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『マザー・スノー』ママは魔法使い②
【「相手の正中線上に入ったらアカン。
つまり、真正面に入るなっちゅうことや。
これも、相手さんに緊張感を与えるさかい。斜め45度くらいの場所に居るのが望ましい。」】
私、優希が前の人生で『高橋 美幸』でいたころ。スナックのママになるまで働いていたキャバレーの先輩たちが、仕事終わりに私の住むアパートでたびたび酒盛りをしていた。
その時先輩がほろ酔い気分で話してくれた『対人スキル』が、時を超えた今、『田村 優希』である私を助けることになる。なんとも不思議なことに。
『高橋 美幸』であったころの私は、自分で言うのもなんだが、実に『聞き上手』であった。
そして時折挟む『合いの手』が、妙におかしみがあって、笑えるのだ。
それは関西地区特有の『ノリ』とでも言うか、特に大阪特有の『ワルノリ』とでも言うか。
キャバレーやスナックといったところに来るお客さんの大半は、愚痴を聞いて欲しい人たちだった。
会社の上司にこんなことを言われた、最近の若い世代は甘えている、うちのカミさんはどうのこうの・・・。
美幸であった私は、そんな話ばかりを毎日繰り返し聞いていたのだが、なぜだか『相手に対する興味』というものが、損なわれることがなかった。
それは恐らく美幸が幼い頃、自分の母親から『最後まで話を聞いてもらったことがなかった』からなのかも知れない。
美幸の母親はとてもしっかり者で、『自分こそ正義』な人だった。
だから、幼い美幸が何か話したいことがあっても、母親が全部聞き終える前に、娘の話をさえぎって『解決策』なるものを提示してしまうのだ。
本当はただ、自分の気持ちを聞いて欲しかっただけなのに。
そんな風に育ったものだから、美幸は決意したのだ。
「自分が母親になったら、絶対に子どもの話をちゃんと聞いてあげる母親になる。」と。
現実はうまくいかず、母親にはなれなかった。
母親になりたかった美幸は、その情熱を仕事に注いでいたのだろう。
でも、それで良かったのかもしれない。結果として、美幸はたくさんの人たちに愛され、慕われた『母』になったのだから。
そんな『美幸』の魂を持って生まれてきたのが私、『優希』だ。
残念ながら私は、美幸ママが持つような『他人に対する興味』というものが薄く、人生を投げやりな感じて生きてきた。
一生懸命に自分の道を切り開こうとしても、暮らしぶりの見栄のために借金ばかり作る両親が、いつもその行く手を阻んできた。
自分は奨学金を借りることも、家を出ることも許されなかったのだ。
借金返済があるから。
でも、そんな両親のことを憎むことも出来ずにいた。
両親はいつも陽気でヘラヘラと無邪気に笑ってくれているから。
『美幸ママ』の記憶が戻ってから、私は自分の中に『炎』を宿したと同時に、自分の両親に対して至極当然な『怒り』を覚えた。
これは初めてのことだ。
美幸ママ、彼女はきっと『魔法使い』だったに違いない。
この旅が終了したら、私はあの家を出ようと思う。
自分の人生を、今度はちゃんと生きよう。