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3400万円を持って死んだ身元不明の遺体 『ある行旅死亡人の物語』を読みました


概要

現金3400万円を残して孤独した身元不明の女性、 

あなたは一体誰ですか?   

 

はじまりは、たった数行の死亡記事だった。警察も探偵もたどり着けなかった真実へ――。 「名もなき人」の半生を追った、記者たちの執念のルポルタージュ。ウェブ配信後たちまち1200万PVを獲得した話題の記事がついに書籍化! 

 

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2020年4月。兵庫県尼崎市のとあるアパートで、女性が孤独死した。 

現金3400万円、星形マークのペンダント、数十枚の写真、珍しい姓を刻んだ印鑑......。   

記者二人が、残されたわずかな手がかりをもとに、身元調査に乗り出す。舞台は尼崎  

から広島へ。たどり着いた地で記者たちが見つけた「千津子さん」の真実とは? 

「行旅死亡人」が本当の名前と半生を取り戻すまでを描いた圧倒的ノンフィクション。

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読書感想文

 現金3400万円を持っていた「田中千鶴子たなか ちづこらしき人が発見されたアパートは、風呂の無い、殺風景なアパートだった。
 大金を持っていながら、なぜ安い賃貸に住み続けていたのだろうか。また、謎は他にもあった。
 彼女には、住民票が存在しなかった。免許書や保険証など、身分を証明する物も持っていない。「田中千鶴子」という名前は、通帳などから推察して、「恐らくこの女性の名前だろう」となっているだけ。しかし、その説を否定するような所持品もあった。それが、『ロケットペンダント』だ。
 彼女は、星マークのペンダントを持っており、そこには「141391 13487」と書かれた紙切れが隠されていた。そして、1000ウォン札(韓国の紙幣)も持っていた。この事から、韓国や北朝鮮の工作員・スパイなのではないかという説が浮上する。だから、「田中千鶴子」という名前は偽りの身分で、本名の特定に至るのは難しいと考えられる。
 彼女が裏社会系の仕事に従事していたと考えると、大量の現金を持っていた事や住民票などの身分証が無い事にも、つじつまが合う。韓国の紙幣や暗号の書かれた紙を持っていた点などからも、推察できる。

 因みに、彼女が住んでいたアパートは「錦江荘」という名前。関係ないとは思うが、韓国には同じ名前の川が流れている。

錦江(きんこう、クムガン)は大韓民国の中西部に位置する主要河川であり、韓国第三の河川である。百済の古都である忠清南道公州(공주、コンジュ)からは熊津江(웅진강、ウンジンガン)、忠清南道扶余からは白馬江(백마강、ペンマガン)とも呼ぶ

錦江 (韓国) - Wikipedia

 錦江荘は他の賃貸ほど厳重な審査もなく、前の住所すら書かずに契約できたようだ。あえて言葉を選ばずに言うなら、「杜撰ずさん」である。
 彼女が多額の現金を所持していながら、厳重なセキュリティのマンションなどに引っ越さなかったのは、こういう所でもなければ住めなかったからではないか。
 彼女は携帯電話を持っていない。連絡手段から交友関係を洗い出せるものだが、そういった事も出来ないようになっていた。これも賃貸契約同様、信用情報が必要になってくるものだ。
 恐らく彼女は、引っ越したくても引っ越せない事情があったのだろう。
 その事情も、恐らく表立っては言えないものだ。そうでもなければ、身元が分かるものを一つも持っていないのはおかしい。
 これを読んでいる貴方も、自宅のクローゼットを漁ってみてほしい。保管しないといけない書類などに、自分の個人情報が書かれているだろう。そういったものは誰しも、家にあるはずなんだ。なのに、この女性は持っていなかった。
 これは、「意図的に自分の個人情報を隠している」と言えるのではないだろうか。
 何故そこまでして、彼女は自分の事を隠そうとするのか。
 ――その理由はただ一つ。彼女が、韓国か北朝鮮の工作員・スパイだったからではないか。
 そういった結論に着地するのである。

 少し本題から逸れるが、彼女には、ぬいぐるみで遊ぶ趣味があった。それは遺留品からも推察できる。
 彼女は大きい犬のぬいぐるみに「たなか たんくん」と名付けて可愛がっていた様子が、写真に残されている。
 因みに、「たんくん」という名前は、人名はもちろんだが、ぬいぐるみに付ける名前としても、あまり馴染みがないものではないだろうか。
 この点について本著では触れられていなかったので、私なりに調べてみた。
 「たんくん」は、韓国語に存在する言葉だった。

땅꾼 名詞
1 뱀을 잡아 파는 일을 직업으로 하는 사람.
1 タンクン。へびとりめいじん【蛇取り名人】: 蛇をとって売ることを職業とする人。

タンクン [韓国語 語義解説,活用形] (wordrow.kr)

