電車の窓から22
2020年5月10日
「私はここがいいの」
言うと、ヒナは目を丸くした。
「こんなおんぼろが…?」
「おんぼろ、うん、このおんぼろがいい」
「そっか、そうか、うん、じゃあこのまま」
ヒナは不服そう。
「ヒナはここが嫌なの?」
「ううん、でもまたルナに危ないことあったらいけないかなって」
「大丈夫、もうあの人は来ないよ」
「うん、そう、そうだよね」
ヒナはぐずぐずと歩いていく。
「もしかして、また来るって確信があるの?」
ヒナは黙った。
「ないよ、そんなの。分からないよ」
なんとなく、ヒナが本当の事を言っていないような気がしてならなかった。
「ヒナ、嘘つかないで」
「嘘なんて……」
ヒナは黙った。
ヒナは黙ってばかりだ。
ヒナ、ヒナに対しての疑惑。もしかして、私はずっとヒナの手の中で踊っている?
私は自由では無いのか。
けれど、違う。もしそうだとしても、私が踊っているのはヒナの手のひらの上だ。それでいいのでは無いか。ヒナの手の上だ。私の求めたヒナの手の上なんだ。
ヒナに乗るしか無いのかもしれない。