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健康診断とアブノーマル

 振り返ると、昨日は最初から変だった。
 年に一度の健康診断の為に新宿区内の健診プラザという専門施設に向かったのだが、考え事をしながら歩いていたら目的地を200mほど通り過ぎてしまったのだ。何度も訪れているにもかかわらずである。

 9つほどの検査を行うのだが、2つ目の血圧検査で数値が低すぎたのか「再検査」と表示され、2回目を行うことに。現職で健康診断を受けるようになってから6年目にして初めてのことだ。しかし、今となってはそんなのどうでも良いと思えるほど、この後立て続けにメンタルを抉られる事態が。

 3つ目の検査は身長・体重の測定。担当看護師が「背中を支柱に付けないで下さい」と言うのだ。そんなこと初めて言われたような気がして戸惑う。猫背体質の私は、支柱という垂直の指標が無いと真っ直ぐ立てる自信が無いのだ。思わず「猫背になりがちなので(真っ直ぐ立てているか)見てもらっても良いですか?」と伝えてしまう。

 ここで「猫背」という最初のアブノーマルポイントに改めて気付かされる。きっかけは20年以上前、高校中退後が真冬でしかも東北地方だったこともあり、こたつで丸くなりテレビをひたすら観まくる日々を送っていたら猫背になってしまったのだ。そもそも高校を辞めること自体が普通では無いわけで、アブノーマルが更なるアブノーマルを生む悪循環。

 そんなことを思い出し悲観する暇もなく、4つ目の血液検査へ。私にとって最大の難関である。注射が大の苦手なのだ。「痛いのが苦手で動いてしまうかもしれません」と、ここでも要らんことを言ってしまう。グロ系が苦手で、二の腕から血液を採取される様子を直視できないので、顔は終始左に逸らし、目を強めに瞑る。痛いのは最初だけで意外と我慢できたが(抗原検査やインフル検査で鼻穴に綿棒を突っ込まれた時の方が何倍も痛かった)、2度目の悲観はその直後に訪れた。

 5つ目の視力検査を待っている間、他の被検者が血液検査を受けている様子を見ていたのだが、誰もが血を吸い取られる様を目視していたのだ。検査部屋が男女別なので女性の様子は知らないが、少なくとも男性の中で唯一顔を背けていた私は完全なるアブノーマルだったのだ。

 その後は問題なく進み、全ての検査を無事終了したが、外に出てからも猫背と血液検査を直視できないという2つのアブノーマルについて考え続けていた。いずれも些細なことかもしれないが、そんな些細なアブノーマルの積み重ねが私という“歪んだ人格”を形成している。そして歪んだ人格は“生きづらい”要因となる。中学でいじめられ、高校では友達を作れず中退し、大学でも人間関係に悩まされ、社会人になってからも苦労の連続で、転職を繰り返し一向に人として成長しない。そんなことばかり考えていたら、夕方のタイミーバイトでもミスを連発した。そもそも年収が高く貯金もあれば本職の他にバイトなんてしなくて済むのに、それだって一種のアブノーマルである。

 ***

 ちょっとだけ話を脱線させて欲しい。

 少し前の休日。コインランドリーで洗濯機が回り終わるのを待っている間、スマホでXをチェックする。ある女性声優の大ファンである男性が、宮城県の石ノ森萬画館を満喫するポストを見かける。

 この日は月曜なのに何故……アカウントのログを辿ると、その声優のライブを観る為にわざわざ関東から仙台に遠征していた模様。ライブ自体は日曜の夜なので、新幹線を使えばギリギリ日帰りも可能なはずだが、そのファンはなんと前日の土曜から2泊3日で遠征していたのだ。牛タンを始め様々な仙台グルメを食べ歩き、ライブ後はフォロワーとエンカし居酒屋で打ち上げ、ホテルは1泊1万2000円で豪華な朝食付き。ただの推し活を「2泊3日の旅行」にスケールアップしてしまったのだ。しかも、会社が土日休みだとしても月曜は確実に有休を取っている。

 人生楽し過ぎでしょ。

 確かに私も同じ声優のライブを観に行く予定である。でもそれは10月下旬、ツアー最終日の横浜公演のみで、遠征なんて普通はしないのである。人生でライブ遠征をしたのは2015年のサザン大阪と、昨年のLiella!愛知公演くらいで、大阪は流石に1泊したが愛知は夜行バスで往復する過酷な日帰りだった。何故ならお金が無いから。

 もっと言うと、サザンもLiella!も1公演しか現地参戦していない。前述のファンは北は宮城から南は福岡まで5公演を全通する気でいるのだ。チケット代だけで5万は超えるが、それに加え5回分の交通費と宿泊費だけでどれほどのお金が吹っ飛ぶのだろうか。

 とはいえ、2泊3日ともなるとライブと旅行どちらがメインなのかと突っ込みたくなるので、このファンは個人的にはアブノーマルに認定したい。

 これは“良い意味での”アブノーマルである。だって人生楽しそうだから。

 貧乏の私は、推し活をここまで楽しめない。些細なアブノーマルの積み重ねが歪んだ人格を形成し、結果生きづらくなり、仕事でも苦労の連続で万年平社員。そりゃ年収は低いし、加えて一人暮らしとなれば貯金も無いわけだ。学生時代、数多のアブノーマルを一つでも多くノーマルに修正していれば、今頃もっと楽しい人生を送れていたのかもしれない。

「多様性」や「みんな違ってみんな良い」なんて綺麗事で、現実はノーマルな人だけが色々と得をしているのだ。明るい人が得をすると以前書いたが、陽キャもノーマルだと言える。特別なことはしなくて良い。ただ普通に生きていれば普通に幸せになれるはず。だがアブノーマルはそれすらも難しい。それでも現実世界を生きねばならないとあらゆるアニメ監督が作品を通して伝えているのなら、生きるしかない。悲観することばかりな健康診断も、健康を維持する為、ひいては“生きるため”にやるしかないのである。

(※またしても結論を上手く書けなかったそうです)

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