小説 『恋しくばたずね来てみよ』 肆
《ご訪問くださいまして、誠に有難う存じます。
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〈新連載〉『恋しくばたずね来てみよ』 参|木ノ下朝陽(kinosita_asahi) #note #クリエイターフェス #眠れない夜に
https://note.com/kinosita_asahi/n/n5a07fc5496ce
今回は、上のリンクの回の内容の続きです。 》
実際問題として、
貧乏学生の身には、実家に帰省するための往復の交通費も、結構馬鹿にならない。
今回は、
キャンセルしたサークルの旅行の交通費分を充てるつもりだから、
とりあえず今のところ、その辺り(だけ)は、まず大きな問題はない(はず)だけれど。
「……そりゃあ…。
少なくとも、法事出るために、連休にこっちに戻って来たって罰は当たらない程度には、
アンタ、お祖母ちゃんにお世話になってるしねえ…。
だいたい、お祖母ちゃんの孫の中でも、アンタは一番末の子だし、
実際、兄さんところの玲ちゃん以外で、
…特に外孫で、赤ン坊の頃からお祖母ちゃんに面倒見てもらってたのは、アンタ一人だし」
母が「兄さん」と呼ぶのは、
祖母と最後まで同居して、祖母の葬儀の際の喪主でもあった母の長兄、
我が母方の伯父に当たる人物で
「玲ちゃん」とは、その一人娘、二歳年上の我が従姉殿である。
ちなみに、…伯父さんはともかく、玲ちゃんははっきり言って美人だ。
……いや、伯父さんだって、少なくとも「二目と見られない」というではない。
伯父さんの結婚式の写真を見たことがあるが、「かなり、なかなか」である。
今だって、着る物を着せて黙って立たせていれば、「それなり」ではないのか、…とさえ思う。
ちなみに、その伯父さんの結婚相手にして、玲ちゃんの御母堂である我が伯母上は、失礼ながら、今でも「なかなか」であり、
玲ちゃんの容姿は、そのハイブリッドの結果、
あるいはその「賜物」…と考えた方が良いのかもわからない。
何と言うか、…うちの母方は、揃って妙に見てくれだけは良いのだ。
(実家の辺りには、昔はよくあったことらしいのだけれど、
伯母さんは、母方の遠縁の人間である)
閑話休題。
玲ちゃんは、何と言うべきか、
…正直、控えめに言っても、あまり愛想が良い方ではない。
それでも、かなりの広範囲における「周囲」から「美人」として認識されるのだから、推して知るべしである。
一緒の高校に通っていた頃は、よく「羨ましい…」と言われたものだが、
それは、孔雀の生態をろくに知らない人間が
「孔雀、綺麗でいいなあ。一度飼ってみたい…」なんぞと言い出すのと、大して変わらない。
「…それにアンタ、小さい頃は身体弱くて、
ちょっとしたことですぐに病気してたから、目が離せなかったし。
別に、上のお兄ちゃんお姉ちゃん達を可愛がってなかったわけじゃないけど、
アンタは別格だったみたいだから。
ほら、『手の掛かる子ほど可愛い』って」
「…そう言や、小さい頃はずっと祖母ちゃんと一般だった気がする」
「そうよ、ほとんど毎日預けっきりだったもの。
お祖母ちゃん、…アンタがいい加減大きくなっても、
余所からお菓子の貰い物があったら、必ずアンタの分って取り除けといて、
『みさちゃんにお裾分け』って、うちに持って来てくれてたじゃない?」
「……そっか、…そうだった…」
迂闊と言うか、
それとも、これも薄情なことに…と言うか、
母親に言われるまで、そんなことはすっかりと忘れていた。
「…とにかく、来週の土曜日の午前中だったよね。
十時からだっけ?
深夜バス乗って、土曜の朝一にはそっち着くから」
「深夜バス…?…背中だの腰だのが痛くならない…?」
「大丈夫。
今、長距離用のバスは、随分シートの座り心地が良くなってるって」
確証なんかなかったけれど、
以前、友人から聞いた話を持ち出して、
取り敢えずは誤魔化した。
「あ、…こっちので何か欲しい菓子なんかある?お茶受けに買って行くよ」
「別にいいわよ、そんなの…。
それよりみさお、アンタ、本当に身体は大丈夫なの?
無理してきついアルバイトなんかしていない?」
「大丈夫、もうそんなにヤワじゃないよ。子供の時とは違うんだから。
じゃ、前の日の、…金曜の夕方辺り、バス乗る前にまた電話する」
それから実家に帰省するまでの、およそ十日間程、
食事や睡眠などの、生活に必要な時間の他は、
学校の授業と課題の消化、それに予定を入れていたアルバイト、
そして、家と学校とアルバイト先との移動に、可処分の時間と労力の全てを費やした。
間違っても、
彼女のいるであろうサークルの部室に足を向けることはしなかった。
《 ここまでご覧くださいまして、誠に有難う存じます。
m(_ _)m
物語は、第五話
https://note.com/kinosita_asahi/n/n247bef0c6d5d
に続きます。
よろしければ、引き続きのご高覧を賜りたく存じます。 》
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