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【Vol.13】立体的な顧客理解とは?

前回のPostで、

■"営業の価値提供プロセスは、『知る』→『攻める』→『創る』の循環だ"
■お客様を『知る』、価値提供に貪欲に『攻める』、新たな価値を『創る』。これが営業活動の根本である。

と書いた。

そこで今回は、『知る』というSTEPにおいて、お客様を立体的に捉えるということについて書いてみる。立体的に捉えるとは、①時系列の視点、②経営(組織)の視点、③現場(業務)視点の3方向からの理解ということなのだが、もう少し具体的に書くと、

①その企業がどのような歴史を辿り、何を大事にしてきたのか。
②経営はいま何を考えていて、何を目指しているのか。
③現場は経営から何を求められ、何をMissionとして仕事をしているのか。

この3つを理解しておきましょうということ。

ここまで理解しておくと、お客様が言っていることの背景が手に取るように分かるし、先回りした価値提供の模索ができるから、その先の『攻める』『創る』の打ち手が打ちやすくなる。

ただし、個別・単発発注の場合、現場レベルの担当者でも話が進むことが多く、いまいち組織全体を理解するということにモチベーションが湧かない営業パーソンが周りに多い。ただ、会社対会社としての提供価値を大きくする、取り組みの規模・巻き込む範囲を大きくすることを考えると、この組織を立体的に捉え、全方向から理解するということは非常に効果的である。

なぜなら、現場担当者も企業の中で仕事をしている人であり、評価制度・給与制度の中で生きている。つまり、経営陣(≒組織)が考えていることが仕事に色濃く反映されるし、企業が抱えている課題感は、現場に届くまでに細分化され、業務として落ちてくる。そこに対して僕ら営業は課題解決提案をして差し上げる訳だ。

では、具体的にどのようにするのか。当たり前だが、"調べる"か"聞く"しかない。簡単にではあるが、考え方と方法のポイントだけ述べていきたい。

どんな想いで事業を立ち上げ、継続してきたのか

まずは、①その企業がどのような歴史を辿り、何を大事にしてきたのか。これは、沿革を見る(=企業の歴史を調べる)、書籍を読む(=企業について書かれた本、経営者が出してきた本)、役職者の経歴(=異動歴・経験部署)を洗うことで整理をしていく。

沿革については、企業ホームページに大体書いてある。その企業の出自がどこにあるのか、創業した時代はどんな時代だったのか。何を目指して創業したのか。そして、どんな歴史を辿っていまに至るのか。このストーリーは非常に面白い。

例えば江崎グリコ。有名な話だが、創業者の江崎利一氏が、牡蠣に含まれるグリコーゲンをキャラメルに入れた商品(グリコ)を作ったところから始まる。1922年、大正19年、当時栄養失調の子供たちが多い中で、安定的に栄養を子供たちに提供するために作った商品らしい(うろ覚え)。栄養失調で苦しんでいる子供たちを見て、「自分に何かできないか。」を考えて作ったのがグリコって訳だ。安藤百福氏が作ったチキンラーメンも同じような背景からできている。こちらは戦後の食糧不足の状況の中で、「衣食住の食を満たしたい」という思いから作り始めている。これは、NHKの連続テレビ小説"まんぷく"でも取り上げられてよく知っている人も多いはず。

つまりは、江崎氏も安藤氏も、時代は違うけど、"食"に焦点を当て、食に悩む人達に対して安定的に栄養を提供することを目指した。その後、江崎グリコはお菓子という子供たちの喜びという方向に、日清食品は主食という食卓を豊かにするという方向に事業展開を進めている。

当たり前だが、創業から100年近く事業を継続していく中では相当な苦労や困難があったはず。ましてや、太平洋戦争という多難な時代を経験してきている。想像を絶する状況だったんだろう。その中で、どのように価値提供をするのか、何を目指すのか、そんな葛藤の中で様々な意志決定がなされてきている。それが、企業のDNAとして染み付いて、沿革・歴史に現れてくる。だから、まずは企業のホームページで創業期の状況を確認し、どのような歴史を辿ってきたのかを沿革で見る。言わずもがなだが、オープンになっている沿革は、その企業が世の中に伝えたい内容を載せているはずである。

さらには、その会社に関連する書籍を読むと、より生々しいストーリーが書いてある。社長の対談記事や、過去の経営者が書いている書籍を2~3冊読めば大枠の理解はできる。

「そうか、この企業はチャレンジすることを大事にしてきたんだな。」とか、「何よりも規律を大事にすること、ルールを絶対に崩さないことを大事にしてきたんだな。」とか。(まぁ、ルールを壊せない会社は生き残っていなかったりするのだが。)

組織が大事にしてきたことは受け継がれる

そして、その大事にしてきたことは、役職者(特に役員以上)の経歴を見ることで理解が深まる。どの部署の経験が長いのか。つまり、経験が長いところの仕事の進め方が評価されてきていたり、その部署がその会社にとって、重要な部署だったり、そして、その人自身がその経験をした時に大事にしてきたことが経営方針や意志決定の癖として現れるケースが多い。

