電車の窓から5
2020年4月23日
昼過ぎになると、ヒナは眠ってしまった。
働き口を探そうかと思い、ヒナに相談したらあっさり否定された。何もしなくてもここに居ていいと言われた。
ヒナと同じ所で働きたくて、ヒナにそう伝えたら、ヒナはこんなことルナにさせられない、とこれもまた否定された。
お金は?と聞くと、ヒナは預金通帳を見せてくれた。私なんかが手の届かない程のお金がそこに入っていた。
最近宝くじに当たったんだ、とヒナははぐらかす。ヒナは、何者なんだろう。
ヒナをよく見る事にした。
よく笑う割には丸い目をしていたっけ。あほ面下げて眠るヒナは口角が下がっていて、肌は滑らか。茶色に染め上げられた髪は綺麗に根元まで染まっている。
何度も染めたような色をしているのに髪はサラサラだった。風に揺れて少し揺れている。
顔以外の肌を一切見せず、布団の中に丸まっている。母親の胎内から外に出たことを後悔したかのように。
私なんかより穢れを知らないヒナ。
私の事を匿うヒナ。
私のことをヒナはどう思うんだろう。
私は何故ヒナと出会ったのだろうか。
私は本当にヒナと一緒にいていいのか。
私はヒナを守ろうとするのだろうか。
私はヒナから逃げたりしないだろうか。
私はどうしようか。
ヒナはすやすやと眠り続ける。
私の中で図々しさが顔を出してきて、部屋の中を見渡した。
ヒナはどのくらいここに住んでいるのだろう。部屋自体は古く脆いのに、長くヒナが住んでいる形跡がない気がした。
煙草の匂いも元からなのかもしれない。もしかしたらヒナのとは違う銘柄の匂いでこの部屋が満たされているのかもしれない。
ヒナの事なんて、何もわからなかった。知らなかった。考えても考えても、答えにたどり着けなかった。たどり着ける気もしなかった。
ただ、ヒナと一緒にいると安心するのは確かな気がしていた。