電車の窓から9
2020年4月27日
食事を作り終える。
もしかしてだけれど、まだ夕飯を作るには早かったのかもしれない。
まだヒナが帰ってくるまでかなり時間がある。
洗濯機を回そうと思ったけれど、洗濯物はほとんど入っていなかった。
せいぜい2人の下着くらい。
ヒナが帰ってきたら、生活に必要なものを買いに行きたいな。ヒナはいいって言ってくれるかな。
何もすることが無かった。また、携帯電話の電源を切って机の上に伏せる。
部屋をゆるゆると歩いてみる。本棚には小説が詰まっている。
難しい漢字の題名ばかり並んでいた。
それに混じって、薄くて可愛い本が幾つか並んでいる。
「子供の名前辞典……?」
それに、何冊かの料理本、雑誌。どれも家庭を思わせるものだった。
ヒナの過去を詮索するような妄想が沢山出てくる。頭から振り払う。
手に持ってしまった子供の名前辞典を、パラパラとめくる。
ヒナに似合う漢字はどれだろうか。陽菜、陽奈、姫雛、緋南、どれも似合わない。棚に名前辞典を戻す。もうすることが無くなってしまった。
ベランダに出て、煙草に火をつける。
夜の冷たい空気が頬を刺した。
そろそろ慣れてきた、煙草の煙に呑まれて、思考を巡らす。取り留めもないこと。取り留めもないことを考えよう。
関係ないことを考えようと、昔聴いていた音楽やら、なんやらを必死に思い出していく。
けれど音楽とは不思議だ、思い出せば思い出すほど、どんな景色を見て聞いていたかまで鮮明に蘇ってきた。
思い出したくもない過去のこと。けれどきっと忘れては行けないこと。同じわだちは踏みたくない。
煙草を口から離して、様々な歌を口ずさむ。
小さな声で誰にも聞こえないように。
もう電車の通らない線路に向かって。
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