記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

【映画批評】#21「ラストマイル」テーマはすごく共感するけどもっと丁寧に作ってよとは言いたい

テレビドラマ「アンナチュラル」「MIU404」の監督・塚原あゆ子と脚本家・野木亜紀子が再タッグを組み、両シリーズと同じ世界線で起きた連続爆破事件の行方を描いたサスペンス映画「ラストマイル」を徹底批評。
TBSの大人気ドラマとのシェアードユニバース作品!はて?の状態での鑑賞はいかに?(流通に少しばかり造詣があるため、うるさい批評になります)


鑑賞メモ

タイトル
 ラストマイル(128分)

鑑賞日
 8月28日(水)20:55
映画館
 あべのアポロシネマ(天王寺)
鑑賞料金
 1,300円(平日会員価格)
事前準備
 特になし、ドラマ未視聴
体調
 すこぶる良し


点数(100点満点)& X短評

60点


あらすじ

ブラックフライデー前夜、届いた荷物は爆弾だった――
日本中を震撼させる4日間。

11 月、流通業界最大のイベントのひとつ“ブラックフライデー”の前夜、
世界規模のショッピングサイトから配送された段ボール箱が爆発する事件が発生。やがてそれは日本中を恐怖に陥れる謎の連続爆破事件へと発展していく――。巨大物流倉庫のセンター長に着任したばかりの舟渡エレナ(満島ひかり)は、チームマネージャーの梨本孔(岡田将生)と共に、未曾有の事態の収拾にあたる。
誰が、何のために爆弾を仕掛けたのか?
残りの爆弾は幾つで、今どこにあるのか?
決して止めることのできない現代社会の生命線 ―
世界に張り巡らされたこの血管を止めずに、いかにして、連続爆破を止めることができるのか?
すべての謎が解き明かされるとき、
この世界の隠された姿が浮かび上がる。

「ラストマイル」公式HPより引用

ネタバレあり感想&考察

ディテールの粒度が粗すぎ
現場取材が足りないのは明白

※今回も表現が若干粗野です。ご了承願います。
 クレヨンしんちゃんほどではないので、そこはご安心を。

面白かったです。全然楽しめます。
ドラマは観てないし、全く知らないのでそこのつながりは知らないし、興味もない。そこは好きにしてくださいとしか言いようがない。ドラマ軍のわかりやすい活躍がなかったのは、我々一人一人漏れなく、大きな構造に絡めとられる存在でしかないという意味では合っている。だから全然イヤな感じはしなかったし、むしろ好感を持ったぐらい。

タイトル通り、メディカル便といったBtoB向け通販を利用している事業者のディテールはかなり雑な印象。自分自身、特定業界のBtoB流通に関わる企業でキャリアを積んできたので、この部分はある程度の取材をしていればそんな風にはならないだろうという表現があった。
その部分を先に潰しておこうと思う。ハッキリ言って致命的だ。

本作のデイリーファストという企業はBtoCのEC小売業が舞台の作品。わかりやすくモチーフはAmazonといっていいだろう。
巨大物流倉庫が舞台となるが、その舞台はトラスコ中山という工具を中心としたBtoB系専門商社(卸売業)が実際に運営している倉庫が撮影協力している。
※自分は本作もシェアードのドラマも全然知りませんでしたが、予告を観て「トラスコの倉庫やん!」となって興味を持ったクチです。
割と内情を知っている状態で観ているので、ちょっと目線が厳しくなってしまってます。そこはご了承願いたい。(トラスコとは直接的な関係はないです)

まず、単に表現が弱いと感じた部分。
ピッキング作業の派遣社員が列をなして受付する様子が正直緊張感がないというか、ピシッとしてないことでこの映画にマル乗りしにくい。
あのシーンを整然と、それこそベルトコンベアでモノを無機質に運ぶように描写しておけば、この映画の格というものを二段三段も上げられたと思う。あそこをバシッと決めれば作品的にもこの映画は勝ちだった。めちゃくちゃ惜しい。

2つ目はメディカル便で重要な薬品が届かない大病院があたふたする描写が全くもって納得いかない点。(窪田正孝が出る場面)
あんな病院、自業自得だわ。デリファス(Amazon)が2~3日流通ストップしたぐらいで大手術で使うような薬の在庫を切らせ、手術の1時間前に薬が届かず、てんやわんやするような病院なんて潰れてしまえとしか言いようがない。あれほどの大病院が生死にかかわる手術に必要な薬を切らせるはずがないので、必要十分以上の備蓄は確保していますし、こういった緊急事態に備えて流通業者を1社に依存するなんてことはありえない!(断言)

医薬品の流通なんかは特にBtoBの国内専門業者が日々研鑽し、スムーズかつ適量適時の強固な流通網を築いている。あんなもんで狼狽えるような脆弱な事業者は全事業者が活動できないほどの大災害がない限り考えにくいし、そういった業者が1社出ればその他の業者が体を張って補完するような動きを見せる。
ああいう描写が出るあたりに現場取材の不足は明白だと言わざるを得ない。
あくまでお話を面白くするためのありもしない誇張表現で品がない。現場にフォーカスを当てた話であるので、こういう態度には自分は厳しくなる。いい加減に作りすぎだ。

サプライチェーンの上流から下流まで、あらゆる過程を経てモノが届く。最終到達の消費者はモノが届く一瞬しか体感できないという事実があり、"モノが届くまでの過程を感じられなくなった代償のようなもの""その過程における問題の本質"を本作は示したかったはず。なのに、作り手がその一般消費者から見た表現に留まっていることに悔しさを感じてしまう。

このあたりは反省してほしい。
塚原監督?野木さん?あんたらハッキリ言って足りてない。
もっと丁寧に取材と深堀りをしてくれ!
一番大事なとこサボんなバカタレ!

