カラオケあるある
「それでは、『カラオケあるある』1個だけありますので、広瀬香美さんの『ロマンスの神様』に乗せて届けようと思います」
「イヤ、普通に言えよ」
「♪カラオケあるある、早く言いたい、カラオケあるある早く言いたい」
「どうぞ」
「♪カラオケあるある、早く言いたい、あるある言いたい私」
「うん、言って良いよ」
「♪カラオケあるある、早く言いたい、カラオケあるある早く言いたい」
「早く言えよ」
「♪カラオケあるある、早く言いたい、友達の友達に」
「俺に言えよ」
「♪あるあるは、どうしたらいいの? 一番の悩み」
「ただ言うだけでいいんだよ」
「♪カラオケのあるある、そんなの嘘だと思いませんか?」
「イヤ自分であるって言ったじゃん」
コーラス「♪Boy meets girl」
「♪カラオケのあるある、早く誰かに言いたいよ」
「どっから出てきたのコーラスの人?」
コーラス「♪Fall in love」
「♪コーラスしてたの、この人でしょうか?」
「そうだよ。それよりあるあるは?」
コーラス「♪Boy meets girl」
「♪いよいよこのあと、カラオケのあるある言うよ」
「おせえよ、やっとかよ」
コーラス「♪Fall in love」
「………」
「イヤ言えよ」
「………」
「何黙ってんの? インスト止まっちゃったよ?」
「………」
「だから早く言えよ。コーラスの人も帰っちゃったよ?」
***
学生時代の友人3人とのカラオケは、回を追うごとに味気なくなっていった。
A子は5年以上も前の曲ばかり歌い、
B子は毎回Bメロで歌えなくなり、
C子はマイクすら持たず聞くだけ。
学生時代のように最新曲ばかりを完璧に歌いこなすのは私だけだった。
みんな仕事で忙しいのは分かるけどさ、それは私も一緒だし、それでも睡眠時間を削って肌が荒れるまで繰り返し聴き込んで覚えているのよ。
「ねえ、次はみんなで歌わない?」
おい空気読めよA子。今の4人が声を揃えて歌える曲なんてあるのか?
「イイネ。私はAメロとサビだけね」
「みんななら私も歌う!」
B子とC子も追従。こうなれば最後の一人も必然的に……。
「……もう、仕方ないわね、1曲だけよ」
この時の私はまだ気付いていなかった。
最新曲とか何年前の曲とか関係なく、4人でカラオケに行けること自体がとても貴重になってしまうことに。
***
「え、もしかして今のがカラオケあるある?」
「うん」
「なげーよ」
(Fin.)