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平出和也さんらの遭難について

■ 良心的な報道

K2西壁で亡くなった平出和也さんたちについて、従来の”英雄視&扇動”の報道とは、一線を画した、ジャーナリズムの良心を感じる報道が、朝日から出ています。

■ 報道の信頼度

登山については、一般の遭難だけでなく、登山の英雄的な行為や偉業と言えるものについての報道においても、マスコミの理解度は低く、報道の信用度は低いです。全く間違いだ、と言えることを平気で含んでいるのは、娯楽映画などを見ていても、分かる通りです。

■ 権威の信頼度も低い

マスコミは、他の報道でもマスゴミであることがバレてきている昨今ですが…。

登山界では悲しいことに、権威とされる山岳団体でも、現代のトップレベルと言える登山を理解できないです。権威は失墜しています。

例えば、登山界では絶対的な権威があった文部省登山研究所のリーダー講習…略して”リー研”の出身のクライマーでも、ロープの出し方を知らないで岩場に来るレベル低下です。もう目も当てられない惨状です。これは語りだすと長くなりますので割愛しますが、興味がある方がいらっしゃれば書きます。

■【解説人語】K2で世界的な邦人登山家が遭難 経験豊富な2人に何が 南米最高峰アコンカグア同行の記者が語る

さて、こちらがその非常に良心的と言える、動画です。

■ 要点

1)条件は良かった
2)敗退こみだった(決死ではない)
3)コンテだった (核心部ではない)
4)まだ7500だった (核心部ではない)
5)氷とともに落ちた

以上が要点のようでした。

これだけを書いても、本格的な山登りをしない人には、意味が分からない、というのが、こうした遭難情報を評価する際の難しい点です。

そこで解説を試みます。本格的な登山を正しく評価できる人が増えることを祈っているのと、一般の人でも、可能な経験から、ある程度の推測や理解はできる、ということを示すため、です。

■ 経験値について

こうした先鋭的登山を理解するのに、何が出来なければいけないのか?
どのような経験があれば、理解できるのか?

ということを最初に述べます。

まずはアルパインクライミングの経験が必要です。ここは大きくロープが出る山登りの方法、技術を理解する、ということです。

私は山登りでは、アルパインクライミングという一般登山の人にはできない、ロープが出るクライミング、いわゆる本格的な山登り…を行うことができます。自分がロープを使う側、で、ということです。ガイド登山のように、使ってもらう側では意味がありません。

実は、そこまで、自力で、つまり、自分の力で、たどり着いた経験がある人でないと、こうした先鋭的登山は、まったく、海のモノとも、山のモノ、とも分からず、全く評価も、推測もすることができないのです…何十年、山に登っていても。ただし、ロープを使うのは、子供がナイフを使うのを覚えるのと同じことで、危険だけれども、難しいことではありません。

40年ほどの昔は、多くの人が難しいルートでなくても、ロープが出る山をしていたので、ロープの使用方法を理解しており、何を間違うと致命的か、など…具体的事例としては懸垂下降時のすっぽ抜けは致命的だが、人的ミス…など、多少なりとも正当な評価ができる人が、一杯いたのですが、今では、できる人がほとんどいなくなった…という業界事情があります。

さらに悪いことに、そこに付け込んだ人が、本当のところは、まったくすごくもない登山を、”俺ってすごいでしょー”と宣伝するのが、ここ20年くらいの流行になっています。代表事例は、栗城劇場です。栗城劇場の本すら出るほどの異常な現象でした。

一般クライマーも、栗城劇場をマイルドにしたバージョンで、実は全然すごくない記録をすごいということにする、のが、流行中。これはSNSの影響らしいです。すごさが分からない人たちからでも、いいね!をもらうと嬉しくなっちゃいますよね。

■ NHKも要注意

実は、NHKもそんな事例の中にひところ、あったりしました。師匠と見た、NHKのスキー滑走の映像では、スキーを担いで上がるルートは、その山にあるバリエーションルートの中では、最も簡単ルートを選んでいたのにも関わらず、最難ルートと評しており、え?!NHKよ、お前もか?!と思ったのでした。

私はこれは、師匠と一緒に見たから、分かったのでした。

大体、海外の登山ルートなんて、日本人の一般ピープルが知っている訳ないだろう…と、あのNHKですら、高をくくって報道しているのか?それとも、裏取りをさぼったのか?はたまた、両方なのか?