当然ながら、部署異動の時には、前任がいて、前任から後任に引き継ぎが行われている。その時に伝えられるのは、"変えてはならないこと"であり、それは"大事にすべきこと"である。

この後の組織理解の話にも繋がるが、営業出身の人が役員になっているケースが多いのか、生産・開発系なのかを見ておくと良い。あとは、どこかで上司・部下の関係になったということが登用されるときに重要になってくるのかどうか。社長と取締役、執行役員の年齢差は。などなど、この辺りを見ておくことで、誰が強いパワーを持っているのか、次に誰が上がってくるのかの算段が付く。

執行役員を任用するのは、取締役の人達。その時に、誰を上げるのか・何を期待するのかの議論も行われていると考えると、上がっていく人達は、今後の会社の方向性を表しているし、その会社が大事にしてきたことを大事にできる人であるはず。

日本企業の中でも特に歴史のある大企業ほど、この傾向は強いのではないかと感じる。なぜなら、守るべきものが大きいから。必ず、現在の役職やミッションは誰かの"後任"であって、その人の想いを受け継いでいる。それが代が重なれば重なるほど、その想いが重くなるし、その想いを受け継ぐ側の責任も重い。

先日、とある企業の創業120周年式典にご招待いただいたのだが、会長と社長の話を聞いていて、「あー、やっぱり引き継ぎ、受け継ぐっていう感覚なのかー。」と改めて実感した。自身の系譜を継いでくれる人、変えるべきところと残すべきことをきちんと理解し、継承と進化を大事にできる人間に事業継承していくのだなと感じた時に、僕が日々考えている、"大事なことは受け継がれる"という考え方が正しいということを実感した。

つまり、"♪大事なのは、変わってくこと、変わらずにいること~♪"ってことだな(from-遠く遠く-by 槇原敬之)。やっぱり、マッキーは良いこと言う。

経営が考えていること、現場のMissionは組織に現れる

次に、②経営はいま何を考えていて、何を目指しているのか。③現場は経営から何を求められ、何をMissionとして仕事をしているのか。この2つについては、お客様の組織を理解することで見えてくる。

なぜなら、"組織は戦略に従う"とA.チャンドラー氏も言っているように、企業が経営戦略を実現させるためのフォーメーションが組織である。そして、伊丹先生が言うところの、市場適合を考えた上での内部適合であり、HRCの内海さんが言うところの、外向きの戦略を考えた上での内向きの戦略で言われているように、経営戦略を経営計画に落とし、PDCAサイクルを効果的に回すために組織を細分化し、その組織にMissionを与え、人を配置している。と考えると、組織がその組織であることには必ず理由があるし、経営が考えていることや、現場のMissionは組織に現れるのである。

組織の仕組みや力学を明らかにしていくフェーズが面白い。組織図がキレイに書けた瞬間や、どうしてこのような組織にしているのかがIR資料やメンバーが聞いている定性情報から紐解けたりする瞬間は、パズルを解いた後や、難しいクイズを解けた後の感覚に似ている。

僕は新しいお客様を持つ場合やメンバーが担当しているお客様の状況を新しく理解する場合、必ず組織理解から始めるようにしている。なぜなら、先程述べた歴史を見た上で、現在の組織を理解することで、その企業が"いま"何を考え、"今後"何を目指しているのか、そして、"いま"何を大事にし、"今後"どのように仕事を進めていくのかが、組織体制とその組織の中核人事を見て、ヒアリングしてきた定性情報を掛け合わせると大抵分かるからだ。

組織がどのような機能に分かれていて、どこがどのような繋がりを持っているのか。誰と誰が繋がっていて、どのような影響力を持っているのか。そして、部署の名前を見てみても、「なぜこの名前なのか?」「どういう意図でここに部署を設置したのか?」という疑問が湧いてくる。そういう1つ1つの疑問を解消していく中で、その企業の意図や意志が伝わってくる。これが組織理解の面白さである。

未来デパートはどんな組織になっているのか?

じゃあ、組織の何を理解するのか?そのポイントは、

1.どのような組織図になっているのか。
2.その組織はどのような戦略を反映していて、何を求められているのか。
3.組織長人事は何を表しているのか/その組織長はどんな人なのか。

の大きく3つ。組織図の作り方や調べ方はまた書いていくが、見るべきポイントを確認していく。

それでは、未来デパートを再び登場させ、こんな組織じゃないかなぁ~?と考えながら、組織の意図を考えてみる。(実在する企業を例に出すと、仕事上知り得た情報と調べたら分かる情報が混在するため)

