読書編⑦【犯罪小説集】谷崎潤一郎
「仏陀の死する夜、デイアナの死する夜、ネプチューンの北に一片の鱗あり、…」偶然手にした奇妙な暗号文を解いた園村は、その晩、必ず殺人事件が起こると断言するが… …古き良き東京を背景に展開する「白昼鬼語」など、独自の美意識で構築したミステリー四編を収録。 集英社文庫
ミステリーだけどフェチが溢れていて面白かったです。
これに限らず変態とミステリーは素敵な組み合わせなのでしょう。
変態自体がミステリーなのかもしれないので、合うと言えば合うのかしらと思いつつ。
「柳湯の事件」は何となく「眼球譚」を思い出しました。
あのお風呂の中での感触とか。
ヌラヌラ。ぬらぬら。
「白昼鬼語」も読み応えがあって面白かったです。後半のミステリーよりミステリーな友人園村の発言に共感してしまう感覚の読者はどのくらいいたのでしょうか。
共感できないから謎が増すのか?
共感できるから面白いのか?
谷崎潤一郎作品は他に短編集を2冊と「痴人の愛」「春琴抄」を読みました。「鍵」が積読状態。
今回のミステリーも面白かったんですが、やはり私の好みは「春琴抄」でした。
盲目の三味線師匠春琴に仕える佐助の愛と献身を描いて谷崎文学の頂点をなす作品。
「痴女の愛」も男女の主従のようなのはあっても、ちょっと違うタイプかな〜と。
「春琴抄」は頼み込むような関係の主従ではなく、奉公人という立場から当たり前に主従関係がハッキリしていて、それが最後まで貫かれて自身の捧げ方も徹底している。
「痴女の愛」とか「毛皮を着たヴィーナス」は男性が頼み込んで主従関係が成り立っていて、その矛盾というか、微妙な関係性や距離感は当事者じゃなければ測れないのかなと。
なので、途中、男性側のわがまま(?)が暴走したかと思えば、すぐに懇願したりと波があったりするように思いました。それすら故意に女性を苛立たせ過激さを増すように仕向けられているのかもしれませんが…。
それに比べると「春琴抄」の関係性は凄く安定している感じがしました。
意識的にか無意識的にか佐助の従順さが春琴のサディスティックな性格を助長させていた感もあるけど、それが違和感なくピタッとハマっていた感じで私はとても素敵だと思いました。
春琴と同じように暗闇の世界で必死に練習する佐助。
春琴の全てに傾倒して、全てに従順に、全てを捧げる事が佐助の全て。
とんでもない女王様な春琴のようにも思えるかもしれないけど、佐助のその気持ちは理解して受け止めていたはずで、所々でそんな感じがしました。
佐助の歯が痛くて〜の場面なんかも、春琴の怒りは、そんなことも分かってくれてなかったの?!って感じで 何か良いなって思える場面でした。
最後の佐助の決断と春琴のやり取りは主従関係を通り越した素晴らしい瞬間だと思います。
春琴の想いと自身の想いが重なり、その決断として自らの一部を春琴に捧げる行為。
ある種のファンタジーかもしれませんが、とてもロマンチックで美しいお話だと思います。
肉体的な痛みを甘んじて受け入れるだけではなく、精神的な従順さだけでもなくて、もっとそうゆう一方的な要求を通り越したとこにあるような春琴と佐助の関係。
ちなみに、お話の中で佐助がうっかりして春琴が一人でお手洗いに行ってしまい、手を自分で洗おうとする場面。ぷりぷりと怒った春琴は手伝おうとする佐助に
「もうええ」と云いつつ首を振った。しかしこういう場合「もうええ」といわれても「そうでござりますか」と引き退っては一層後がいけないのである 無理にでも柄杓を毮(も)ぎ取るようにして水をかけてやるのがコツなのである。
と書いていますが、いつの時代にもあるような裏腹な乙女心(?)とその対策を心得ている感じも素敵です。(本当にもういい!って時もあるので見極めは大変でしょう)
と、犯罪小説集の感想予定でしたが、すっかり春琴抄の感想になってしまいました。
あと関連的な作品で「毛皮を着たヴィーナス」も面白く、ヴィーナスからの最後のお手紙も私は好きです。
そしてそれを読んだら 映画「毛皮のヴィーナス」も是非に。
この映画の中でのセリフ
「服従するにつれ 支配力が強まる」。
すごーく的確で、すごーく悩ましい部分でしょう。
どちらが服従なのか支配なのか。
そのなんともな力のバランスとシーソーのような展開がとても面白いです。
余談ですが、この二人の主演作品の「潜水服は蝶の夢を見る」も オススメです。
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