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クッション言葉ベストセレクション


お客様ダイヤルに電話して、

「おまたせいたしました!!!!ええ、はいはい待たせてわるかったわね。上司の機嫌がよくないの。お叱りのお電話も多くてイヤになっちゃうわよ!!…それに、今日新しくしたネイルも剥がれちゃってサイアク!!
…で、あなたは何に困ってるって言うわけ?努力はしたんでしょうね?したんなら話聞いてやってもいいわよ。あなたのフルネームとアカウント名を教えなさいよ。」


と言われることはない。
これは私の想像した『プラダを着た悪魔』に出てくるアン・ハサウェイが言いそうな感じにしてみた想像上のコールセンターの人である。

さっき、用があって電話したところなのだが、彼女の声は少し疲れ気味だった。
知らない人だけど、彼女は、私の電話の前に、ものすごい剣幕で罵ってくるお客様でもお相手したあとなのだろうか。

心配である。



私は人生上、ADHDの特性から、色々な職種を経験したが、お客様対応は、電話でも、直接でも大変HP(Heart Point)を消耗する。


お察し致します。ゴッド•ブレス•ユー。


そこで、私が実際にお客様として実行している試みを一つご紹介致したいと思う。

彼女はため息混じりに「お待たせいたしましたっ。」と言ったので、私はすかさず、

「お忙しいところすみません。ちょっとすごく困ってて、繋がってよかったです。くっ…。いくつか確認と、質問したいんですが…」

と、言うと、電話口の彼女は少し驚いて、お決まりの素晴らしく機械的な口調が、人間になった。

「あ、はい…どのようなご相談でしょうか?」

たぶん、急にエモーショナルな人間がこの世の終わりに救世主に出会ったような、
この世の終わり!!みたいなトーンで話しかけたから、身構えたのだろう。

だがそれでいい。




そして5分ほど話し、彼女は私の問題を解決してくれた。
なので、「ありがとうごじいましたっ!!すんごい助かりました!おかげさまで安心しました。」

と、私は最後に付け加えた。
すると、彼女が、声色だけで口角が上がったのがわかる。

「いえ!お役に立てて幸いでございます。ありがとうございました。また何かございましたらご連絡くださいませ。」

と高いトーンでキラキラと言った。

美しい……。



誤解がないように言っておくと、私は性的対象は男性なので、いやらしい意味で言っているわけではない。


元からその声や話し方の美しさ、または、対応力を買われてオペレーターをしている人が、
声を落とすということがどういうことなのか、私はそれを想像して悲しかっただけである。

その人が、話すうちにその専門性を活かして私に助言し、お客様(わたし)を解決に導いたということが私は嬉しいのだ。

最初のため息混じりの声を聞いた時、私はただ、元の彼女はどんな声だ?と素直に興味をもったのである。

もう夕方なので、1日の疲れもあるだろう。そんな中、ひっきりなしに鳴る電話の恐怖を私は知っている。


どんなにモチベーションを上げても、しんどい時はある。
人間だから。


そして、本当に彼女の声は美しかった。

私がビジネスライクに話し続けたら、彼女のその声音は聴けなかったかもしれない。

終始とてもきれいな言葉遣いで、静かでクリーンな声だった。

私は気分良く電話を切った。


クッション言葉という言葉を知ったのは、ビジネスホテルのフロントを経験した若い頃の話だ。


「おそれいりますが、」や
「あいにくではございますが、」
などを、話し手の言いたい内容の前につけると、聞き手に良い印象をもたれやすい、という話だ。

私はこれをコレクションしたいと思った。


これを、私は家族にもしている。


介護していると、どちらかというと
「まじかよ〜」「やめてや〜〜」などと、こんな言葉が先に出て来てしまうことが多い。


だが、服を着てもらう時に、わざと父に

「失礼致します〜」
「お手を拝借。」

などというと、機嫌よく応じてくれる。

たまに、調子にのって「うむ、苦しゅうない。」などと言ってくるので、
そういう時は、パンチする仕草をすると大笑いになる。


彼は元、サービス業者なので、お客様ファーストな言葉に弱い。
いや、強い。よく知っている。


若い頃は東京かどっかの、都会のナウい紳士服売り場に居たそうだが、単車に乗って集金中に、咥えタバコに失敗して電柱に正面衝突し複雑骨折した。

それから、ここ、田舎(故郷)に帰って、スーパーで働いていたのである。

中々のADHDの父。


だが、だからこそ、要介護になるのが早かった。脚や腰が悪いということは、高齢者にとってかなり大きめのダメージにつながる。



そんな父だが、彼が何か人にしてもらった時に、よく言う決まり文句が、

「恐縮、恐縮♪」

である。
何をしても恐縮される。いや言うだけで、その言葉の意味は「苦しゅうない。苦しゅうない。」だろう。


違うか?そこのチャーリー•ブラウン似。

しかし、このような言葉、文化を私は愛している。

余裕がなくなると、できなくなる。


それは確かだ。
しかし、癖になっているとどうだろうか。


これは自然と出てくる。

そんな人間になりたい。


もし、

私が認知症になって、新しい記憶から段々と薄れていったとしても、

なんかしらんが癖で言っちゃう言葉、が、「ありがとう。恐れ入ります。」

だと、優雅じゃないか。


父は心ないように見えて、実は悟りの境地にいるのかもしれない。


私は今日からまた少し、彼に優しくできる気がする。



介護をする、みんな、

レスパイトは積極的にとってくれ!

これは心からの、お願いです。


それから、もしよかったら、あなたのお気に入りのクッション言葉を教えていただけると嬉しいです。


みなさん、毎日お疲れ様です。

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