電車の窓から12
2020年4月30日
身支度を終えるとヒナと外に出る。久しぶりの外。
夕焼けが眩しい。ヒナは私の歩幅に合わせベランダをて歩いてくれている。
「ルナ、大丈夫?靴の大きさ合う?」
「大丈夫、全部ぴったり」
革靴の紐をしっかり締めて、自分の足音を聞く。聞いたことも無い、コツコツという音。私の足音のリズムはこんなものだっだっけ。
自分の足音など、気にしたこと無かった。
駅に着く。私の定期券を改札に通して、-どうやらヒナの定期券も範囲内らしい-大きな駅へと向かった。
2人で電車に乗る。窓を見ると、私たちのアパートが見える。いつものようにベランダを覗くと、今日のベランダは空っぽだった。
「いつもそうやって見てたの?」
ヒナはくすくす笑っていた。私は思わず下を向いた。
「いつもここに立ってたから、よく見えたの」
「そうだよね、知ってる」
ヒナは扉の横の棒に身体を預けていた。ヒナは小さく手を挙げる。私も同じように手を挙げる。ヒナはそのまま手を下げた。本当にヒナは楽しそうだった。
駅に降りると、大きな改札を抜けて、大きな通路に出た。右に行けば商業施設、左に行けば商業施設がある。ヒナは左の商業施設の方がよく行くから、と私をそちらに連れていった。
大きな通路には様々な人が歩いている。と、言っても平日の昼間だし、会社員どもがのらりくらりと、忙しそうに歩き回っているのがほとんどなのだが。
「ルナ、どうしたの?」
ヒナは振り返って、私の方を見ていた。
「何?なんでもないよ。久しぶりに来たなって思って」
ヒナは、ふーん、と鼻で言うと、私の腕にその細い腕を絡ませた。
「じゃあ、はぐれないようにしなきゃ」
少し厚手のパーカー越しに彼女を感じた。私の思考が全て彼女に伝わっていないか、心配だった。今思っていることが彼女に伝われば、きっと、彼女は私を心配するから。