「コロナ患者360人余の往診から見えてきたもの」
TONOZUKAです。
コロナ患者360人余の往診から見えてきたもの
以下引用
在宅医療に特化した診療を展開する医療法人社団悠翔会(理事長・佐々木淳氏)は、東京都医師会と連携し、2021年8月11日から首都圏で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の自宅療養者を対象に往診を展開。9月3日までに360人を超える患者に対応してきた。自宅療養を強いられる患者を救うために日夜奔走する佐々木氏らが、往診の現場で見たものは何か。
8月30日夜。佐々木氏は、厚生労働省の会議で「在宅コロナ医療の現実」をテーマに講演した。講演後、3400人を超える人が聴講してくれたことを知った佐々木氏は、「自宅療養を強いられた患者を救うことの責任の大きさを痛感した」と振り返っている。
佐々木氏が伝えたかったのは、以下の8点に集約される(佐々木氏の講演を基に編集部で再構成しました)。
ポイント1:オンライン診療には限界がある
新型コロナ患者については、特に接触による感染リスクを減らすためにリモート診療の有用性が強調されています。確かに、その患者のことを熟知した(あるいは最近の心身の状況をきちんと把握している)医師であれば、安全なオンライン診療ができると思います。しかし、在宅酸素療法や高用量ステロイドの投与など、侵襲の小さくない医療を提供するにあたり、初対面で相手のことを十分に把握していない状況で、果たして本当にオンライン診療で完結させていいのでしょうか。
私たちは中等症以上の患者の場合、原則として往診し、採血も実施しています。分かったことの一つが、「既往歴なし」とされている患者の中に「重度糖尿病の人が隠れている」ということでした。印象としては、4人に一人ぐらいはいます。不用意なステロイド投与で、逆に高血糖や糖尿病性ケトアシドーシスなどのリスキーな状況を作る危険性があります。
もし、リモートで完結するのであれば、少なくとも訪問看護を導入し、最近の血液データがなければ血糖くらいは測定すべきだと思います。
ポイント2:トリアージは効果的に行われている
確かに、重症患者が救急要請しても直ぐに搬送できない、という状況は少なくありません。しかし、保健所が重症度に応じて入院調整をしており、重症の人は100%入院(80%が24時間以内に、それ以外の人も48時間以内)し、中等症IIの人は33%が入院(33%が24時間以内に、それ以外の方も48時間以内)できています。入院が必要と医師が判断すれば、少なくとも48時間以内には入院ができる体制にあります。その間、自宅で安全に過ごせるよう、しっかりとサポートすれば、命をつなぐことはできるということです。
ポイント3:呼吸器軽症・消化器重症の患者に注意
どんなに全身状態が悪くても、動脈血酸素飽和度が96%以上あれば、COVID-19としては軽症となります。しかし、軽症コロナの約7割は、強い消化管症状を理由に我々に往診が依頼されたケースでした。
中には5日間、激しい嘔気・嘔吐と下痢で、ほとんど経口摂取ができず、重度の脱水の状態で往診・点滴をしたケースもあります。外出ができない状況の中、一人で自宅で干からびてしまう「軽症」の人が実はたくさんいるのではないかと懸念しています。酸素飽和度だけではなく、経口摂取・飲水量を慎重に確認すべきです。
ポイント4:ステロイドは早期投与、それとも慎重投与
従来株流行下での高齢者を対象とした複数の研究が、ステロイドの早期投与に否定的な結果です。最近のプレプリント1 )でも、特に在宅酸素を必要としないケースへのステロイド投与は90日死亡率を2倍に増やす、低流量酸素(鼻カヌラなど)のケースでも死亡率を下げない(逆に上がる可能性がある)とされています。
ステロイドのエビデンスは、重症者の死亡率を下げることです。一部地区医師会などで推奨されている「早期投与で重症化を防ぐ」という解釈は、少し慎重であるべきかもしれません。
もちろんデルタ株は従来株よりも発症までのスピードが速く、重症化率も早いので、これまでのエビデンスをそのまま適用すべきではないかもしれません。私たちも少ないケースですが、自分たちの診ている患者の経過を追いかけていきたいと思います。
ポイント5:ステロイド投与時は採血すべき
対症療法、在宅酸素療法(酸素飽和度93%以下)、ステロイド投与(発症から7日以上、あるいは3日以上の発熱という指針もある)。これら全てがリモートで完結できますが、それで本当にいいのでしょうか。特にステロイド投与を行う場合(あるいは重症化しそうなケース)については採血をしたほうがよいと思います。
また、(1)消化管症状がある方は状況に応じて点滴、(2)未感染の家族が同居している場合はゾーニングの支援と指導、(3)中等症以上の患者には最悪のシチュエーションについての説明も念のために行っています。
