雨の日・・・思い起こすは山旅の雨
朝から雨である。
窓ガラスに無数の水滴が、真珠のような玉になってくっついている。
上の方からひとつの玉がツツーと降りてきて、下方の水滴にふれると倍の大きさになって勢いよく落ちる。
それを見つめているうちに、昔の山旅のことがよみがえった。
もう何年前になるだろうか、今は亡き山の先輩と北アルプスに登った。
山小屋(燕山荘)での朝、目が覚めると雨だった。
水滴のついた窓のむこうには、北アルプスの山並みがぼんやりと霞んで見える。
観念して再び横になった。
なんだかあたりが騒がしくなって目が覚めた。
天気が回復したのだ。
雲が切れ、明るいガスが立ち込めている。
「山の天気はおんな心だ」とはよく言ったもの、とても変わりやすい。
跳び起きて燕岳の頂上へ急いだ。
靄のようなガスが身にまとわりついてくる。
頂上に立って太陽に背を向けると、白いガスのカーテンに自分の姿が、虹の輪の中に浮かんでいる。
ブロッケン現象だ。
ドイツではブロッケン山の妖怪、日本では山岳修行者から阿弥陀如来としてあがめられたそうだ。
こうしたふとなにげないことから昔のことを思い出すなんて、「余命がすくないぞ」という証しかもしれない。
それでもいい。
生きているうちに思い出さないと、脳の海馬が活性化しない。
思えば、その山友が死んでから何年過ぎたことだろうか。
「光陰矢の如し」だ。
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