 これともう一つ。

檀君(だんくん、朝鮮語: 단군 タングン)は、13世紀末に書かれた『三国遺事』に初めて登場する、一般に紀元前2333年に即位したとされる伝説上の古朝鮮の王。『三国遺事』によると、天神桓因の子桓雄と熊女との間に生まれたと伝えられる[1][2]。『三国遺事』の原注によると、檀君とは「檀国の君主」という意味の号であって個人名ではなく、個人名は王倹(おうけん、朝鮮語: 왕검・ワンゴム)という

檀君 - Wikipedia

 これは私が推している「韓国か北朝鮮の工作員・スパイ説」を前提としたものだが、もしそうなら、この上記二つのどちらかを意味した名前ではないだろうか。

 因みに、著者はそれほど裏社会系の説は支持していない。また、本の中では、ちゃんと身元が判明している。
 ――彼女は、「沖宗」という印鑑を持っていた。

もしかしたら、行旅死亡人の彼女は旧姓、沖宗なのかもしれない。ひとまずそう仮定して、各地の沖宗さんたちに取材していくと、段々と家系図ができあがっていった。

 最終的に、系図上の空白は広島市内に絞り込まれていったため、私たちは6月、広島市を訪れた。駄目で元々の調査行だった。

 レンタカーを借りて、ひたすら各所の沖宗さんを訪ねて回ることほぼ丸一日。タイムリミットぎりぎりの夕刻に会えたある沖宗姓の市議会議員(当時)の男性が「そういえば、亡くなった母はきょうだいのことを話したがらなかった」と気になる言葉を口にした。とはいえ、女性の身元判明につながる取材の成果はない。半ば落胆しつつ大阪へ帰ると、翌日、その男性から電話があった。

「私の叔母でした」

 役所に行って戸籍を見てきたところ、彼の母は四姉妹で、母は長女、行旅死亡人の女性は次女に当たるのだという。戸籍の画像を送ってもらうと、やはり間違いなかった。なお、女性に結婚歴がなかったこともわかった。

 「名もなき死者」が本当の名前を取り戻す
 こうして、「(自称)田中千津子」さんは広島市出身の「沖宗千津子」さんだと、半ば判明したのである。

 なぜ「半ば」か。それは、ここで確実に判明したと言えるのは、あくまでも彼の叔母に、沖宗千津子さんという長年行方不明だった女性がいたという事実だけだからだ。その女性と、尼崎市のアパートから遺体で見つかった女性が同一人物であるかどうかは、DNA鑑定を経なければわからない。身元の特定とは、想像していたよりはるかに複雑な大仕事なのだった。

 それから兵庫県警が男性とその親族からDNAを採取し、科学捜査研究所(科捜研)で鑑定した結果が数カ月後に出て、ようやく遺体が沖宗千津子さんに間違いないと証明された。相続財産管理人の弁護士は、特定された親族を沖宗千津子さんの相続人とする手続きを進めて、残された財産が国庫に編入されてしまうという懸念された事態も防ぐことができた。

 そうして、無縁仏になりかけていた沖宗千津子さんの遺骨は、広島市にある男性の菩提寺に納められることになった。

サンデー毎日:渾身ルポ 3400万円の現金を残して孤独死した女性 あなたは一体誰ですか? 警察も解明できなった「名もなき人」を記者が追った | 週刊エコノミスト Online (mainichi.jp)

 「なんだ、身元が判明したならいいじゃん」で終わりにはならない。まだまだ謎が残る。
 賃貸契約書によれば、契約したのは「田中竜次」という男性で、沖宗千鶴子さんではなかった。だが、実際住んでいたのは恐らく女性一人。しかもその女性は、闇医者を利用した形跡があったり、身分を証明する物が無いし、あまつさえ多額の現金を所持しているなど、普通ではない点が多い。
 もっと言うと、「田中竜次」なる人物の写真も残されていたが、神社仏閣で撮影されているものが多い。この点について、著者はこう言っている。

「田中竜次」さんがどんな仕事をしていたのかは不明である。日本の神社仏閣を好んで訪れており、外国に関係するとも思えないが・・・・・・。

同 P196

 これに関しては、著者の調査不足ではないだろうか。
 神社や寺院は、韓国と関係しており、その歴史は古い。
 例えば、私は神社の境内にある蕎麦屋で働いていた事があるが、そこの宮司を代々務める家系は、帰化人だった。つまり、元を辿れば朝鮮人なのだ。だから、神社を好んで訪れていたからといって、韓国と関わりが無いとは言い切れない。むしろ、「あったのではないか」と考えて深堀りするべきだった。
 数少ない写真のうち、その殆どが神社仏閣などにあたるのなら、この場所に何かしらの深い意味があると考えるのが自然ではないだろうか。

現在の福井県敦賀から滋賀県北部にかけて、古代朝鮮、特に新羅の人々と文化が大きな影響を与えながら移動した痕跡が残っている

『神社の起源と古代朝鮮』 - Arisanのノート (hatenadiary.org)

 この本では、「田中千鶴子さんは沖宗千鶴子さんだった」という事実を突き止め、話が終わっている。
 多額の現金や暗号、身を隠して生きてきた謎などは解明されぬまま。すっきりと結末を迎える本ではなかったが、大変興味深い内容になっており、一読の価値があると実感した。


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