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レビュー:半沢直樹①〜④(文春文庫)

 多分、去年に上下2冊のものを読んだ以降だと小説はこの「半沢直樹」だけだと思う。テレビドラマが放映され、「倍返しだ!!!」というフレーズが流行ってからかなり経ってしまったが興味を持ってしまい読んでみた。私自身、元々ドラマ自体はあまり見ておらず、今更読んだことに関して少し天邪鬼な部分があったのは否定しない。

 率直に言えば、「爽快」だった。テレビを見ていれば分かるが、主人公の半沢直樹が銀行内外の嫌な奴らを相手に困難に立ち向かいながらも、最後には有無を言わさず論破し打ち負かすいう内容だ。
 本を読んであれだけ話題になっていたのも頷けた。もちろん、前提としてストーリーの構成や主人公が追い込まれてからのどんでん返しというは確かに読んでいて面白かった。そして半沢直樹とその仲間のキャラクターとその生き様もそれぞれ惹かれるものがあった。さらに付け加えると憶測に過ぎないが、人は理不尽な思いをしていたり、何かを我慢をし続けてきたりしていることがあるもので、普段は抑え込んでいたその気持ちを刺激するような内容であり、読んでいる(もしくは見ている)人からすると同時に自分の中にあるわだかまりを重ねていてスッキリするのかなと感じた。

 これらのストーリーの良いアクセントになっているのが半沢直樹を含む同期4人の飲みの席の会話だ。ふとした発言が後々のヒントになっていたり、会話をきっかけにストーリーが前進したりする。特に飲みの席は渡真利の情報通というキャラが活かされていたと感じるシーンが多かった。
 コロナでそんな風景も若干下火になってしまったが現実にも飲みをきっかけに何かが進むことは経験してるので、早く気軽に集まれる雰囲気になれば良いなと思う。もしかしたら、既に個々人のマインドの問題かもしれないが。

 閑話休題。
 全体を通して、銀行以外の存在がストーリーに現実味を帯びさせている。例えばストーリーの主要な企業や金融庁の黒崎と銀行及び半沢直樹の関係性が詳細に描かれていることで、銀行の立ち位置を立体的に把握することができる。また、「ロスジェネの逆襲」では時間外取引を使って買収を行う荒技など、実際に現実で起きたことを元に描かれているであろうことが随所に描かれており、現実とリンクさせて読むことで一層現実味を感じられる内容になっていた。
 キャラに関して言うと特に金融庁の黒崎は書籍とドラマ両方についてキャラが際立っており、オネエキャラというのもあり存在感が強く面白かった。現実にあそこまでネチネチやられたらたまったもんじゃないが。
 ドラマで強烈なキャラであった大和田常務だが、小説だと土下座はしておらず「俺たちバブル入行組」で出番は終わっている。あくまで悪い奴の1人という印象だった。
 半沢直樹の同期である近藤に関しては小説とドラマ共に割と不遇な経験をするキャラである。その近藤がいることで人と人の関わり合いに関してもキャラに人間味を感じさせている。大和田との取引に屈してしまうシーンも現実の人間の弱さを描いているようで、親近感すら覚えた。

 小説中の半沢直樹のセリフには現実の人に向けたメッセージみたいなものもあった。それは同時に作者の哲学でもあるのはないかと思う。細かいセリフは読んで貰えばいいので割愛するが、確かに自分も含めて文句を言うだけで実際には戦うことすらしない人は多いのが現実であるのは否めない部分もあるのかもしれない。でもやっぱり戦わない限りは何も起こせないと言うのは綺麗事ではなく純然たる事実なのかなと考えさせられる。確かに現実には自分ではどうしようもないことはあるが、できることはそう少なくないはずで何か不満があるなら、現実にあぐらを掻くのではなく、自分のコンフォートゾーンをガンガン飛び越えていく必要があるのではないかと思う。若干自分語りになったが、この本は作者の考えもストーリーの中で織り交ぜられていることで、ただストーリーを読んで面白いと思うだけでなく、普段の自分の仕事などに置き換えて考えさせられる側面もあるな感じる。

 最近、どこかの証券が不正に株価を釣り上げていたというニュースを見て、遠からず似たようなことは現実でも起きるんだなぁと思った。小説の影響もあって、何が起きていたのか非常に気になるので今後ウォッチしてみます笑

 現在、半沢直樹の5作目が出版されているようなので、文庫版が出たら読んでみようと思う。
 全体的に読みやすく特別な金融の知識が必要というわけはないが、金融の用語を理解して読むと一層面白い内容になっているので、調べながら読んでみるのも金融の勉強になるので教養にもいいかもしれないです。

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