最高の調味料ってなんだろ。
幼い頃、よく聞いた隠し味。それは食事をつくっている人の思いや愛情だった。感情をまるで調味料かのように表現する人々や絵本をよく目にした。もちろん幼い私は、感情一つで味が変わるのかなんて分からず不思議だった。しかし、それをはっきりと自覚させることが19年という長い年月が経って起こった。
19歳最後の一ヶ月、一人旅をした。片道約90kmの道を相棒のリトルカブと一緒にカメラ片手に好奇心のまま走り抜けた。そんな旅の中、私はその調味料が一体何なのか少しだけ分かった気がする。
よし、行こう!と思ったのは突然だった。コロナにより渡航が制限される中で10代最後、何かしてやりたいというコロナに対する心残りがあったのかもしれない。高校3年生という時代に穴があき、新しい学校生活ではマスクが必須、お互いマスクの下は知らない日々。そんな中、次の進路への準備。正直疲れていたのかもしれない。ゆっくり自分自身と向き合う時間が欲しいと思っていたが、その思いを無視し続けていた。
しかし、20歳という節目を迎える中、この19年間で自分の価値観、視野が広がっているのを実感していた。同時に世界は広いと痛感していた。この20歳という大きな節目を迎える前に、今、向き合わなければならない。コロナの規制も緩和され、これは行くしかないと思った。
出発初日。その日は大寒波が押し寄せ、すごく寒かった。風もあり、橋の上では風に煽られ怖かった。風が強く、隣にはトラックがよく走る。中々スピードが出せない。いくら厚着しようと寒さが無くならない。カイロも貼らず、正直この寒さをなめていた。もう引き返そうかなって思ったりもした。けどここで引き返したら、なぜか自分に負ける気がすると思った。
天候さえも楽しんでしまおう、そう思った。アクセルを回し一歩一歩着実に進んでいった。目的地に着いたのは17時ごろ、出発から5時間も経過していた。こんな長時間、運転できるんだ自分!と思い少し嬉しかった。
暮夜、テラスには私一人。星がよく見える。すぐ近くにある島・橋・海が夜の暗闇に紛れてかすかに見える。波音がよく聞こえてくる。
ソファに座っていると、となりのキッチンから「これ良ければ」とクレームブリュレを持って来てくれた。波音・星空に囲まれ、私はクレームブリュレを食べた。つくづく思う。波音には時間を止めるような、ゆっくりにするような効果があるのではないかと。ゆっくりと時が進む世界で今日の出来事を振り返りつつ、自分と向き合った。
行こう!と思ってからここに着くまでどれほど大変だったか。自分は何が好きなのか、得意なのか。自分で決めたことを達成するということの楽しさ。19年間山あり谷ありの人生だった。色んな事を思いながら食べるクレームブリュレは格別だった。
その時、幼い頃の隠し味の意味が1本の線になった気がした。
「その食事を頂くまでの過程」それこそが隠し味という最高の調味料ではないかと。この調味料は、自分自身で加えるアレンジ調味料みたいなもの。いわば、食べる本人もシェフになれるということ。この調味料には、本人が食べるまでに感じた沢山の感情や周りの情景・雰囲気が含まれる。それ故に、個人によって最高のアレンジは異なる。と隠し味と呼ばれる感情の調味料の意味を私は20歳手前で理解した気になった。
だからか、キャンプで作るカレーは美味しいのかと。
食事をいただくまでの沢山の記憶や思い出、誰かと食べるのであればその人との記憶や思い出を少しだけでも思い浮かべることで、どんな食事も元気を貰える最高の食事に生まれ変わると私はおもう。
毎日会っている家族は難しいかもしれない。けれど、どんな些細なことでもいい。なんなら、食べながらアレンジしてもいいと思う。そうすれば毎日の食事さえも元気を貰える最高の食事に生まれ変わると私はおもう。
有り難いことにまだまだ食事をする機会は残ってる。楽しみだ。
#元気をもらったあの食事
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