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邪馬台国は見つかっていた【20】「会稽東冶の東」はピタゴラスの定理を使って算出された
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レン:
佐賀平野から直線距離で800kmという数値を、一体どうやって算出するんですか?
おじ:
2人はこの図を覚えているかい?
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レン:
海岸沿い航法の図ですね。帯方郡を出発した船が「南に行くかと思えば急に東に行く」というように、ジグザグに向きを変えながら狗邪韓国まで進んだんですよね。
おじ:
この図が直線距離の求め方と深~い関係があるのさ。さあ、ここからは数学の時間だよ。この図を簡略化すると下のような直角二等辺三角形になる。
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おじ:
青の点線は帯方郡から狗邪韓国までの航行距離だ。倭人伝によればその距離は7000余里。では帯方郡から狗邪韓国までの直線距離は何里になるでしょうか?
ゆい:
えー!そんなのどうやって求めるの?
レン:
わかった。これは直角二等辺三角形の等辺から斜辺を求める問題だ。つまりピタゴラスの定理だよ!
ゆい:
ピタゴラスの定理って、中学で習った「a²+b²=c²」の公式?
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レン:
うん。そして直角二等辺三角形の辺の比は1:1:√2(1.4)と決まっている。
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ゆい:
そっか。帯方郡から狗邪韓国までの距離が、斜辺の部分にあたるのね。でも肝心の底辺と高さの数値が、わからないじゃない。
レン:
このジグザグの縦横それぞれの合計が、直角三角形の底辺と高さに当たるんだ。
ゆい:
本当だ。2辺を合わせて7000余里ということは、1辺は3500余里ね。
レン:
3500余里に1.4をかけると、斜辺は4900余里。帯方郡から狗邪韓国までの直線距離は4900余里ですね。
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おじ:
大正解!このように航行距離か直線距離のどちらかがわかれば、もう一方の距離はピタゴラスの定理を使って簡単に求めることができる。つまり、帯方郡使はピタゴラスの定理を使って800kmという邪馬台国までの直線距離を求めたんだ。
ゆい:
けれどそんな大昔の人が、ピタゴラスの定理なんて難しい公式を知っていたの?
おじ:
もし知らなかったとしても、物差し一つあれば直角二等辺三角形の辺の長さは求めることができる。どの大きさの直角二等辺三角形も、辺の比は変わらないからね。
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ゆい:
それもそうね。
おじ:
帯方郡使が「会稽東冶の東」と書いた根拠と、その計算方法がこれでわかっただろう。帯方郡使は狗邪韓国までの航行経験から、船が1日に進む距離を把握していた。そして「南に船で30日」という倭人の情報をもとに、航行距離が1120kmだと計算した。しかし、これはあくまで航行距離だ。正確な邪馬台国の位置を自国に報告するためには、直線距離に修正する必要がある。それはピタゴラスの定理により1.4で割ればよい。
1120km ÷ 1.4 = 800km
おじ:
こうして帯方郡使は佐賀平野から邪馬台国までの直線距離を800kmだと算出した。これが帯方郡使の行った計算の全容だよ。
レン:
うーん。何だか信じられないな。
おじ:
これまでの内容を振り返ってまとめよう。
帯方郡使は邪馬台国の位置をなるべく正確に自国に報告する必要があった
倭人伝には邪馬台国の位置を「計算した」と記されている
帯方郡使は高度な数学知識を持っていた
「会稽東冶の東」という表現は直線距離であってこそ、初めて位置の説明として成り立つ
おじ:
これらのことをふまえると、帯方郡使がピタゴラスの定理を使用して邪馬台国の位置を計算したと判断できるんだ。何か矛盾はあるかい?
レン:
確かに矛盾点はありません。
おじ:
一見突拍子もないような「会稽東冶の東」という記述は、帯方郡使の緻密な計算によって結論付けられたんだ。
レン:
それにしても、狗邪韓国までの階段状の図からピタゴラスの定理に辿り着くとは、思いもしなかったなあ。
おじ:
【3】の「正しい翻訳」のおかげだよ。倭人伝に書かれた船の進み方に「乍南乍東」という説明があっただろう。これまでの訳文は「あるいは南へあるいは東へ」とされ、具体的なイメージがしづらかった。しかし「正しい翻訳」では「南に行くかと思えば東に行き、又急に南へ行くというように向きを変え」というわかりやすい翻訳がされた。結果、あの階段状の行程図につながり、ピタゴラスの定理に辿り着くことができた。正確な翻訳がいかに重要かを、ここで改めて強調したいね。
レン:
ちなみに、ピタゴラスの定理は「九章算術」にのってないんですか?
おじ:
実はのっているんだ。ピタゴラスの定理は中国でも古くから知られていたようで、全245問のうち24問がピタゴラスの定理を使った問題なんだよ。
ゆい:
なーんだ、そうだったの?知っていたなら先に教えてよね!
おじ:
2人の謎解きの楽しみを奪ったら悪いと思ってね。ハハハハ……。