最近、NHKは、中国人スタッフによる失言で炎上していますけど、たぶん深く考えていなくて、昔から丸投げ体質、なんですかね。

このように、最近、マスコミは、マスゴミ、であることが一般報道ですら、バレてきています。

登山の世界では、テレビの撮影で、歩荷で呼ばれて行きました、みたいな人は、本格的な山登りをしていれば、ガイド仲間からたくさん話を聞きます。私を指導してくれた講師の一人である、村上先生もそのような一人でした。

で、その人たちの話を総合すると、NHKって言っても、登山知識は、素人さんみたいでした…。

私は以前NHKカメラマンと沢登りにご一緒してもらったことがありますが、あとで話を聞いたら、わざと危険な目に自分を合わせるような山をしてしまった…ということでした。NHKの職員ですら、そういうことをしてしまうのです。北大山岳部出身の方でした。だから、知らないでやっているとは言えないのです。

■ なぜ先鋭的登山を理解するのが難しいのか?

いわゆる先鋭的登山の世界は、そんなことを分からなくて当然の一般市民だけでなく、上記の人のような、社会的地位もあり、知的にも非常に優れ、体力も優れた人たち…アルパインクライミングをきちんとしている人たちからも、きちんとした評価がされにくい状況にあるということなんです。

なぜか?

それは、日本の山は小さく、標高も低いので、規模と標高による困難度のアップ具合が、世界の大きく標高の高い山々で、モノサシに使いにくいからです。

ヒマラヤって言っても、5500mなら都市があるでしょう。つまり一般の人もそこで生活しているということです。そこから8611mまでは、3000m強しかないです。なら、富士山のふもとの富士吉田の人が富士山に行くみたいな標高差です。

しかし、普段、標高4mのところに住んでいたら、2400mでも高山病になります。

これに距離による体力の大小が含まれます。足が速い人もいれば遅い人もいます。一般的には登山では距離ではなく、標高差で体力困難度を測ります。

しかし、標高でどれくらい困難度が上がるのか?は、仲間である他のアルパインクライマーからも理解されづらいです。国内には、そんなに高いところがないからです。富士山は独立峰で特殊事例ですし、海外の山まで、いろいろ登りに行って経験値を貯めるしかありませんが、それが経済的に可能な優遇的地位の人は、それほど多くなく、かつては、医者などが著名な登山家に多かった理由です。なので、海外の経験がある人は、それなりに正確に解説してもらいたいものです。若い方はやってくれています。(例:たけちゃんねるのセユーズは、若いクライマー医師による海外岩場の解説です)

現代の最高峰に属すアルパインクライミングは、最近はスーパーアルパインとか、スーパーアルピニズムと称して一般的なアルパインクライミングと区別しているのではないか?と思いますが… 一般的には、普通に現代フリークライミングでやるマルチピッチクライミングを標高5000mや6000mでやるものが主流のようですが…。そんな標高でやったら、そりゃしんどいはずですが、それがどんな感じか?やったことがないので、周囲も分からないということです。

高い標高でやったことがないだけでなく、低い平地の標高でもやったことがある人がいない、のが現代の山岳事情みたいなことになってしまっています。

結局、評価できる人の人数が非常に少ないので、いたしかたなく、内輪での評価になるのです。これはピオレドール賞も同じです。なんでピオレドールに値する評価があるのか?日本人同士では、もはや評価できる人がいないので、国内のクライマーの評価は、海外から来るもの、になって久しいです。

