[読書感想文]万城目学『八月の御所グラウンド』(文藝春秋、2023年)
勧められたので手に取った。
良くも悪くも学生が味わう京都の雰囲気だったように思う。曖昧な感想なのは、自分が京都の大学に行きながらもろくに京都で過ごしていないせいだ。
軽くさっと程よい充実感のある小説だった。
内容に入ろう。
本書には「十二月の都大路上下ル(カケル)」と、「八月の御所グラウンド」の2編が収められている。前者が60頁ほど、後者が140頁ほどだ。
前者の主人公は、駅伝をしている女子高生(1年生)で、京都で行われる女子全国高校駅伝の補欠メンバーだ。高校は、優勝を目指すような強豪校ではなく、20位台を目指す他県の高校だ。
前日に旅館でご飯を食べている場面から始まる。
メンバーといえど補欠なので気楽だった彼女は、メンバーの先輩の辞退が決まったことを前日に告げられて焦る。それでも走ることは決まってしまっているので走る。絶望的な方向音痴の彼女はコースを間違えずに走れるのか。
後者の主人公は、京都の大学の4回生(一浪)だ。夏休みは彼女の実家がある四万十川に彼女と一緒に行く予定だったのに、「あなたには、火がないから」と振られてしまい、夏を京都で過ごすことになってしまっている。
彼は高校時代からの友人(5回生)に呼び出され、友人の卒業がかかった野球の試合に参加するよう要請される。友人は就職先が決まったものの、卒業が怪しく、研究室の教授に頼み込み、その教授のチームで野球をして優勝すれば簡単なテーマを与えてやると言われたらしい。ちなみに試合は朝の6時からで、場所は御所のグラウンドだ。
彼は三万円の借金と焼肉を奢られてしまった負い目から不満を持ちつつも参加を決める。
人数は初回からギリギリで、2回目はたまたま居合わせた大学院生のシャオさん(中国人留学生で野球素人)と、近くにいた野球経験のあるおじさんを加えてようやく足り、3回目も同様だった。
問題は、シャオさんの調べによると、このおじさんが故人かもしれなかったらしいということだ。
どちらも幽霊的な物が出るという点と、スポーツが登場する点、舞台が京都という点で共通する。そのせいか、空気感が似ている。同じ人が書いているのだから当たり前かもしれないが。
どちらにも淡々とした熱はある。スポーツに取り組む者の熱が伝わってくる。それでも鴨川に流されていく熱だ。激情が起こるわけでもないが、冷笑することもない。やるとなれば真摯に向き合いはするが、全てをかけるまでの覚悟はない。
その軽さが心地よい。京都らしいというのはこの雰囲気のことを指したつもりだ。
感想としては他に言及してもよい点もあるが、これはこの雰囲気を楽しむためのものだろう。
まあよかった。