのままだろう。 夕方の教室にて、窓際に座る永子は、校門横の満開の桜から視線を外し、一つ前の
彼は自転車で坂を駆け上がっていた。同じ高校の生徒たちが談笑し下っていく横を、荒い呼吸の立ち漕ぎで逆走していく。背を照らす夕日はまだ健在だが、空は濃い色へ移ろっている。 絶対。なんとしてでも間に合わせる。 彼は回転数を上げた。 少し前。 「おまえさぁ、今日って言ってなかったか?」 大袈裟なほど呆れた顔をされて、彼は顔ごと目を逸らした。錆びたブリキのようなガタつき具合に友達は小さく溜め息。 「そりゃタイミングがあるから無理強いするのもどうかと思うけど、ただでさえズルズ
『個性に合わせた教育。その子の才能を伸ばしましょう』 それで私はバスケをやるようになりまして、この夏、私よりも遥かに才能のある方々を前に無様に散ってしまいました。小学一年から高校三年までの十二年間を費やしてこの結果なんだから将来性はないしょう。おしまい。 ということで、私は現在、何もやる気が起こらない状態なのです。バスケが好きという気持ちは変わらないけど、「あなたにはバスケの才能があるの」と言われてバスケに特化した英才教育を受けて、そしてその唯一のものが見事なまでに粉