[読書感想文]アンディ・ウィアー(小野田和子 訳)『プロジェクト・ヘイル・メアリー上、下』(早川書房、2021年)

勧められたので読んだ。SFものだ。

帯などで主人公が宇宙にいるらしいことはわかっていた。しかしそれ以外の情報はなしで読んだ。自分が興味を持つかもわからないものを読むのが、勧められた本を読むときの醍醐味だ。ハズレのときは地獄だが、まあアタリの部類だった。

翻訳ものは手を出すのが怖い。ぎこちない訳で読み味が悪いことがあるからだ。しかしこれは読みやすく、内容に入っていきやすかった。

主人公がよくわからない場所のよくわからない場所で目を覚ますところから物語は始まる。自分の名前もわからず、全てを忘れているが、周囲の状況から自分が置かれている状況を把握し、記憶も徐々に戻り始める。
なぜ、宇宙にいて、太陽系外にいて、何をしなければならないのか。

物語は宇宙での活動と、主人公が思い出す打ち上げに至るまでの記憶で構成されている。会話劇が好みなので、後者の部分の方が面白かった。
後者は、要約すれば、全世界からあらゆる権限を渡された女性から突然仕事を要請され、振り回されながらも仕事を遂げていくという内容だ。様々な科学者に無茶振りをしていく様子が面白かった。
しかし、もちろん本論は前者だ。宇宙にいる目的を果たすため、主人公は着実にすべきことを遂行していく。好奇心旺盛で、科学者である主人公が、科学知識を駆使しながら課題を解決したりミスしたりする様子は楽しかった。無邪気に興奮した大人を見ている感じだ。記憶が曖昧で、船の操縦方法すらろくに覚えておらず、悪態をつくこともあるが、宇宙への興奮は忘れない。高揚感が伝わるのだ。

上巻の後ろから下巻で展開される宇宙でのメインパ
ートが一番の見どころなのだろうが、どう触れてもネタバレになるので、詳細な感想は控えよう。
上巻よりも下巻の方が数倍楽しめた。ミッション達成がかかる部分で、熱量が違うのだ。


手放しで好みだと言えないのは、科学知識に不足があることなどが原因で、描写された物の具体的像がイメージできないことが何回かあったのと、現実にありえそうだけどありえないというラインを狙っているため、特に前半に関してはフィクションとして楽しむことがやや難しかったのとが原因だ。時々それはありえない、ご都合主義が過ぎる、という現実視点からのツッコミが顔を出してしまう。SFに向いていないと言われればそれまでだが。
SFファンタジーくらいまで突っ切ってもらえればそんなことは考えなくてすむのだが。


読み終わった素直な感想としては、いつかテレビで見た名作洋画を見終わったときの感想に近い。終わり方や展開など、どこか既視感がある。ベタを踏まえながら新しい面があるというのが海の向こうで流行った原因だろうか。
文章上は、ピンチを過度に盛り上げるようなことはせず、サクサクと進めている印象だ。多少物足りない面はあるが、物語の進みとしてはスムーズなのでこれはこれでよい。映画化が進行しているようだが、映画ではピンチを派手にするのだろうとは思う。


まあ面白かった。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集