これは、アルパインクライミングだけでなく、フリークライミングの世界でも起こっています。

もちろん、平出さんや中島さんが行っていたのは、無雪期のフリークライミングではなく、いわゆる雪稜です。高所での。

■ 雪稜とクライミング

雪稜では、雪で使う支点として定番のスノーバーや自然物を使ったルートとしては、3月に立山の真砂尾根に行ったことがあります。ここはクライミング力は必要なく、歩くだけです。それでも、危険なのでロープを出して確保します。これは登山道そのものがなく、稜線を伝いますので、高所登山に近い登り方です。登山道がないので、読図というか地形を読む基本的な力が必要です。

さて、以上のような経験がありますので、一応、雪稜でどのような技術が必要か、冬壁でどのような技術が必要かは知っており、体験レベルではありますが、何が起こるのか、知ってはいます。つまり、スノーバーって言われて何か?どう使うのか?分からないようなレベルは終わっているって意味です。

雪稜というジャンルの登山でも、上級者が登るようなのになると、稜線から、壁、つまり傾斜が立っていくと、足だけでは登れなくなり、両手を使う必要があり、そうなると、クライミングの領域、になってきます。

この分野で、国内入門ルートとされているのは、八ヶ岳の赤岳主稜です。登山学校で到達目標にするようなルートです。(赤岳主稜の前に行っておくべきルートはたくさんあるので、誤解して飛びつかないようにしてくださいね)

私は、パートナーがいなかった&当時所属していた山岳会でも、俺らで連れていく能力はありません、ということで、一人で隣の阿弥陀北稜に行っています。当然ですが、厳冬季です。

まぁ、壁っぽいのは出てきましたが、一瞬で、雪稜にアイスアックス(ピッケル)を使ったクライミング箇所が一瞬だけ出てくる、って感じでした。シングルピッチ程度のクライミングが必要なルートという意味です。

これが赤岳主稜では、支点が整備されたマルチピッチ、つまり複数回になる、というはずです。

■ 氷と岩

マルチピッチの冬季登攀では、私はセカンドですが、赤岳主稜よりも、もっと困難な、岩と氷が混じったルート、ミックスルートの荒船山の昇天というのに行ったことがあります。

登攀に必要な技術、やること、内容としては、おそらく先鋭的登山と同じです。使う道具は同じです。ただ難度や環境が一般の人にも耐えられる程度に、易しくなっただけです。

荒船昇天は、岩と氷のルートで傾斜も切り立っており、デシマルで5.9は、越えていると思うので、登攀能力としては、本格的だと思いますが、標高の低い里山ですし、距離的に4Pしかないし、セカンドで行っているので、自分で登ったわけではありません。

もちろん、セカンドであっても、何か不測の事態が起きたときのための技術を身に着けていないなどだと、自力で登れなくなっっちゃったり(例、自己確保で登る方法を知らない)、リードクライマーの足を引っ張って、完登できなくなれば、ヘリ出動になるので、そもそも、連れて行ってもらえません。

準備不足のセカンドクライマーを、これまた準備不足のリードクライマーが連れて行ってしまった、そのような事故事例も良く聞くのが日本の登山界です。

岩の技術も、アイスの技術も、両方必要です。M5くらいだと思います。

余談ですが、平出さんたちの気象アドバイスをした猪熊さんとも面識がありますが、M5しか登れない…と私がいうと、それでもすごい!と褒めてもらいました…。

私もM5登ってる他のクライマーに会ったことがほとんどないです。業界は、いきなりトップクライマーか、もしくは全くの一般登山ハイキングレベルの人しかおらず、二極化しています。

あの時の猪熊さんの言葉には救われたなぁ。ちなみに、雪がないため冬季登攀が存在しない、九州では、”M5”という言葉自体が分からない人ばかりのようでした。

以上が当方の経験の紹介です。

■ そもそも…

さて、その経験を踏まえて話しますと…

いわゆるトンデモ登山というものは、

 そもそも、選ぶルートが、実力不相応

なのです。

この平出さんと中島さんのK2は、私は日ごろ、平出さんが選んでいたルートが、渋いというか、ほとんどの人が知らないような、聞いたことがないような山が多いこと、しかも、登山家としての名声は確立済み、なことから、なんでいまさらK2?と思ったのでした…

