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『悲劇の誕生』3節第二段落

Wer, mit einer anderen Religion im Herzen, an diese Olympier herantritt und nun nach sittlicher Höhe, ja Heiligkeit, nach unleiblicher Vergeistigung, nach erbarmungsvollen Liebesblicken bei ihnen sucht, der wird unmuthig und enttäuscht ihnen bald den Rücken kehren müssen.
①異なる宗教を心に抱きながら、このオリンピアの神々に近づき、ここで倫理的な高みやそれどころか神性さ、生気のない精神化、哀れみに満ちた生への視線をこの神々に求める者は、哀れみに満ち失望して直ちにこの神々に背を向けることになるに違いない。

Hier erinnert nichts an Askese, Geistigkeit und Pflicht: hier redet nur ein üppiges, ja triumphirendes Dasein zu uns, in dem alles Vorhandene vergöttlicht ist, gleichviel ob es gut oder böse ist.
②ここ〔オリュンポスの神々のもと〕において、禁欲や精神性、義務は想起されることはない。ここではただ非常に豊かな、それどころか勝ち誇る現存在〔世界のような総体性を持ったもの?〕がわれわれに語りかけるのである。この現存在のうちではあらゆる〔手近にある〕存在者は神々しいものであり、善であるのか悪であるのかはどうでも良いことになっているのである。

Und so mag der Beschauer recht betroffen vor diesem phantastischen Ueberschwang des Lebens stehn, um sich zu fragen, mit welchem Zaubertrank im Leibe diese übermüthigen Menschen das Leben genossen haben mögen, dass, wohin sie sehen, Helena, das „in süsser Sinnlichkeit schwebende" Idealbild ihrer eignen Existenz, ihnen entgegenlacht.
③そのため、〔異教の〕観察者はひどく狼狽して、生の幻想的な横溢の前に立ち尽くすことになるだろう。彼は次のことを自問する。いかなる生命の魔女の飲み物によってこの活気づいた人間たちは生を享受しているのだろうか。彼らはどこにおいて、彼らに笑いかけるヘレナを、つまり彼ら特有の実存の「甘い感性に漂う」理想像を見いすのかと。

Diesem bereits rückwärts gewandten Beschauer müssen wir aber zurufen: „Geh' nicht von dannen, sondern höre erst, was die griechische Volksweisheit von diesem selben Leben aussagt, das sich hier mit so unerklärlicher Heiterkeit vor dir ausbreitet.
④しかし、すでに背を向けたこの観察者にわれわれは次のように呼びかけなければいけない。「行くな、ひとまず聴きたまえ、ギリシアの民衆の知恵が自らの生から何を言表するのかを。この言われていることは君の前に不可解な明朗さを帯びて広がっているではないか。
*ここでの呼びかけがどこまで続いているのかは不明。おそらくこの段落の最後まで。

Es geht die alte Sage, dass König Midas lange Zeit nach dem weisen S i l e n , dem Begleiter des Dionysus, im Walde gejagt habe, ohne ihn zu fangen.
⑤ここで取り上げるべきなのは次のような伝説である。ミダス王が遥か昔に、ディオニュソスの同伴者である知者シノレスを森の中で追いかけていたが、彼はシノレスを捉えることができなかった。

Als er ihm endlich in die Hände gefallen ist, fragt der König, was für den Menschen das Allerbeste und Aliervorzüglichste sei.
⑥ついにシノレスを捕えたときに、王は、人間にとって最上に良いものと最高に卓越したものがなんであるのかを尋ねた。

Starr und unbeweglich schweigt der Dämon; bis er, durch den König gezwungen, endlich unter gellem Lachen in diese Worte ausbricht: „Elendes Eintagsgeschlecht, des Zufalls Kinder und der Mühsal, was zwingst du mich dir zu sagen, was nicht zu hören für dich das Erspriesslichste ist?
⑦このデーモンは強情で不動の様子で黙っていた。王に強いられてついには甲高く笑いながら堰を切ったように喋り出した。「哀れな日暮らしの種族よ、偶然と辛苦の子供よ、お前にとっては聞かないのが最も良いことを、なぜ私に強いて言わせるのだ?

Das Allerbeste ist für dich gänzlich unerreichbar: nicht geboren zu sein, nicht zu s e i n , n i c h t s zu sein. Das Zweitbeste aber ist für dich — bald zu sterben".
⑧お前にとって最上に良いこととは、決して手の届かないこと、生まれないこと、存在しないこと、であることだ。その次に良いこととは、直ちに死ぬことである。

解釈

前段落の問いかけとは一旦離れたところから記述が始まる。オリュンポスの世界にとっては異邦人である人間の目を通してオリュンポスの特徴が語られる(①)。この世界では禁欲や義務など、およそ宗教的なものは一切存在せず、そのうちにある「存在者は神々しいものであり、善であるのか悪であるのかはどうでも良い」のである。この世界は「非常に豊かな、それどころか勝ち誇る」ものなのである(②)。
このような世界に対して、普通は疑問を覚える。いかにしてこのような世界は可能なのか?一見麻酔的な飲み物によって可能になっているようだが…(③)。これが前段落の問いの繰り返しなのである。なにによってこのような世界は生み出されたのか?
⑤〜⑧に述べられる伝説がその最初の簡潔な答えなのである。ディオニュソスの同伴者であるシノレスが語ったこと。すなわち人間にとって最も良いのは生まれず、存在しないこと、次に良いのはすぐに死ぬことであるという、このことだ。


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