とはいえ、60点(このnoteでの合格最低ライン)をギリギリつけたのはメッセージが骨太だからだ。これについては素晴らしいと思っている。

繰り返される"What do you want?"の意味
安易にポチる前に立ち止まって再考せよ

本作の満島ひかりの主人公は正直言っていけ好かないやつなので、あまり語る気がしない。本作としては本人の成長=資本主義の頂点を目指す成長から人間的成長へのパラダイムシフトが描かれるが、かなり雑といっていい。作品内での一貫性というか、感情の動きがいまいち理解できないあたりはキャラ設定と脚本に問題があると思う。このキャラは本当にノレない。

だから、本作の実質的な主役は巷で"ショウヘイズ"と呼ばれている(?)火野正平と宇野祥平の実際に運送業を営む親子と勝手に決めつける。
この火野正平が演じるオヤジが死ぬほどチャーミングで愛おしい。
一見、「オレたちが一生懸命汗水たらしてモノを届けるから豊かになっているんだ」「オレたちは奇跡を起こしてるんだ」という正直クサすぎるセリフでも、現実世界で起きている運送ドライバーの過酷な労働環境を鑑みれば、これぐらいのセリフは必要だろうという判断は大正解だと言える。

ショウヘイズ!!

あえて言い方を悪くするが、この手のテレビ屋映画なんか観に来る客はここまで言ってやらないとわからないだろう、と自信を持って言える。
それぐらい当たり前のようにモノが届き、その過程を感じることなくサービスを享受できている状態に敏感になってほしい。特にECを使うときはなおさらだ。本来なら家の近くのスーパーやコンビニに商品が必要以上に常時陳列されているだけでも感謝すべきことをないがしろにしてきたツケが本格的に回ってくるターンに入っていると感じているので、本作が示す危機感は自身の考えと一致して、すんなり受け入れられた。

様々な混乱と解決を迎えた後、デリファスのCMナレーションの "What do you want?" がこれでもかと繰り返されるラストは、これみよがしで少し鼻持ちならないと感じる演出ではあるが、「お前らのその"欲しい!今すぐ!"という気持ちをちょっとばかり、抑えれば済む話じゃないの?」というシンプルな問いに行き着く。

安易にポチる前に、今それが本当に必要か考えろと。
ポチったとして、それらの行動ひとつひとつはそれこそラストマイルまであくせく働く人たちの結晶による便益なのだと自覚する。それはモノだけでなく、社会的成功や自己成長といったコトの欲望にも当てはまる。
本作を観た人はそれぐらいできるようになってもいんじゃないのと思う。

"見えない"に逃げるな
"見ない"ことが罪なのだ

要はこういうことです。これが重要。
作り手からのメッセージはこういうことだと思うんですけど、とはいえあんたらも大してみえてないぞ、と思う部分もあり、みないとは言わないまでもそう思われてもしょうがないようなレベルかなと思ってしまいます。
少なくとも映画館でかける作品としてのターゲットにドラマファンしかほぼみていないようなマーケティング手法を感じるし、自分みたいな層はそもそも見てもいないだろと擦れた感情をぶつけたくなってしまう。

自分もある程度年齢を重ね、人間関係もスッキリさせていきたい最中なので、こういう"見ない"でふんぞり返って持論ばかり展開する人間とは付き合ってられないという気持ちが年々強まっています。自分もそういうのはやめようと言いつつ、好き放題映画についてグダグダ言うあたり、人間てのはかくもしょうもない生き物だなと自分を見て思います。
ただ、このnoteでの映画批評は映画のあらゆる側面を"みよう"という試みではあるので、そこは自信をもってやり続けたいと思います。

ものすごく良い題材だけに、作り手がみえてないなぁと感じる部分が散見されるのがもったいないというか何というか。
めちゃくちゃ良いテーマなのにスキだらけなのがなぁ。

ただこういったテーマをキャッチーに宣伝し、動員させているのは素直に感謝です。全く悪いことではないので、TBSには引き続き作品のブラッシュアップを求めます。

ナメた態度で作ってたら、クレしんのテレ朝みたいにボロクソ書くんで!!そこんとこ、よろしく!!


まとめ

マジメにやるとこちゃんとやってたら、もっと面白くできただろうというのが率直な感想です。非常にもったいない気がする。

2.7m/s → 0 の件は他の方が散々触ってくれると思うので、そっちに任せます。これも十分にわかりやすいフリなので、そこまで深掘りするような話ではないと個人的には思っています。

阿部サダヲが、これぞ板挟み!というキャラをエンタメに昇華させすぎない見事なバランスで演じていてサイコーでした。あわせて、ディーンフジオカもこういうディーンが観たかったわ!みたいなキャラでサイコーでした。

本作でリアルに一番頑張ってた人
お前は何でもいいから止まれ

満島ひかりの役以外は顔もキャラも絶妙でキャスティングは素晴らしかった。(満島ひかりが悪いのではなく、キャラがイヤなヤツすぎてノレないだけです)
テレビ映画はその部分が重要なので、そこの積上げは真っ当に認めるべきポイントなのでしょう。

自分はもう本当にテレビに興味がなくなっているので、TBSなんかラジオだけやっとけとしか思ってないですが、女子アナはキレイなんでね。
やっぱテレビ続けてください。以上!!


最後に

最近は綾野剛が出てくるだけで嬉しくなっちゃう自分がいます。
マジでしょうもないことでこんな逸材を干すなよ、と。
本気でしょうもない業界だなって思われちゃうぞ、この野郎…。

「日本で一番悪い奴ら」でも観るか

この記事がよかったと思った方は、スキ!、フォロー、よろしくお願いします。
ご拝読、ありがとうございました。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?