安房直子さんの絵本
3月も半ばだというのに、まだ冷たい風が吹いています。そんなときに、ふと思い出して、引っ張りだす絵本がこちら、『はるかぜのたいこ』。安房直子さんのちょっぴり不思議な文章を、葉祥明さんの優しい絵が彩ります。
さむがりうさぎは、くまの楽器屋さんにやってきます。寒くて、寒くてたまらないうさぎは、くまに聞きます。“なにか あったかくなる いい ほうほう ないでしょうか”。するとくまは、“ああ そんなら うさぎさん いい がっきが ありますよ”。それは大きなたいこでした。
たいこをたたくと、春のよもぎの野原にいるみたいな気持ちになった うさぎ。どどーん どどーんと、10(とお)も20(にじゅう)も たたきました。
とてもシンプルなお話なのですが、なんともほっこり、心がぽかぽか温まります。春を呼ぶたいこの音が、確かに聴こえてくるようです。
この絵本は1980年初版。読み継がれてもう、40年です。
そしてもう1冊、安房直子さん原作の絵本をご紹介。『空色のゆりいす』は、安房さんのなんとも美しい世界に魅せられた いもとようこさんが「大人になっても忘れたくない名作絵本」として新たに描かれました。
若い椅子つくりと、おかみさんに、女の赤ちゃんが産まれます。けれど悲しいことに、その子は目が見えなかったのです。
椅子つくりは、空を見上げながら思います。“もし、あの子に、たったひとつの色を教えられるなら、空の色を教えたい”と。
ある日、椅子つくりは、絵を描いている小さな男の子に出会います。その男の子に青い絵の具をわけてほしい、と頼みますが…「本当の空の色は、空からもらうんだよ」
空からもらった色で、女の子のためにつくった ゆり椅子を塗り上げます。すると…目の見えないはずの女の子に、空が見えたのです。
このあと、真っ赤な紅ばらからもらった赤、海の歌…鮮やかな色と音が奏でる、美しい物語は続きます。絵本といえども、こちらは文章量が多めなので、大人でも読み応え十分。
独特の味わいたっぷりの安房直子さんの作品はほかにもたくさん、あります。春の読書のお伴に、どうぞ。