…というのは、K2って、今エベレストみたいに商業登山に侵されて、行列のできる山になっており、K2のラッシュアワーってこんなのです。

https://sg.news.yahoo.com/k2-rush-hour-climbers-wait-123846863.html 

もちろん、一般の人は知りませんが、こんな状態であることは、普通にただ英語が話せるだけで、クライマーの能力としては、一般クライマーである、私みたいな人にも回ってきます。海外登山通の平出さんらが、知らないはずがありません。

そのため、このような状態のK2にバリエーションルートといえども、心惹かれるとは、”なんか、平出さんらしくない”という印象を持ちました。

しかし、らしくない、の中に、実力不相応、という部分は、含まれていなかったようだ、とこの動画を見て結論しました。

魔が差した、つまり、ド素人さんにも分かるような有名な山に登って、分かりやすい栄誉に浴したい、

という話ではなかったみたい。

ちなみに 一般クライマーといえば、アルパインクライマーから、フリークライマー、はては、ボルダラーまで、この一発逆転の分かりやすい栄誉に浴したい、無知な人からすら褒められたい、という欲に負けて、実力不相応のルート…だいたい有名なルート…を選択をすることが、事故の大半の原因となっています。(例:俺ジムで5.11登れるから、北岳バットレス四尾根行く)

■ 条件は良かった

さて、考察を続けます。

「悪いね!」は、クライマーにとって、倒錯した喜びです。「悪いね~」というのは、登りにくいという意味ですが、クライミングって、やっている間に、様々な苦難に耐性が付いてくるので、”もっと悪くても、登れちゃうよな~俺”、となってきます。

その魔力は、強力で、オリンピックで競う、競技では、どんどんホールドを 悪くしていくのです。

”悪い”の内容にも、いろんな意味合いがありますが。一例は、遠くする、です。5m先にあれば、人類にとって不可能ですが、3m先なら届く人もいるでしょう。

高所で行う高所登山にとっては、悪さ、は天候です。なので、平出さんたちは、猪熊予報士の助言を得て登っています。

余談ですが、一般登山者でも、”ヤマテン”という専門天気予報を、山別に取得するのが、山ヤの通例です。

  条件が悪いときには、ギリギリのチャレンジの山はしない… 

ことが大事ですが、このギリギリ度合いを間違う人、多数なのが登山の世界です。

例えば、国内では、八ヶ岳の天狗岳とか、それこそ阿弥陀北稜とか、ルート自体が簡単だ、と言われている場合に、この登山は難しくないという前提を持ってしまったがために、行くべきでない悪天候で、ツッコんで遭難してしまうのが大学山岳部の通例となっています。

”ルートが簡単なこと”と”悪天候”って別の話ですよね。それが分からなくなるのが人間なのです。

体力的にゆとりがあっても、チャレンジの山を、悪天候時に行ってはならないのです。

悪天候では、ハイキングみたいな山でも、フラットな山=風を遮るものがない=低体温リスク、というリスクがあることをハイキングの時点で学んでいないといけないのです。

従って、悪天候リスクを学ぶには、逆に言えば、ハイキングレベルの山に行ってるような段階で、悪天候時に出かけてこないと、実感レベルで山の脅威がどういうものか、理解できないのです。もちろん、すぐに引き返せる状態で。

平出さんたちは、条件の良いときに出かけているので、このトラップにも引っ掛かっていなかった。つまり、とても保守的だということです。イケイケ登山の反対です。

■ 敗退こみだった(決死ではない)

