電車の窓から21
2020年5月9日
夜が明けるまで2人でそうしていた。
食事も取らずに。
ずーっと泣いていたからか、よく眠れた。
夜が明けて、昼も過ぎている。
また、陽が落ちかけている。
目を開けると、ヒナが傍に居た。ヒナも眠っているようだ。
ばち、っとヒナが目を覚ます。
「おはよう」
「うん」
のそのそヒナは起きてきて、また、のんびりとした時間が流れる。
「ルナ、どうする?」
「どうするって……あ、ご飯食べようか、さすがにお腹減ったかな」
「いや……まぁ、いっか、とりあえず食べよう」
ヒナが食パンを引っ張り出してくる。
私は食器や飲み物を準備していた。
黙々と、ヒナはそれを食べる。
「そういえば、なんでこの部屋隣の部屋と繋がってるの?」
「いや、このアパート全部私のだからね」
「全部!?じゃあ私ら以外住んでないってこと?」
「そうなるね。音とか気になるの嫌だったし。買っちゃえば、隣の部屋と繋げられるしなぁって思って」
「だから、隣の部屋まで繋がってるのか、にしても凄いね、そんなことなかなか思いつかないというか」
「そう?なんか、そっちの方が便利かなって思って」
「そう……」
ヒナは平然としていた。ヒナは普通じゃないのかもしれない。
「まぁ、場所バレたし、他の所にでも行く?色々候補はあるけれど」
「え……?」
「東京の方にさ、何個かいいマンションがあるんだよね。この前みたいに人が来ると行けないから、オートロックついてる所とかが良いかなって思ってて」
「いや、いやいや、別に私はあんまり動く気は無いんだけれど……」
「いや、動いた方がいいって」
そうすると、ヒナはばさばさと部屋の資料を拡げ出した。
「ほら、こことかさ……」
東京の一等地、セキュリティも万端。
「いや、こんな高級地……」
「大丈夫大丈夫、安全だしね」
あれ?ヒナってこんな感じだったか?
もっとこう、自由で、気ままで、のんびり過ごしていて、私の好きな煙草の匂いもして。
「ヒナ」
「なぁに?ルナ」
その名前も違和感に溢れてきてしまっていた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?