学生、芋焼酎を割る、残り汁をすする
お土産に芋焼酎を買ったんだ。自分用に、誰かと飲んでもいいなと思って。
新幹線で地元に着くまでは無事だったんだ。そこの乗り換えで、うじゃうじゃとゴミのようにいるホモ・サピエンスの群れに気を遣い、リュックを前にしようと色々しているうちに、袋を落としてしまった。
そこそこ大きい音がしたけど、箱入りだし、耐えてると思ってた。
なのに!なのにだ!!
あぁ、その後しばらくして、袋の中から芋の甘い香りがするじゃないか。何ていい匂いだ。まだあの匂いが鼻から離れない。ふわりと広がる甘い香り。芳醇な香り。アルコールと合わさり、脳にじんわりと響く。
まるで、芋焼酎の樽に頭を入れて匂いをかいでいるようだった。幸せな匂いだった。
それが事実だった。
そこにあるはずの瓶の輪郭がなく、濡れていた。手からはそれはいい匂いがした。電車内にもかかわらず、思わず深呼吸をした。三度も。
1回目、いい匂いだった。
2回目、思わず2回目を堪能したくなってしまった。
3回目、現実逃避をしたかった。
袋の端から命の水が漏れ出してきた。持ってきていたビニール袋で応急処置をした。
そして持って帰った。綺麗に割れていたよ。まんべんなく割れていた。
深呼吸したよ。アルコールを強く感じたが、いい匂いに変わりはなかった。
捨てた。シンクに流れていった。俺の芋焼酎が。
そのあと、ビニール袋に残っていたのを少しだけすすった。細かいガラスが混じっている可能性があるので、ほんの僅かしか飲めなかった。
甘く、香り高く、口から鼻に芋が充満した。
脳が一瞬、思考を停止した。