35歳のNZ留学【キャンドルライトナイト】
パーネルで友達と待ち合わせをしている。
と言うのも、数日前に友達から誘われたコンサートを一緒に観る予定なのだ。
Candlelightコンサート。名前の通りキャンドルライトに照らされた会場で行われるコンサートである。会場はパーネルにあるSt.Mary教会。このイベントはシリーズ化されていて、クラシック音楽、映画のサウンドトラック、現代の歌など多くの時代の音楽をテーマに開催されている。今回は弦楽器でABBAの人気曲が演奏される回。
私はさっき起きたパーネル事件(*前回記事)のせいでまだ心臓がドキドキしている。
カフェでアイスコーヒーを飲みながら友達を待つ。ホーリートリニティ大聖堂のステンドグラスを眺めて過ごす筈だった1時間をカフェで過ごすにはとても長い。心臓が落ち着かないから、アイスコーヒーもあっという間に飲み干してしまってすることがなくなってしまった。外に出るのはまだ早い。例の男がまだベンチにいるかもしれない。危険だ。仕方がないので賑わう店内を観察することにした。
韓国人の男性ふたり、誕生日をお祝いする家族連れ、母と娘、インド人、日本人らしき人。この小さな店内に何ヵ国の人々がいるのか。いろんな国の言語が聞こえ漠然とした不思議さを感じる一方で、この国の”多様性”を実感する。
しばらくして友達からLINEがきた。店を出て友達と無事に合流し、間髪入れずに「さっきね、」と事件の経緯を説明する。友達と二人となるとそれだけで心強い。それにあのベンチに男はもういなかった。
さて、本日のコンサート会場St.Mary教会だが、ホーリートリニティ大聖堂の陰にひっそりと佇んでいる。私の情報が間違っていなければここは、旧ホーリートリニティ教会なのである。まだ開場前だがすでにエントランスにはキャンドルの温かみあるライトが灯されロマンチックさを醸しだしている。会場が教会なだけに一層素敵な雰囲気である。
開場時間が近づくにつれ人が増えてきた。友達同士と思われる女性たちはドレスアップしている。列に並んだ私たちの前後には上品でお洒落な老夫婦が二組。間に挟まれたマウンテンジャケットにジーパン姿の私たち留学生ふたりは顔を見合わせ、しまったぁ…もっとお洒落して来るんだったね〜…と苦笑いを交わす。しかしそれも並んでいる間だけのことだった。時間になり扉が開かれると着てきた服のことなどすっかり頭から消えてしまった。オレンジ色の灯りに照らされた木造建ての教会、剥き出しになっている梁、ステンドグラス、全てが素敵で、
ぐっときた。
今日のパーネル事件から張り詰めていた神経がゆるゆるとほぐれていった。
コンサートは、司会者のちょっとした挨拶と軽いジョーク(例により内容は分からないが周囲に笑いが起こったのでそう思う)で湧いたあと、バイオリンの音色で静かに始まりを迎えた。たった4人の演奏者だけで奏でられる静かなメロディとヒット曲の数々に皆聴き入った。
少しずつその雰囲気に慣れてくると、リズムに体を揺らす人、手拍子する人とそれぞれに楽しんでいる。終盤は司会者の促しでママミアをみんなで歌い一体感が生まれた。少し気恥ずかしくもなんだか幸せな気持ちになった。
<番外編>
大盛況のうちに終わったコンサートであるが、どうも私はケアマネジャーという職業柄、またこれまで介護に関わってきたものとしての視点で見てしまう節がある。日本では高齢者の閉じこもり予防として外出を促す支援がなされている。高齢者の閉じこもりは足腰など身体機能の低下、鬱や意欲の低下を引き起こす要因とされ、地域行事や100歳体操への参加が推奨されている。高齢者には外出するきっかけが必要だと。確かに健康寿命を伸ばすことは大事だ。しかし実のところ私は現役のケアマネでありながらこの考え方にはやや疑問を抱いている。というか、外出支援とされるそれがどうも受動的な仕組みに思えてならない。なんか不自然なのだ。人との繋がりが大事で生きがいに繋がることは理解できる。が、どうも腑に落ちないのである。大きな声では言えないが。
とにかく、この会場には高齢者の割合がそれなりにあり日本にはなかなかない光景だと思いながら見ていた。夜の7時~9時っていうのは私が知る高齢者の多くは寝ているか、寝支度をする時間である。外出はまずない。それが、やや歩行が大変そうとお見受けする人や歩行器を使う人も中にはいて、高齢者が外出するきっかけが自然で能動的なものに思えた。これは文化の違いか、或いは気持ちのあり方の違いだろうか、などと考えたりしていた。