小説 『恋しくばたずね来てみよ』 伍
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〈新連載〉『恋しくばたずね来てみよ』 肆|木ノ下朝陽(kinosita_asahi) #note #クリエイターフェス #眠れない夜に
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今回は、上のリンクの回の内容の続きです。 》
祖母の法要は、
地元で代々お世話になっている、いわゆる菩提寺で行われた。
法要が無事に済み、
近くの小料理屋の二階座敷に場所を移しての精進落としの席では、
(特に年嵩の)親類による、
お定まりの「アンタが子供だった頃…」といった類いの昔話、或いは暴露話が始まる…というのは、
従来の経験からも充分に予見されたので、
なるべく「被害」に遭わないように、
事前に出来るだけ座敷の隅の方の席を確保しておいて、
(この辺り、
普段の授業で、なるべく教壇から目に付かない座席を…という「日頃の鍛錬」が役に立つ)
宴会の最中はもっぱら、
この際だから…と、
普段、貧乏学生の口には滅多に入らない類いの栄養源である、
大皿の刺身や、
鉢に盛られた筑前煮、煮豚に揚げだし豆腐、
早物の茄子の揚げ浸しや南瓜の煮物、瓜の新漬けなんかを
熱いほうじ茶を片手に
ひたすらぱくつくのに精を出していたのだけれど、
そのうち、突如、「…み~さ~お~…!」という、
明らかに酒精の、個人の適正許容値超過摂取から齎される酩酊状態に拠って、
いささか以上に音程を外している…と判る、
馴染みはあるが、
懐かしさや慕わしさのあまり感じられない濁声が、頭上で響いたかと思うと、
汗臭さと酒臭さの混じったニオイのする、
普段ネクタイというものを締め慣れていない…と一目で判る、
自ら緩めたと思しき、完全に緩んだ襟元をした、赫ら顔の中高齢男性が、約一名、
長い座卓の、向かって左手が壁になっている、その右隣の座布団…我が隣席に、
断りもなしに降って「来やがった」。
この人が、件の母親の長兄、
…母方の伯父に当たる人で、
祖母、…祖母ちゃんの、最晩年の同居家族の一人で、
早くに亡くなった祖父
(何しろ、写真でしか顔を知らないので、「祖父ちゃん」と呼べる程の親しみがない)
に替わり
祖母ちゃんの葬儀の際の喪主でもある。
本人は、こういうのを「飲ミュニケーション」と捉えているのかも判らないけれども、
こちらから見れば、それは単なる傍迷惑で
将来、自分の葬式で
「……伯父さん、
生前は、葬式やら法事やらのたんびに酔っ払っちゃあ、あっちこっち絡んで来るの、
ホント勘弁だったよなあ…」
と、満場一致で溜息を吐かれるであろうことを、
全く予期、及び理解していない、…と思わざるを得ない。
ちなみに、うちの母親の、自分の長兄を評して曰く
「根っから悪い人じゃないんだけど…」。
そう、「根っから悪い人じゃない」のは、それは確かだ。
ただ、それは必ずしも、
「『善き人』である」という意味と等号で結ばれるという訳では、決して無い。
そして、人生において、
その手の人間の、「根っから悪意がある訳ではない」言動の方が、対処に困る分だけ始末に悪い、…という場合もままある、ということを、
二十年と少しの間、人間として生きてきた中で、既に経験則として知っている。
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m(_ _)m
物語は、第六話
『恋しくばたずね来てみよ』・其の陸|木ノ下朝陽(kinosita_asahi) #note #眠れない夜に https://note.com/kinosita_asahi/n/n361554fb1c26
へと続きます。
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