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「科学」は「旅」のように:new F-1と紋別
旅の楽しみが「目的地に着くこと」ではなく「移動の過程」にあるように、科学の楽しみは「新しい発見をすること」だけでなく、そこまでの過程にもあります。わたしたちは「想像すること」や「考えること」に喜びを感じる生き物なのです。
だとしたら、「未知のことについて考える楽しさ」を多くの人と共有することも、科学者の大事な仕事なのでしょう。そんなことを考えながら、今年もこどもたちとのワークショップのために紋別に向かいました。
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ところが、紋別への飛行機は雪で欠航に。
そのあとの女満別便になんとか滑り込みました。降り立った女満別空港からバスで北見に出ると、次の列車は3時間後。駅の近くの食堂に入って豚丼を食べている間に、外では雪が強くなっていきました。
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北見からの列車が到着した遠軽駅は、鉄道全盛期の面影を残す素敵な駅です。30年前、はじめての北海道旅行で網走行きの夜行急行「大雪」に乗った時、目が覚めると進行方向が変わっていて驚いたことを思い出します。石北本線の列車はこの駅で向きを変えるのです。かつてはここから、湧別、紋別方向にも線路が続いていました。
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すっかり陽の落ちた雪の日。山も街もいつも以上にドラマチックに見えます。飛行機の欠航のおかげで、出張のための移動が「過程を楽しむ旅」になりました。
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こうして、予定より8時間遅くなったものの、はまなす通りの「ばんちゃん」の開いている時間に紋別に着くことができました。
人にはそれぞれ基準点のような場所があって、わたしにとって「ばんちゃん」はそんな場所のひとつです。カウンターの端の席に座っていると、ここでの過去の記憶がすべて連続しているような、いや、ここにいない日常がぜんぶ夢の中の出来事のような、そんな錯覚にとらわれます。
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去年の紋別にはニコンのF3を持ってきたので、今年はキヤノンのnew F-1と一緒です。レンズは50mm一本で、撮った写真は3日間で40枚ほど。それくらいのテンポで写真を撮るのが、わたしにはちょうどいい気がします。
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ワークショップでは、採れたてのプランクトンを顕微鏡で観察したあと、流氷がいつやってくるかをみんなで考えました。参加者の予想を平均すると、今年の紋別の流氷初日は1月25日。昨年は記録的に早い流氷到来を的中させることができましたが、今年はどうなるでしょうか。
ちなみに、クリオネも遊泳能力が低いのでプランクトンだそうです。
見出しの写真は「ばんちゃん」のトイレにある篠山紀信さん撮影のカレンダー。以前は毎年新しいものになっていましたが、新作がもらえなくなったので、古いカレンダーをずっとかけているそうです。「篠山さんの写真はいやらしくなくてきれいだからね」。
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