『ベビわる』ファンが観た『ある用務員』感想
アマプラにて阪元裕吾監督の『ある用務員』を鑑賞した。
感想としては「普通の幸せを掴もうとする人々の物語」だと感じた。
作品紹介
映画の内容はある高校で女子高生・真島唯を巡って暗殺者(または殺し屋)たちが奪い合いをするというもの。「ある用務員」とは、その女子高生の父親から依頼され、その子を監視し保護する主人公・深見のことである。深見は学校では用務員のおじさんとして扮装していたのである。
これだけ聞くとなんとも荒唐無稽な話である。しかもその高校は補講で先生が一人、生徒は不良グループと唯とボーイフレンドの計6人。低予算にもほどがある。
ただし、校内での銃や素手のアクションは粗削りながら見ごたえがある。アクション映画として観るだけでも面白い映画であるが、ここでは2人の登場人物にフォーカスを当てたい。
・深見の場合
深見は幼少期にお父さんが銃撃され、お父さんの知り合いである真島善喜に引き取られる。真島は裏社会を仕切る真島グループの総裁で、深見を訓練し殺し屋という名の殺人マシーンに育て上げる。映画では描かれていないが、深見は真島以外の他者とは触れてこなかったかもしれない。ほとんど無口なのはそのせいもあるだろう。
真島を育ての親として慕っていた深見だったが、あるキッカケで真島が自分の父を殺したことを知る。怒りに狂った深見は真島のオフィスに殴り込むのだが、真島は深見に銃を差し出す。真実が深見にバレた以上、自分は深見に殺される覚悟だった。
銃を真島に突きつける深見。だがどんなに叫んで撃つ覚悟を決めても銃の引き金を引くことはできない。育ての親とは言え、真島は自分にとってはかけがえのない父親なのだ。
最終的には真島の息の根を止めた深見だったが、真島が死ぬ直前、娘の唯を守ってほしいと言われる。この後、校内で暗殺者たちが唯を襲うことになるが、深見は唯を守り続ける。真島という父の最後の遺言を守り通したのだった。
唯を安全なところまで連れて、あとは出口に向かうだけだったが、青あざ、血だらけの深見はもうこれ以上動けない。最後のタバコも火が付けられず吸えない中、とあるシーンが頭をよぎる。それは深見が校舎裏でゴミを整理している時、唯が「お願いします。」とゴミ袋を渡すシーンだ。一言の会話だけだったが、深見の額に汚れがついているのに気付いた唯はハンカチで汚れを拭いてあげた。深見にとって唯と関わったのは過去にこれだけだったかもしれないが、深見にとって他者に触れるささやかな幸せのシーンではないだろうか。本当の父が殺されていないければ、育ての親がヤクザまがいな人でなければ、深見はもっと普通の子としてより良い人生を歩んでいたはずである。
・真島唯の場合
真島唯は真島善喜の娘であり、何不自由なく暮らしてきたはずだ。ただし、お母さんが亡くなり、父の娘との距離感の掴めなさに嫌気が差し、勉強もさぼるようになる。ちなみに父と娘の距離感がよく表れているのが二人の食事のシーンだろう。娘の意向も聞かず、娘をアメリカに留学させたい、女も職を持てだの一方的なことをいう父には誰もが嫌だなって思ったことだろう。
深見と唯のラストの会話ではこんなセリフが出てくる。
お父さんと決別し、普通の幸せを送りたいと決意する唯のセリフには思わず涙がこぼれてしまう。
他の登場人物も幸せになってほしかった
今回は字数の関係で2人の紹介だけとするが、ほかにも真島の妾の息子である本田(見た目は町工場にいそうな小太りのおっさんなのにインテリヤクザなのがこの映画の清涼剤となっている)、西森組長の命令により鉄砲玉となってしまう村野など、普通の幸せを送れなかった人物がこの映画には多い。ぜひ自分だけが好きなキャラクターを見つけてほしい。
『ベビわる』の二人組のシーンは最高!
ところで、この映画では『ベイビーわるきゅーれ』シリーズでおなじみの髙石あかりと伊澤彩織が女子高生殺し屋として登場する。今のベビわるとはキャラクター性は違うが、このときの二人が元になってベビわるシリーズは誕生した。(プロデューサーがこの女子高生殺し屋を気に入ったからシリーズが作られたとのこと)
図書館での銃撃シーンは「その距離感なら弾当たるだろ!」って突っ込みどころはあるものの、伊澤彩織さんと深見の格闘アクションはやはり見ごたえがあった。ほんと『ベビわる』を生んでくれてありがとうございます。
長々と書いてしまったが、『ある用務員』、僕はとても好きな映画だった。阪元裕吾監督にはこれからもついていこうと思う。
おわり。