敗退こみ、というのは、危険を感じたら、引き返す心づもりがある、ということです。

イケイケ自慢&危険なクライミングを好む人は、「敗退なしで!」と言います。こう言われたら、「一人で行ってきて」と言い返しましょう。

敗退を想定するには、ロープ長の長さを計算する必要があり、また、敗退のために余分なロープを持っていくことがあります。

決死の覚悟で行くルートがかっこいい、という、間違った思い込みが、登山界やクライミング界には蔓延しています。特に難しい山がない地方では、多数派です。持病の薬を持ってこなかったり、ピンチ食を持ってこないで山に入る人が、その自慢話をしたり、わざとアルコールを飲んで登って見せたり、と武勇伝にしてしまっています。クライマーになると、敗退用のロープを持ってこないで山に入るクライマーが武勇伝にしたりと、倒錯がさらに多いです。

平出さんたちはこれについても、敗退を前提に計画を組み立てており、事故につながるような悪い判断は、していなかったようです。

■ コンテだった (核心部ではない)

これは、クライミングをしていても、理解が難しいかもしれません。

コンテというのは、簡単なところを素早く通るために使う技術です。

通常はスキルが下の人が前を歩き、後ろが距離を適当に調整してくれます。落ちたとしても二人もろとも、を防ぐために行い、御坂山岳会の時代に、先輩がやってくれました。

一度、台湾で、クラックの5.4が、あまりにも簡単だったので、コンテでもいいのでは?とアメリカ人のクライマーに持ち掛けると、彼は5.12まで登れる人でしたが、断られました。そこは、20mはあったと思いますが…5.11がギリギリ登れる程度しか登れない私ですら、カム3つ…という易しさだったのです。それでも、コンテは断る、のは、これがクライミングの垂直のレベル感だからです。彼は正しい判断をしたということです。

一般的には、コンテは落ちることが考えられないくらい簡単で、落ちたとしても摩擦ですぐに止まりそうな、ロープをつないでいる人が、巻き込まれが考えにくいレベルの、とても簡単なところで出します。

ガイドが出すタイトローピングも一種のコンテですが、私は自分がされる側はいいけど、する側には体重的に向かないので、自分では使いません。される側になるにしても、岩の隙間を通って、保険を付けてから、しかつなぎません。

余談ですが、フリークライミングしかやらないクライマーは、この技術を知らない人がほぼ9割で、マルチピッチのルートで出てくる、歩くだけの簡単な個所でロープを解いてしまい、その箇所でほっとして、うっかり転んで大事故になる、というのが、定番の遭難セオリーです。ロープの出し方を学ばないでみんなルートに来るんですよね。

こうしたフリークライミングのクライマーは非常に多いです。フリークライミングで使うルートは、クライミング自体が易しくても、場所そのものが危険なことが多いからです。

さて、コンテだったということで、平出さんたちが、とても簡単なところで遭難したことが分かりました。

■ まだ7500だった (核心部ではない)

まだ7500というのは、山頂までまだまだ…1100mも残っており…、まだアプローチの箇所だということです。

登山にも、核心部ってありますよね。 例えば、不帰だの、ジャンダルムだの、いろいろ怖そうな名前がついていたりします。名前がついていない普通の登山道でも、長さが核心だと、日の短い秋に登れば、暗くなってしまい、危険に突入するかもしれません。

まぁ、要は、”誰でも用心して、気合を入れて登る箇所”と、そこまで行かず、まだ難しい箇所ではないから、と”気楽に登っている箇所”、つまり、アプローチ、と二つの心理的に異なる箇所があるということです。