同じ企業の中にひみつ道具営業部があって、ドラえもんが商品改善要望をあげられるということは、未来デパートは製造業と小売業の役割を担っている訳だ。きっと、百貨店事業から始まり、ひみつ道具を自社製造し始めたという成り立ちなんだろう。なので、ひみつ道具の製造・販売と未来デパートの運営を軸とした事業展開をしていることになる。

ひみつ道具事業だけ考えてみる。ひみつ道具は全部で約2,000個近いアイテムが存在する。1つ1つの製品開発をするためには、大きくカテゴリを括る必要がある。なんと言っても、人気があるのは"タケコプター""どこでもドア"タイムマシン"の3大基本道具は登場回数が多い。しかも、おそらくタイムマシンが一番高額で設置コストがかかりそう、タケコプターが一番導入しやすい。さらには、移動手段系/補助・サポート系/武器系/生活必需品系・・・などなどいろいろとカテゴリは分かれる。

じゃあ組織を見た時に、「タケコプター事業部」と「移動手段開発部」が存在している場合。短絡的だが、タケコプターは重視されているんだなということが分かる。きっと、他にも「タイムマシーン事業部」があるはずなので、組織図を見ただけで、どの商品を注力しているかが分かる。さらには、事業部と並列で、「新規事業開発室」とかがあれば、商品やカテゴリの垣根を超えて、新しい事業を作りたいという意志の表れであろう。

つまり、主力商品は主力商品で1つの事業部として成長させていきながら、カテゴリ毎に製品開発や製品改善を行い、ひみつ道具の中でも新たなカテゴリを生み出そうとしている。既存事業の基盤強化と、新価値創造が大きな経営方針である。

そして、主力事業の事業部長は、引き上げ人材であり今後の中心人物。注力商品の事業部を任せているということはそういうことだと推測できる。そして、その事業部長はおそらく、上から次のポジションの話についての目標設定がなされた上で、ミッション設定をされている。だから、業績については人一倍シビアになっているはず。もしくは、タケコプターやタイムマシーンなどの主力事業は、浸透率が高い状況でそこまでの売上伸長が見込めない。という状況であれば、利益改善がメッセージになるし、新規事業開発室長はやり手のエースだったりするかもしれない。

つまり、その事業部が課せられているミッションが、「売上拡大」なのか「利益率改善」なのか。それが商品ラインナップを増やすことによるものなのか、既存商品に対しての広告投資によるものなのかなどによっても、現場担当者に落ちてくるミッションは変わってくる。

課題を起点とした前工程と後工程を理解する

そこまで細分化された状態で、現場の営業担当は担当者と向き合っている。だから、「直近の課題は○○○で~。」と言われている言葉だけ捉えるのではなく、その裏に何があるのか、経営陣が何を考えているかまでをきちんと理解し、お客様に対峙することで、我々が提供できる価値はより大きく、より役立つものになるはずである。

大事なのは、課題を起点とした"前工程"と"後工程"を理解すること。そのためには、現場担当者が設定されているMissionと、"業務"の流れを理解することが重要になる。

半年もしくは通期の中で組織の中でのMission設計は必ずされている。その担当者は、半年後にどんなことを実現することをMissionとしているのか。そのために、どのようなSTEPで実現させようと設計しているのか。先程の組織の話もそうだが、いつまでに"何"を"どのレベル"で"どのように"実現させたいかが重要になるということだ。

我々マーケティング・リサーチ会社で考えると、お客様のマーケティングサイクルの中で次のSTEPに進むための意志決定の情報を提供するケースが多い。1ヶ月後に社内の最終承認を取らなければいけない商品に対して、いままで、環境分析からコンセプト開発を進めてきた。いよいよ最終パッケージを決めていくフェーズという時に、前段階で何をやっていたのかを理解し、あとどれぐらい意志決定までに時間があるかによって、提案することが変わってくる。

絞り込むフェーズなのか、コンセプトを反映したパッケージパターンの中で、アイデアとして許容される幅を知りたいのか。それは、お客様のゴールに向けた時間軸と、いままで辿ってきたプロセスが分かることによって、最適な提案ができる。そういう意味で、現在向き合っている課題を起点にして、前工程と後工程を理解することが重要になる。

また、Missionを理解しておくと、お客様自身が少しずれているのでは?と考えた場合、助言することができる。我々営業は、お客様が辿り着きたいと思っている場所に期限までに辿り着くためにサポートすることが求められている。お客様が目指す場所からズレていると思えば、遠慮なく言って差し上げることが重要になる。

かなり長文になりましたが、

①その企業がどのような歴史を辿り、何を大事にしてきたのか。
②経営はいま何を考えていて、何を目指しているのか。
③現場は経営から何を求められ、何をMissionとして仕事をしているのか。

の3つの視点を持ってお客様を理解することで、より良い価値提供ができると考えています。

企業の想いを知り、その企業が成し得ようとしている世界観を一緒に目指していくパートナーを志す営業パーソンが増えていく一助になれば嬉しいなと想います。

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きのした@Co-Marketing designer
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