「クルミの食品表示が義務化されるってニュースを見たけど、どうして?」
皆様こんにちは。今回のすくナビの担当は、アレルギー担当の竹村豊です。
今回は“教えて!近大先生〜アレルギー編”です。小児科の外来でよくいただくご質問にお答えするシリーズです。
今回のご質問です。
「クルミの食品表示が義務化されるってニュースを見たけど、どうして?」
早速ですが、結論です。
「クルミを含む木の実類アレルギーが増えています。木の実類アレルギーはアナフィラキシーになりやすく注意が必要なため、特定原材料に指定され食品表示が義務化されました」
となります。
この結論にいたった理由について3つにわけてお話しします。
1. 特定原材料は、法律で表示が定められている。
2. 10年間でクルミアレルギーが激増している。
3. クルミアレルギーはアナフィラキシーになりやすい。
特定原材料は、法律で表示が定められている。
「特定原在料」とは、食物アレルギーの発症数や重篤度から表示の義務がある食品です。食品表示法という法律により規定され、表示を義務付ける「特定原材料」と表示を推奨する「特定原材料に準ずるもの」の2種類あります。2021年度まで、特定原材料として7品目、また特定原材料に準ずるものとして21品目が定められていました[1]。
食物アレルギー表示対象品目の諸外国との比較をご覧ください。
日本は世界中で最も安心して食品を手にとることができる国と言えそうですが、クルミはこれまで表示推奨でした。それが今回、表示義務の特定原材料へ引き上げられることが決まったのです。その理由を次にお話します。
2. 10年間でクルミアレルギーが激増している。
食物アレルギーの原因になる食品といえば、これまで1位 卵、2位 牛乳、3位 小麦でした。筆者は卒後18年目の医師ですが、学生時代を合わせると20年以上にわたりずっとこの順位でした。しかし、最新のデータによると、1位、2位は変わりありませんが、3位が木の実類になったのです。
木の実類、というのは実際には1つの食品ではなく、ピーナッツ以外のいわゆる「ナッツ」と呼ばれるものを指しています。内訳としてはクルミが最も多く、次にカシューナッツが多いと報告されています。この2つで木の実類の約8割弱を占めます。残りの2割強として、マカダミアナッツ、アーモンドなどが報告されています。
年齢別で見ると、0歳児では以前と同様で小麦が第3位です。ただし、その年代以降、こどもでは木の実類が1位または2位であり、現在のアレルギーをもつこども達にとって注意すべきアレルゲンといえます。
食物アレルギーは、この20年間に発症数が増えた病気ですが、令和に入って以降は横ばいになっているとの報告があります[3]。ところがその中において、木の実類だけが増え続けています。下のグラフをご覧ください。卵、牛乳、小麦だけでなく、ピーナッツ(落花生)が増えていない中、木の実類だけが増えているのがわかります。
なぜこうなっているのか明らかな原因はわかっていませんが、一説では輸入量が増えたことが原因ではないかと言われています。
3. クルミアレルギーはアナフィラキシーになりやすい。
クルミを代表とする木の実類アレルギーの方が最近増えてきたことはご理解いただけたかと思います。木の実類はさらに、アレルギーの症状が重くなることが多いのです。
アレルギー症状が非常に強い状態を、アナフィラキシーショックといいます。上の「即時型食物アレルギーのアレルゲン」と下に示すグラフとを見比べていただくと、卵や牛乳の割合に比べてショック症状になる割合では、木の実類が相対的に高いことがわかっていいただけると思います。
ショックを起こす木の実類の種類は、やはりクルミが最も多く半数を占めています。
ここまでのお話で、なぜクルミが特定原材料に入ることになったのかご理解いただけたのではないでしょうか?実際に筆者の印象としても、10年ほど前までは「ナッツアレルギー」といえばピーナッツアレルギーでしたが、最近はクルミやカシューナッツのアレルギーが増えていると思います。また、我々の生活のあらゆるところにクルミが使われています。例えばカレーの材料にクルミペーストが使われていたり、味噌に用いられたりもします。特定原材料に加わることで、クルミアレルギーのこども達が食品を選びやすくなることが期待されますね。但し、食品表示の義務化は経過措置を経て2025年4月からとなっていますので、これからしばらくの間は表示のある食品とない食品とが混在する可能性がありますから注意してください。
ここまでのお話で、「クルミの食品表示が義務化されるってニュースを見たけど、どうして?」の回答が「クルミを含む木の実類アレルギーが増えています。木の実類アレルギーはアナフィラキシーになりやすく注意が必要なため、特定原材料に指定され食品表示が義務化されました」とお答えした理由がご理解いただけたでしょうか。
この様な話を直接聞きたい、または実際にクルミアレルギーの疑いがある、すでに発症していて困っている、という方は近畿大学病院小児科を受診してください。また、受診の希望はないけど、ご質問やご意見などがあれば、このブログにコメントをいただければ「すくナビ」を続けていく上でとても参考になるので、どうぞよろしくお願いします。
近畿大学病院小児科では「健康について知ってもらうことで、こどもたちの幸せと明るい未来を守れる社会を目指して」をコンセプトに、こどもの健康に関する情報を発信しています。これからもよろしくお願いします。
竹村 豊
参考文献:
[1] 加工食品の食物アレルギー表示ハンドブック(https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_sanitation/allergy/assets/food_labeling_cms204_210514_01.pdf)
[2] 令和3年度 食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業報告書(https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_sanitation/allergy/assets/food_labeling_cms204_220601_01.pdf)
[3] アレルギー疾患に関する3歳児全都調査(https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/allergy/pdf/20203saiji_1.pdf)