遭難された箇所は、まったく核心部ではなく、アプローチだったとのことで、登りたかったルートの核心に触れずに亡くなったとすれば、

 心残り

だっただろうなぁ…、無念だっただろうなぁ、と思いました。

■ 氷とともに落ちた 

氷とともに落ちたという目撃情報があるそうです。とすれば、アプローチでの落氷による事故、ということになりそうです。

私の眼裏に浮かぶのは、北岳バットレス4尾根に御坂山岳会の先輩と同期の3人で出かけたときのことです。

まだ下部岩壁のとっつき、つまりアプローチ…にいるのに、ブーンと何か音がして、仲間の初心者男性のヘルメットに落石がかすめて行ったのです。

ブーンって音は、ヘリかなにか?みたいな感じでした。でも、石のサイズは、小石レベルだったと思います。

かすめた男性本人は、それを見ていないので、え?何?くらいの認識でしたが、私と先輩はそれを目撃して、無言で敗退を決めました(笑)。

今日は危険だ。

雪上で、落石や落氷があっても、音がしない上、音に気が付いたときは、すでに接近して、加速がついており、すごい破壊力で、しかも、避けようにも、気が付いたときにはもう遅いのです。当たったら死にます。死ななくても、行動不能な大けがに至ること確実な感じでした。

岩場のルートでも、RCCのボルトがひん曲がっているなどは、落の痕跡です。岩場での落より雪上の落のほうが怖いし、破壊力も大きいです。

その北岳の時は、先輩と無言で通じ合った瞬間でした。当たり損ねた?仲間は、未練たらしくルートを眺めていました。

その時は、その人を説得するために、「このルート、女性にはちょっと難しすぎるね」みたいな言い方を先輩がしたと思うのですが…記憶があいまいですが…

その言い方を、その未練っぽい仲間を体よく説得する材料に、私が使われているなとスッと感知しました…。もう帰りたい…帰ろうよ、と言い出すのは、男性には難しく、女性には易しいのです。

で、無事帰ってきました(^^v)。

これだけのリスクの解説を、現場でとっさにするのは難しく、これが、山の経験値、と言われるものの、中身です。

そして、同じ経験をしても、解釈が多様だ、ということの具体例です。落を見なかった仲間は、俺だったらもっと行くのに…、と思っていたでしょう。今回は女がいるから、しゃーないな、とすら思ったかもしれません。自分は守ってもらった立場なのに…。

…というようなこと…経験したことは同じでも、見え方による違い、立場の違いによる見解の相違…が、かなりな頻度で起こるのが山です。

仮に、これが男性1対男性1だったら…? 行きたいという人に、言い返すのは難しく、さらに、女性1対男性1なら、男性は、絶対に俺の意見が上だ、俺が行くと言ったら行く、と思うでしょう…。実際、自分の意見が通りやすいから女性と組みたい、という人は多いです。女性の側からすると、巻き込まれ事故ですね。女性は気を付けましょう。

で、平出さんたちの話に戻ると、

 雪上の落って、予見不可能

なのです。もちろん、気温が上がって緩むと、落石も落氷も、落ちやすくなります。

雪が落ちる現象といえる、雪崩の危険があるルートでは、早朝と夕方しか登らない。雪崩を避けるためです。雪稜で学びます。

アイスクライミングでも、気温が十分にマイナスにならないと登りません。12時から14時は基本的に要注意で、逆に寒ければ寒いほど安全と言えるのです。

こうしたことは、冬季のクライミングや登山をやらない人は、一生かかっても、冬季のリスクについては疎いままです。

むろん、平出さんたちは、このことに全く当てはまりません。

彼らほどの経験者でも、落には、対応のしようがない、ということなのです。

一般の能力しかないクライマーが、カッコつけて、解けかけた氷瀑なんて取り付くものではありません。氷本体が解けなくても、上から何か落ちてきますよ?そして、それは避けようがない、完全に

 運

の世界です。

登れたとしても、偶然、運が良かっただけのことですので、俺の実力だ、と慢心するのは辞めましょう。慢心しているかどうか?は記録の書き方で分かります。

読んでいて、相手の実態を知っているために、こちらが恥ずかしくなるようなのを読んだことがあります…。

■ まとめ

以上で、平出さんたちがわざとリスクに近づいて行ったのではなく、

 やむを得ない事情

で、命を落としたのだということが分かった解説動画でした。

心より、ご冥福をお祈りしています。

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