ポイント6:コロナ医療は災害医療
コロナ在宅医療の基本は、「完成度の高い診療を少数の人に」ではなく「必要最小限の医療をより多くの人に」だと思います。これは災害時の医療の考え方と同じだと思います。コロナ災害に立ち向かう災害医療が求められると感じています。
ただし、災害医療だからといって、「必要最小限の医療」が「ただの手抜き」であってはならないでしょう。どこまでの医療がその人にとって必要最小限なのか、医師のプロフェッショナルオートノミーが問われますが、日本在宅ケアアライアンスが医療提供プロトコルを発表しているので参考になります。
ポイント7:往診のスタイルは3段階
我々が行っている往診は、以下の3つのスタイルに分かれます。
(1)オープンエア診療
一般的な往診とコロナ往診の最大の違いは、「患者が寝たきりではない」ということです。皆さん具合は悪いですが、トイレまで歩行できる人なら玄関まで歩いてきていただいて玄関で、あるいは一戸建てであれば軒先・庭先で診療することができます。そこは個室と違いオープンエア空間ですから、厳格なPPEは必要ないかもしれません。呼吸回数の確認、採血、酸素飽和度確認、血糖測定、点滴……のいずれもが軒先診療で十分可能です。
(2)室内往診(換気良好・室内簡素)
室内に入るときは、フルPPEを原則としています。しかし、(1)換気が良好であり、(2)患者・家族も全員マスクをしていて、(3)室内もきれいに片づけられている、(4)立位のまま診療ができる──、そういう状況であれば通常のPPEで対応しています。
(3)室内往診(換気不良・室内乱雑)
中には、換気が困難な空間で、家族4人が全員感染し、ゴホゴホと咳をし続けている例、患者は布団に寝ており点滴・採血が必要だが、そのためには荷物をよけて、膝をついて処置をしなければならない例などがあります。そのような状況であれば、通常のガウンではなく、足や背中も覆える防護服を使用することもあります。これが適切なのか分かりませんので検討を続けているところです。
ポイント8:メンタルケアの重要性
自分自身も経験したのですが、医療者の「プチバーンアウト」があり得ます。災害支援に携わった人なら、「ああ、あれだ」とお分かりになるかもしれません。支援者も隠れた被災者なのです。自分はスーパーマンではないし、自分の背中は見えない。みんなで互いを気遣い合いながら、必要に応じて専門家が介入できる仕組みが必要だと思います。
コロナ災害の被災者を一人でも少なくしたい
新型コロナとの戦いは道半ばです。医療の総力戦と言われますが、在宅患者への往診だけが新型コロナとの戦いではありません。ワクチンの接種、発熱外来での早期診断、かかりつけ患者への感染予防教育、感染したかかりつけ患者のフォローアップ、コロナ以外の疾患の適切な管理……それぞれの持ち場で、誰もがベストを尽くしています。
在宅患者への往診も、参加クリニックがどんどん増えてきているのを感じます。8月上旬は電話が鳴りやまない状態でしたが、9月に入って、保健所から当院への依頼件数が減ってきています。これは患者数が減ったということではなく、コロナ往診に対応できるクリニックが増えている、ということなのだと思います。
あと一息で終わるのかどうかは国民のみなさんの協力次第です。医療の総力戦から社会の総力戦へ。医療者も、それ以外の人たちも、それぞれがやれることをしっかりやって、このコロナ災害の被災者を一人でも少なくしたいと願います。
■医療法人社団悠翔会のプロフィール
*理事長・診療部長:佐々木淳氏(1998年に筑波大学医学専門学群卒表後、三井記念病院・消化器内科、東京大学医学部附属病院消化器内科を経て、2006年に悠翔会の理事長に就任)
*2006年8月、在宅医療に特化した診療を開始
*2021年5月現在、東京都8カ所、埼玉県3カ所、千葉県4カ所、神奈川県2カ所、沖縄県1カ所の計18カ所の診療拠点を展開中
*総人員は76人の医師を含む277人(2020年)。同年に診療した総患者数は5218人
■参考文献
1)Early initiation of corticosteroids in patients hospitalized with COVID-19 not requiring intensive respiratory support: cohort study
doi: https://doi.org/10.1101/2021.07.06.21259982
■参考動画
・8月30日 第2回講演会「コロナ自宅療養者への医療提供」(厚生労働省)
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