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雨は小樽のために

人間に備わっている才能で、もっとも優れた才能は一体何だと思う?
それはね、忘れるという才能だ。

映画「はるか、ノスタルジィ」より


小樽の外れにある小さな浜辺。
あの日、ふたりで、ただ海を見ていました。


小樽を舞台にした映画で最初に思い浮かぶのは「はるか、ノスタルジィ」です。


大林宣彦監督のいいところと悪いところが詰まった名作で、なにより「小樽特有の湿っぽさ」がよく表現されています。


小樽特有の湿っぽさ。


それは長い年月の記憶が染み込んだ「歴史的湿度感」のようなものです。


だから、小樽には雨が似合います。


雨の日には街に染み込んだ過去の記憶が浮かび上がってくるのです。


海は穏やかでした。

赤い列車が高い警笛を響かせながら通り過ぎ、
陽が傾くにつれて少し肌寒くなってきました。


小樽には個人的な記憶もたくさん眠っています。


わたしにとってしあわせなのは、その中に「忘れたい記憶」がないことです。


札幌からの列車が朝里駅を過ぎて左にカーブすると、小さな浜辺が見えてきます。いまでもそこを通るたびに、あの5月の午後のことを思い出すのです。

小樽。
晴れた日の記憶も、甘い湿度を持って染み込んでいる街。


「科学」と「写真」を中心にいろんなことを考えています。