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ベロア耳の妹


スマホのメモを整理していると
4年前、2020年12月29日に書いた
妹への手紙が出てきたので
ここにも共有しておこうと思う。



𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃𓂃

目が覚めると枕が濡れていました
あなたがいなくなって早いもので10年
妹はあなたの3倍歳を重ねました


あなたが会いにきてくれるのは
いつも頭を抱えた時で
ベッドの淵に頭を乗せて
静かにわたしを見つめてた


形のいい頭と
ビロードの耳が恋しいです


おやすみのチューが無くなって淋しいけど
私は笑顔が増えました


カミナリがこわい夜は
大きな身体を縮こまらせて
わたしの膝に乗ってきましたね
空が光る日は
つい、そんなことを
思い出してしまいます



ピザを食べた夜は
必ずゴミを漁って
ママにこっぴどく叱られていましたね
わかっちゃいるけどやめられない
そんなあなたも愛おしかった



夕飯になると
テーブルの下から顔を出して
ナイショだよと言われながら
おいしいおかずを貰っていましたね
くびわに乗っかるお肉はきっとそのせいね



他の子とすれちがっても
ゆっくりとしっぽを振って
穏やかなあなたは本当にお利口さんでした



人を喜ばせることが大好きで
うなずくことまで覚えて
おやつ欲しい?と聞くと
何度も首を縦に振って
みんなを笑顔にしてくれましたね



はじめて海を見たときは
どう思ったかな?
砂浜に均等に押された足跡
波に向かって飛び込んでゆく
足が遅くて鈍臭いあなたが
かっこよく見えました



あなたが何も口にしなくなった日
リビングのふわふわの掛け布団の上で
添い寝しましたね
休みがちだった私は
少し痩せた背中をトントンしながら
歌いました




大好きだったお風呂
これが最後かなぁと思いながら
こぼれる涙をシャワーで流しました



わたしたちの悲しい顔をみて
あなたは終わりを悟っていたかもしれません
最後まで笑った顔を作れなくてごめんね



パパがあなたの名前を大声で呼んだのは
まだ暗い明け方のことでした
急ぎ足で駆ける階段の音を聞いて
私は布団を頭までかぶりました



学校を休んだ私は
煙突から黒い煙がもくもくと
空へ上がっていくのを見て
初めて声を上げて泣きました




あなたがいないリビングに慣れ始めた頃
赤いくびわを見つけました
あなたのしっかりとした毛がまだ残っていて
私は胸に抱きしめました




過ごした時間は短かったけれど
あなたがくれた思い出は
どれも鮮やかでした



私に子どもが産まれたら
あなたのお話、いっぱい聞かせるね



ランドセルをしょったまま
目をぎゅっと瞑った私
プレゼントはプレステではなくて
おなかがでーんと出ているあなたと
目が合いました
ほんのりとミルクの香りがしたことを
未だに覚えています


私のお家に来てくれてありがとう
私をお姉ちゃんにしてくれてありがとう



また、会いに来てね





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